インド映画夜話

Sumo 2025年 116分(118分とも)
主演 シヴァ(脚本&配役&ロケハンも兼任) & 田代良徳 & プリヤー・アーナンド
監督/原案 S・P・ホシミン
"夢を目覚めさせよ。その時、失敗は敗北ではなくなる"




 その日、怪しい荷物を運ぶ飲酒運転の男が補導され、警察署に連行された。
 噛み合わない会話が続く中、男は語り始める…「これは大事なもので、中身は見せられないのです。私は、毎年6月21日は必ずしなければならない事があります。あれはそう、2021年のジャック・サーフィン・クラブでの出来事が始まりでした…」
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 当時、サーフィン・クラブのキングと称されていたクラブ・スタッフのシヴァだったが、恋人カニーに彼女の父親を紹介されるも「サーファーは甲斐性なし」とばかりに結婚話は拒否されてしまう。
 落ち込むシヴァは、あの6月21日の朝、海岸に漂着した人間鯨…初めて見た相撲取り…を発見。半裸状態で言葉を発する事も出来ないこの人物は、最初に目に入ったシヴァの指をつかんで離さないため見捨てる事も出来ず、シヴァはこの男の世話を始める。医者の診断では肉体的には正常だが、精神退行で1才の子供と同じ精神状態だと言われ、警察に行っても事件捜査を理由に話も聞いてもらえず、カニーと共にサーフィン・クラブ経営者ジャックを説得してクラブに住まわせ"ガネーシュ"という名前を与えるシヴァだったが、その間に地元ギャングのボス ヨーギ・バーブがカニーに一目惚れしてストーカーし始めたから気が気ではない。

 そんなある日、小学生の弟の課題に付き合って世界中の国旗を店で見繕っている時、ガネーシュが日本国旗(とラジニカーントの写真)に異常な関心を示したことから「もしかして、日本人なんじゃないか?」と日本旅行代理店員カサ・カサ・アサヒ・サケに相談に行く事に。早速ガネーシュの顔写真を日本に送って調べようとするアサヒ・サケだったが、翌日のシヴァとの面会時に「あいつを日本に来させるな」と言う電話を受け取ってしまい……


挿入歌 Ganapathy (ガナパティ讃歌)

*ガナパティとは「群衆の主」の意で、庶民に幸福をもたらす現世利益神としての象頭神ガネーシャの尊称の1つ。「ガネーシャ」と言う神名も同じく「群衆の主」と解される名前ではある。


 タイトルは、劇中でも登場する日本の伝統競技「相撲」。
 予告編発表時、相撲取りがインドに漂流して活躍する映画と言うこと、その相撲取り役に元相撲取りの田代良徳さん出演のインド映画である事が、日本でも記事になったりネットを中心に(一瞬)話題になった日本ロケ・タミル語(*1)映画。

 映画前半はインドのビーチ(チェンナイ?)を舞台にしたドタバタコメディ、後半から日本を舞台にしたスポ根相撲映画へと変化していく日本推し映画ではあるけれど、相変わらずのインド側から見た「妙な日本」が楽しくもあり「なんでやねん」とツッコみたくなる映画でもあり…。2015年の「Vai Raja Vai(キングを手札に)」に引き続いての日本ロケ映画のヒロインにプリヤー・アーナンドが出演している映画でもあるけれど、「Vai Raja Vai」よりはお話に関わって出番が多いのも良きかな(*2)。

 なにはなくとも、インドの浜辺に漂着した相撲取りと言う絵面だけで問答無用で続きが気になる強烈な導入がズルい。その謎の相撲取りを実際に相撲取りをしていた日本人 田代良徳さんが演じているこだわりも嬉しいし、相撲をさも武士道にならった相撲道のような精神性でグイグイ推してくるスポ根路線も力強い。「シコふんじゃった。」みたいな相撲映画が日本でも作られているけれど、相撲取りの撮り方として、こんな方法もあるんか、と日本の外の視線で魅せてくれる相撲も在り方が「へえ」って感じ。もちろん、劇中に数多ある「妙な日本」像へのツッコミどころも満載なトンチキ面も無視できないけれど、まあまあ楽しいからいっか、となってしまうノリの軽さが映画全体をポジティブなものに導いている。

 本作の監督を務めたS・P・ホシミン(生誕名シャンカラン・ペルマール・ホシミン)は、「ロボット(Enthiran)」や「マッスル(I)」のシャンカル監督の元で助監督をしていた人で、タミル語・テルグ語(*3)同時製作映画「Apple(テルグ語版タイトル Premante Suluvu Kaadhura)」で監督デビュー予定だったものの、撮影が80%済んだところで制作凍結されてお蔵入りに。その後に臨んだ「February 14(2月14日)」が2005年に公開されて、こちらで監督&脚本デビューを果たした。以降、タミル語映画界で活躍中。自身の映画制作プロダクション"ホシミン・プロダクション"を設立して、スリ・アンナマル・プロダクションとの共同製作映画「Rainbow」でプロデューサーデビューもしているとか。

