インド映画夜話

Silsiilay 2005年 132分(134分とも)
主演 ブーミカー・チャウラー & リヤー・セーン & タッブー
監督/脚本/原案 カーリド・モハメド
"心と心が出会う時、そこに新しい物語が…"


OP Jab Jab Dil Mile (心が出会うときはいつも…)


 ごきげんよう皆様。これから、ある物語をお見せいたしましょう。
 それは、喜怒哀楽に満ちた3人の女性たちの物語。3人それぞれに面識はなくとも、共通して人生の苦境を味わっている。そんな、あなたの隣にいるかもしれない人たちの物語を…。

第1話 約43分
主演 ブーミカー・チャウラー & ラフール・ボース

 ハイデラバードの人気女優ズィアー・ラーオ・カティヤールは、大ヒット映画の波に乗って南インドからヒンディー語映画界へと活躍の場を広げ、その人生を大きく変えていった。
 しかし、ムンバイに移住してからは恋人ニール・カシュヤプとの連絡は途絶えてしまい、音信不通の彼の行方を探らせると……ニールは別の恋人と仲良くなっていて、最近ズィヤーの生活するムンバイへやって来ていたことが判明する…。


第2話 約37分
主演 リヤー・セーン & ジミー・シェルギル & アスミト・パテール

 商学士を得て、故郷デヘラードゥーンからムンバイにやって来たアヌシュカー・ヴァルマー(愛称アヌシュ)は、大企業GWプロダクツに入社し電話受付業を担当。そんな中、富豪の息子ニキル・ラーイと恋人になるも、いつも強引な彼に迫られ続け自分が大切にされていないと落ち込む日が続く。
 そんな彼女を、遠巻きに気にかける同僚タルン・アーフージャーは、アヌシュカーに何かと声をかけて消極的ながら彼女の気を引こうとするものの…。


第3話 約42分
主演 タッブー & ケイ・ケイ・メノン

 レハーナー・アーメドボーイは、アンワル・アーメドボーイの第2夫人である。
 7年前にアーメドボーイ夫人が死去した後、アンワルはスーラトに住んでいたレハーナーを第2夫人として迎え入れた。その時彼女は、結婚に際して同意も拒否もしなかった。ただ、神の御心のままに物事を受け入れただけ…。
 結婚後、レハーナーは度々お屋敷の中で言い知れない孤独を感じるように。仕事で家を空けがちな夫に代わり、先妻の子イナエトと家族として関わっていくレハーナーだったが、イナエトは時々彼女に奇妙な眼差しを送って来る…。
 ようやく出張から帰って来た夫アンワルだったが、家族にはそっけない態度を崩さず、程なく仕事と称して航空機客室乗務員のプリーティの元へと行ってしまう…。


*各エピソードの所要時間の合計が、映画全体のランタイムと合わないのは、合間に入るシャールクの前口上分の時間を数えてないからですねん。


挿入歌 Ban Jaiye (心の中へ、お客様を迎えよう)

*第1話より。


 タイトルは、ヒンディー語(*1)で「鎖」「連鎖」の意とか?
 ムンバイを舞台に、3人の女性を主役にしたオムニバス・ロマンス映画。
 似たような名前の、1981年のヒンディー語映画「Silsila(継続)」、1987年のパキスタンのパンジャーブ語映画「Silsila」、2018年のパキスタンのTVドラマ「Silsilay(境遇)」は全部別物、のはず。

 ムンバイを舞台に、同じ時間軸内で起こる3人の女性主人公たちの恋愛劇をそれぞれに見せていくお話で、映画の終盤以外は3つの物語は関連性を持たないものの、脇役で共通して出てくる人(*2)もいて、同じ舞台、同じ時間の中で同時進行しているお話であることを強調する。
 映画冒頭と各エピソード冒頭に、映画スター シャー・ルク・カーンの軽快な前口上が用意され、3つの恋愛劇が共通してセクシー&アンニュイなお洒落映画然としている「シティ派だゼェ?(死語)」って声が画面全体から聞こえてくる作りで、オムニバス映画によくある多角的な社会批判とか、女性の苦境を訴えるとか言う要素はほぼ無し。それぞれの主人公が持つ「愛して欲しい」と言う望みと、その望みが叶えられない状況に対しての3人それぞれの結論の出し方を楽しむ、恋愛に全振りしたムンバイのアンニュイな都会人たちの暮らしぶりがアピールされた映画でもあるか。同じような恋愛オムニバス映画として、本作以後の07年公開作「Salaam-e-Ishq(ようこそ、愛よ)」とか「Life in a... Metro(ライフ・イン・ア・メトロ)」の先駆けと見ることもできそうで興味深…い?

 監督を務めたのは、映画監督兼脚本家兼映画批評家兼雑誌編集者のカーリド・モハメド。
 父親は、ジョードプル藩王国(*3)の藩王ハンワント・シン・ラトール。母親は女優ズベイダ・ベーガムになる。
 94年のシャーム・ベネガル監督作ヒンディー語映画「Mammo(マンモー *4)」の原案&脚本を担当して映画界入り。00年には、自身の脚本を元に「Fiza(フィザー・イカムッラー)」で監督デビューする。翌01年には、自身の母親の生涯をモデルにした「Zubeidaa(ズベイダー *5)」の脚本も担当。ヒンドゥスタン・タイムズに入社して編集者・映画批評家として活躍する中で、多数の著作物を刊行させ、映画雑誌フィルムフェアの編集長も務めている。
 本作は4本目の監督作で、以降09年には「デリー6(Delhi-6)」に出演、数本のドキュメンタリーの監督&脚本も務めている。

