インド映画夜話

Style 2006年 159分
主演 プラーブ・デーヴァ & ラーガヴァー・ローレンス & チャールミー・カウル & カマリニー・ムケルジー
監督/脚本/原案/振付 ラーガヴァー・ローレンス
"困難は人生の1部分。勇気によって打ち勝とう"


挿入歌 Rock & Roll (ロック&ロール)


 全印ウエスタン・ダンス選手権に優勝して、世界大会出場権を手にした人気ダンサー ガネーシュはその日、交通事故に遭い病院に搬送されてしまった。意識を取り戻した時、彼はダンス人生の終わりを告げられてしまう…!!

 同じ頃。
 ヴァイザーグ(アーンドラ・プラデーシュ州ヴィシャーカパトナムの略称)でダンス教室の掃除夫として働く男ラーガヴァは、密かに友人たちとダンスチームを組んで近所のダンスショーに売り込みを開始。教室に通う大学生プリヤーにその実力を見出されて仲良くなるものの、ダンストレーナーから「仕事をしないなら出て行け」と解雇を突きつけられてしまう。
 しかし、トレーナーの罵倒をヒントに「自分のダンス教室を開く」夢を見つけたラーガヴァは、早速近所のボロ倉庫を改装しようとするものの住民たちはそんな彼らを「貧乏人」と罵り話も聞いてくれない…。


挿入歌 Style Style (スタイル・スタイル)

*ホント、どんな身体してんのローレンス!


 ダンサー出身の振付師兼男優のローレンス2本目の監督作となる、テルグ語(*1)ダンス映画。
 のちにタミル語(*2)吹替版「Lakshyam(目標)」も公開。

 いやー、監督&主演のローレンスにしろ、もう一人の主人公ガネーシュ演じるプラーブ・デーヴァにしろ若い若い。映画全体も、今となっては今ひとつ垢抜けない泥臭さ満載に見えるものの、当時のカッコ良さを詰め込んで「ダンス最高!」を見せるための手練手管を色々試してる感じにも見えてくる。のちのダンス映画「ABCD(エニボディ・キャン・ダンス)」とか「ハッピー・ニューイヤー(Happy New Year)」の土台はこの辺にあるんかね、と思えるほどには派手派手で勢いの強いインパクト。

 復讐譚や成り上がりサクセスストーリーの物語は、そのボリュームだけでもお腹いっぱいにはなるものながら、その見せ方はわりとベッタベタで、ツッコミどころ満載の野暮ったい演出が多いんだけど、そうであればあるほど、劇中のダンスパフォーマンスがより輝いて見えるんだから「ダンス映画はこうでなくちゃ!」と叫びたくはなる。とにかく、主演を務めるダンサー出身のローレンス&プラーブ・デーヴァがとことんまで「ダンサー最高!」をアピールするための映画でありますわ。

 ローレンスの監督デビュー作「Mass」でも主役級を務めた女優チャールミー・カウルが前半のヒロイン シュルティで出演。対する後半(と序盤)のヒロイン プリヤーとして出演しているのが、ベンガル人女優のカマリニー・ムケルジー。1980年西ベンガル州カルカッタ(現コルカタ)生まれで、父親は海軍技師、母親は宝飾デザイナーの家の第1子。
 幼少期から演技に興味を示して、学生時代に可能な限り舞台演劇に参加し男役を得意としていたという。古典舞踊バラタナティヤムを習得する傍ら、英文学位を取得し、ニューデリーでホテルマネジメントを学ぼうとするものの、すぐにムンバイに移住して演劇に専念する。その評判から、女優レーヴァティに声をかけられ、彼女の2作目の監督作となる04年のヒンディー語(*3)映画「Phir Milenge(また、逢いましょう)」で映画デビュー。同年公開の「Anand」でテルグ語映画&主演デビュー(*4)して、ナンディ・アワード主演女優賞を獲得する。
 本作と同じ年公開作「Vettaiyaadu Vilaiyaadu(狩猟と遊戯)」でタミル語映画デビューもしていて、10年には「Savaari」でカンナダ語(*5)映画に、「Kutty Shranku(心ある船乗り)」でマラヤーラム語(*6)映画に、12年の「Aparajita Tumi(無敗のあなた)」でベンガル語(*7)映画デビューもしている。

 ダンサーに大事なのは個人の人生におけるスタイルだ、と断言する主人公たちの饒舌な説明台詞はどこまでも状況や心情を説明する長台詞になるものの、そのために次々と展開する物語の中で悩まない登場人物たちが、自分の幸福と熱狂を求めて踊り出す、そのエネルギッシュさが特大級。
 まだまだブイブイ言わせてる感のある若者ラーガヴァを演じるラーガヴァー・ローレンスの元気さも楽しいし、酒飲まされて暴れる酔拳使いかチャップリンかって呂律の回らないアクションシーンの遊びも微笑ましい。身体能力のトンデモなさに対して、集団ダンス構成ではまだ00年代後半に見える複雑さがそこまで出てきてないのも、今見るとのんびり楽しいポイントか。

 それとは別に、ダブルヒロインの後押しや母親から受け継いだダンス魂など、母性による救済(*8)が強調される所も、物語的には注目所。悪役が、兄弟で陰謀をめぐらしてダブルヒーローを追い落とそうとして失敗するのと良い対比になってはいるし、主人公の悲惨な過去で立ちはだかる障壁が「父性」による面が大きいのも、この辺を強調する作り。ま、そういう対比構造できた映画が、最後は映画スターのチランジーヴィーやナーガルジュナによる(かなり強引な)ゲスト出演と助力で解決するんだけども(*9)。

 なにはなくとも、実際に下働きからダンサーとして出世したラーガヴァー・ローレンスの人生を引き写すかのような、インド式ダンス・サクセスストーリーの泥臭さと、それ故に輝くダンスのエネルギッシュさは、のちのインド映画への影響も含めて一見の価値ありまくりですゼ!!

挿入歌 Raa Raa ([挑戦が] 手招きする)


受賞歴
2006 Filmfare Awards South 南インド映画振付賞(ローレンス)
2006 Nandi Awards 振付賞(ローレンス)・子役賞(マスター・ラーガヴァ)


「Style」を一言で斬る!
・ヴァイザーグのピザハットは、あんなド派手配色でダンスホールみたいな都合のいい内装なのかい?

2022.6.17.

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*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*2 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*3 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*4 ただし、声は歌手兼声優のスニーター・ウパドラスタの吹替。
*5 南インド カルナータカ州の公用語。
*6 南インド ケーララ州の公用語。
*7 北インド 西ベンガル州とトリプラ州の公用語。
*8 母性を犠牲にした救済?
*9 あの2人は、オチ担当なのか!