インド映画夜話

Simran 2017年 124分
主演 カンガナー・ラーナーウト(脚色&台詞も兼任)
監督 ハンサル・メータ
"さあ行けシムラン、自分の人生を!"




 米国ジョージア州アトランタに、両親と同居するホテル清掃員プラフル・パテール(通称プラフ)は、近々引越しを計画中。
 7年間貯めたお金と政府補助ローンを活用して、80万ドルの部屋の契約を予定しているプラフだったが、一人暮らしを決心する原因である父親との喧嘩にたまりかねて、引越より先に従姉妹アンバルとラスベガス旅行に出発してしまう。

 ラスベガスにて、初日に大勝ちしたプラフは豪遊に次ぐ豪遊。しかし気づいた時には、貯金を使い果してしまったためにローンの信用格付を落としてしまい、引越契約は雲散霧消。さらにはリベンジでカジノ再訪後、酔った勢いでその場にいた男から3万2千ドルの借金も抱えてしまう。
 実家に戻って自身のお見合いとアンバルの結婚式に出席するプラフだったが、そこでラスベガスの男に呼び出され「借金しといて逃げ出すとはどういうことだ? 利子も含めて5万ドル返せ…10日以内に!」と拳銃を突きつけられてしまい…!!


挿入歌 Simran (そうさシムラン [生意気盛りのシムラン! 君が次になにをするかなんて、誰にわかる?])


 タイトルは、劇中で主人公が銀行強盗中に名乗る仮名。
 アメリカにて、"Bombshell Bandit(可愛らしい強盗)"とか"Gambling Queen(ギャンブルの女王)"と言うあだ名で有名になったNRI(在外インド人)の看護師サンディープ・カウルの身に起こった実話を脚色した、ヒンディー語(*1)+英語映画。
 インドの他、クウェート、オーストラリア、英国、アイルランド、ニュージーランド、米国でも一般公開。英国では、年齢制限緩和のために一部カットされたバージョンでの公開になったとか。

 社会派映画「アリーガル(Aligarh)」を手がけたハンサル・メータ監督の、12作目となる監督作。
 映画全編がアメリカを舞台とし、そこで細々とながら普通の中流家庭の一般人として暮らす主人公が、父親との軋轢や離婚経験などを抱えながらも自分の人生を堅実に積み上げていこうとしながら、その計画がふとした事から狂い始め銀行強盗に走らざるを得なくなる様を描いていく……んですが、主人公の性格や映画全体の雰囲気があっけらかんとしているんで、シリアスな不幸もの映画でも「俺たちに明日はない(Bonnie and Clyde)」みたいなニューシネマ的な映画にもならずに、なんとも飄々としたトボケた雰囲気の日常劇になっている(*2)。どんな危険な状況や不満・不安に襲われそうにになっても、それでもなお事態を打開しようと(微妙に斜め上に)奔走する女性の強さを描いた映画、と評することもできるのか…そうまとめるのもなんか違う感じのする映画なのか…って不思議な映画ですわあ。
 エンディング直前の「その後はこうなりました」と言うクレジットによるトボけたオチに「おい!」とツッコみたくなるのも本作の魅力。

 前半のラスベガスで豪遊する主人公のあたりは、同じくカンガナー主演&台詞担当作「クイーン(Queen)」を彷彿とさせる部分もあるけれど、あちらより都会慣れしてる本作のプラフの、対人関係のスレ方もリアルというか見事に中流育ちっぽいというか。ラスベガスに集まるセレブたちの真似して得意になってる危うさなんかも、しっかりきっちり器用に演じられてしまうカンガナーの演技力も、後半の必死な強盗ぶりの可笑しさ・可愛らしさと相待って「よーやるわ」と感心してしまいますことよ。「クイーン」の他、カンガナー自身が監督も務めた「マニカルニカ(Manikarnika: The Queen of Jhansi)」共々、自身の売りどころをハッキリ認識して受けて立ってるオーラがバシバシ漂ってくるのも良きかな。

 ともすれば犯罪擁護ととられかねない物語ではあるけれど、そんな雰囲気をギリギリの所で留めているのは、お話の飄々さとともに「アメリカロケのインド映画」という距離感からですかねえ…。これがインドを舞台にした強盗の話だったら、非難轟々になるかもっと荒唐無稽度かシリアス度を増やすかしてそうだなあ…とか思えてはくる。
 飄々としているのは、主人公のキャラ造形とともに音楽の力もあるかもしれない。プラフが初めて強盗する時にかかるBGMののんびりさが、日常の延長における「不条理に出会った人」の「パニックによるななめ上の対処法」を強調する可愛らしい映画的魅力を描き出すのも見所。いまいちやろうとしていることがキマらないプラフの楽しさ・必死さ・悩ましさが、色々と苦労の多い登場人物たちを取り巻く人生劇の苦悩をブラックに笑い飛ばす強さにもなって現れてる一本でしょうか(*3)。

挿入歌 Lagdi Hai Thaai (赤ん坊が踊る晴れ姿は、なんて可愛いのか)



「Simran」を一言で斬る!
・アトランタ周辺の銀行のセキュリティって、あんな感じでいいの…?

2022.7.1.

戻る

*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 ラスト近辺は、多少「俺たちに〜」的な雰囲気もでてくるけど。
*3 …って、もっともらしくまとめる事自体斜め上な見方をしてるような気もしないではない。ムゥ。