 第1話の主人公ズィアーを演じているのは、ズィアーと同じく南インド映画界(*6)のスター女優であるブーミカー・チャウラー。
 本人はデリー出身のパンジャーブ系の人ながら、テルグ語映画デビューしてテルグ語圏で絶大な人気を勝ち取ってる所は役柄と同じ。数少ないブーミカーの北インド映画出演作だ!と注目して見てみて「ほーん」って感じにアンニュイにはなりましたけど、愛を失ってなお、愛する男の子供だけは欲しいと願う女優ってのは…うーん、まあ、ねえ。業が深い、と取れば美し恐ろしき物語か…いや、そうかな…? その着地点は都合のいい女になってない…?。ディヴィヤー・ダッタ演じる妹(*7)との関係、その恋愛観の違いなんかもハラハラさせる要素ではある。男キャラはクソだけど。

 第2話の主人公アヌシュカーを演じているのは、ベンガル人女優リヤー・セーン(生誕名リヤー・デーヴ・バルマー)。
 1981年西ベンガル州カルカッタ(現コルカタ)生まれで、父親はトリプラ王族のバーラト・デーヴ・バルマー。母親は女優ムーン・ムーン・セーン。姉にベンガル語(*8)映画界で活躍するライマー・セーンがいて、母方の祖母も大スターであったスチトラ・セーンになる(*9)。
 母親の出演作である、91年のヒンディー語映画「Vishkanya」に子役出演し映画デビュー。コルカタのファッション工科研究所で宝飾デザインを学び(*10)、モデル業を経て、19才でタミル語(*11)映画「Taj Mahal(タージ・マハル / 00年タミル語版)」で主演デビューを果たしてから、本格的に女優活動を開始。01年の「Style(スタイル / 01年ヒンディー語版)」でヒンディー語映画に主演デビュー。同年の「Mone Pore Tomake」でバングラデシュ映画デビュー、05年の「Ananthabhadram」でマラヤーラム語(*12)映画デビューし、同年の「It Was Raining That Night(その夜は雨だった)」で英語映画に、08年の「Nenu Meeku Telusa…?(俺を知っているか?)」でテルグ語(*13)映画に、10年の「Abohoman」でベンガル語映画に、13年の「My Love Story」でオリヤー語(*14)映画にもデビューしている。
 ヌードポスター出版や出演作でのキスシーンなど、扇情的な話題を多く振りまく人物としても有名で、その要素をかわれて本作のディープキスシーンへの抜擢となった…のかどうなのか。3つの話の中では一番印象が薄く、愛する男と愛してくれる男の間で揺れる女心を演じる…には、やや脚本も演技もぶっきらぼうだったような気はする。恋人キャラはよりクソだけど。

 第3話の主人公レハーナーを演じるのは、南北両映画界で活躍する演技派女優タッブー。
 ブーミカーやリヤーとは約20年のキャリアの差を見せつけるような存在感と、孤独な主婦の裏側に渦巻く感情を繊細に見せつける演技力を発揮しておりました。愛のない結婚生活、義理の息子からの狂おしい愛情、自身に与えられた自由と孤独、主体性なき人生をおくってきたレハーナーが決断する、ラストの迫力も見事なもの。イスラーム様式の調度品に囲まれた部屋、抑制された色彩のサリーの着こなし方、気だるげな様子もお美しい。ラストにズィアーとの関わりによって第1話と第3話の愛の形が意外な合流を見せるあたりも名優同士の丁々発止の演技力を見るようでカッコエエ構成とは言える。男キャラはクソだけど。

 全体的に、体型アピールの強いファッションに身を包んだ登場人物が登場し、ミュージックビデオ的な映像の数々、恋愛の悩みばかりが強調されて生活感のない家や部屋の様子と、セレブなファッショナブル映画を目指した感のある恋愛映画展開は今見ると流石に古臭くはある。
 ま、その辺の都会アピールの野暮ったさをキザっぽく笑い飛ばすシャールクの軽口が入ることによって、小粋なアンニュイ映画へとイメージが変化させられている所はいい感じに洒脱な後味。同じようで微妙に異なる、三者三様の三角関係は、自己実現しにくい都会人のイケズな性格によってより解決不能な様相を呈している感じには、見えるよねえ…。



挿入歌 Meri Chandi Tu (あなたは宝石)

*第2話より。



「Silsiilay」を一言で斬る!
・類型的なのは脱し切れてない感じだけども、『永遠の愛』なるものを信じていなそうな皮肉的恋愛劇こそが、アンニュイなフランス映画的になる要素ですかね?

2023.8.11.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。フィジーの公用語の1つでもある。
*2 レハーナーのママ友とか。
*3 現ラージャスターン州ジョードプルを首都とした、ラージャスターン州中央部〜南西地域を統治した国。旧マールワール王国。
*4 シャーム・ベネガルのムスリマ3部作の第1作。
*5 シャーム・ベネガルのムスリマ3部作の第3作。
*6 テルグ語映画界。
*7 実年齢では、ディヴィヤーの方が1才年上らしいけど。
*8 北インドの西ベンガル州とトリプラ州、アッサム州、連邦直轄領アンダマン・ニコバル諸島の公用語。
*9 その他、父方の親族にはインド各地の王族が名を連ねる。
*10 その後も、自身の出演作での衣裳はいつも自作したものを着てるそうな。
*11 南インド タミル・ナードゥ州の公用語で、スリランカとシンガポールの公用語の1つ。
*12 南インド ケーララ州と連邦直轄領ラクシャディープの公用語。 *13 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*14 東インド オリッサ州の公用語。