 主人公シヴァを演じたのは、1982年タミル・ナードゥ州ナーガパッティナム県(現ティルヴァールール県)ウドゥマライペッタイ(*4)生まれのシヴァ。
 ラジオ・ミルチでDJとして活躍して、"ミルチ・シヴァ"と呼ばれる人気を得る中、2001年のタミル語映画「12B」「Aalavandhan(彼は裁く)」、ヒンディー語(*5)映画「ナヤク(Nayak: The Real Hero / *6)」の3本にノンクレジット出演。2007年のタミル語映画「Chennai 600028」で主演デビューして、ヴィジャイ・アワード新人男優賞ノミネートされる。以降、主にタミル語コメディ映画で活躍。
 2010年の主演作「Va(1/4)」で挿入歌の1曲"Saudi Basha"の作詞も担当(*7)。続く2013年の主演作「Sonna Puriyathu(貴方のものにはならない)」では、挿入歌"Rosa Hai"で作詞とともに歌手も務めている。2014年の「Aadama Jaichomada(戦わずして勝つ)」では台本制作を担当し、本作で主演の他脚本デビュー。役者兼ライターとして活躍して行っている。

 なんで東京湾(?)の船から海に投げ出された相撲取りが南インドのビーチに流れ着くんだ、ってツッコミはさて置き、南洋ビーチに似合う? 色彩豊かな布地から相撲取りガネーシュの衣裳を作って着させられちゃうガネーシュの姿も可愛らしく素敵。「日本人なのでは?」のきっかけが日本国旗とラジニカーントの写真に執着したから、と言うブッ飛び理論も素敵ながら、突然出てくるカサ・カサ・アサヒ・サケの怪しさ満載の眉毛も忘れられないインパクト。映画前半、ずっと何か食べてるガネーシュが、正気を取り戻して相撲取りとして再起しようとする時の主人公シヴァとの擬似父子関係の熱さも、幼児退行のシーンがあるからこその涙腺ポイント。1才の子供と成熟したアスリートを演じ分ける田代良徳さんの所作の違いも熱い。

 ま、2016年の日本ロケ映画「ジャンボ(Jumbulingam)」と同じく、山奥の隠れ里的な場所で修行僧みたいな特訓している相撲部屋のイメージはなんだろう…とか、そこでヤクザからの借金を迫られて嫌々芸能活動を強制される相撲取りと師匠の心労とかが、なんか「ラストサムライ(The Last Samurai)」みたいなノリだなあ…とかつい思ってしまうインドから見た相撲イメージは、何に起因してるんだろうかとか、不思議な描写も多い。
 ガネーシュこと田代(*8)の四股名が存在せず、ラストバトルの相撲大会出場力士も、「Tashiro」と名字表記で対戦表が登場するあたり、相撲というより総合格闘技のノリ。インドで相撲興行する時は、是非ともこの映画を参考にするとインドでの受けも良く…なるかなあどうかなあ。相撲に対して、レスリング的なものと思ってるイメージと、「ラストサムライ」における武士道みたいなロマンチシズムが融合している感が強い。それはそれで日本人側としても興味深い描写なわけだけど。
 まあ、2008年のヒンディー語映画「神様が結びあわせた2人(Rab Ne Bana Di Jodi)」に出てきたクシュティー(*9)的な似非相撲ではなく、ちゃんとルールを調べて、日本側の協力のもとに相撲と言う競技を描いて見せる映画が出て来たことをう素直に楽しみましょうぞ。うん。続編企画とか、いつか立ててもええんやでー。



歌詞付き映像 Aazhiye (なんてことだ [人生には底もない。空もなければ命もなし])




 


「Sumo」を一言で斬る!
・日本旅行代理店員カサ・カサ・アサヒ・サケは、漢字で書く時はどんな字になるんやー!(アサヒ・サケ、とも言ってたので、カサ・カサが名字?)

2026.1.2.

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*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。スリランカとシンガポールの公用語の1つでもある。
*2 と言っても、日本まではついてこないので、後半は出番が大幅に減っちゃうけど。
*3 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*4 別名ウドゥマライ、ウドゥマルペットとも。
*5 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。フィジーの公用語の1つでもある。
*6 シャンカル監督作「Mudhalvan」のヒンディー語リメイク作。
*7 アマレンドランとの共同。
*8 この映画、出演キャラの役名と芸名が同じになってるものが多い。
*9 別名パハラワーニー。日本ではインド相撲とも呼ばれる、南アジア〜一部西アジアに広がる相撲に似た格闘技。