インド映画夜話

Sye 2004年 167分
主演 ニティン & ジェネリア
監督/脚本 S・S・ラージャマウリ
"お前たちが相手より勝るものなんてない…勝ちにこだわる理由以外には"




 “男にとっての誉れは、良き心によって奮闘し、全力を出し切って倒れ臥すことにある…勝利を手にして”
 その日、ビクシュ・ヤーダヴは地元を取り仕切るマフィアを乗っ取り、自らが全てを取り仕切るマフィアボスであることを皆に認めさせていた…。

 ハイデラバードにある、60年の伝統あるM.K.芸術科学大学には公然の秘密がある。
 芸術学部生シャシャンク率いる”クローズ(鉤爪)”と、学長の息子で理学部生のプリティヴィ率いる”ウィングス(翼)”の伝統的対立は、もはや学部全体の争いにまで発展していた。ある日、”ウイングス”に占拠された通学バスに新入生の芸術学部生インドゥが乗ってきたことから、両者の対立が再熱。いつも通りラグビーでの決闘が始まるが、共有グラウンドしか持っていない大学ではラグビー人気に反して決闘をまともにできる環境はなかった…。

 しかしその間、騒ぎの中心にいたプリティヴィは一目惚れしたインドゥへちょっかいをかけ始めて、大学の対立とは裏腹にその距離を縮めていくように。
 同じ頃、大学の地主一家を襲うビクシュ・ヤーダヴによって、大学の土地は彼らのものとなったことが宣言されてしまっていた…。


挿入歌 Ganga A/C / Urura Urura (ガンガーA/Cは[昼の回を含めて毎日3回の”愛”の演目がある / ウルラ・ウルラ])

*交通渋滞に巻き込まれて退屈していた主役2人が、それぞれに目に入ったポスターの文言を適当に歌に入れて踊り出す学生たちの無軌道な情熱に乗せて、2人の初登場シーンを飾るファーストミュージカル!
 そこに現れるポスターの文言にも色々ネタがいっぱい(…なのかな?)。で、A/cってナンジャラホイ?


 テルグ語(*1)映画界の巨匠S・S・ラージャマウリの、3作目の監督作となる大ヒット・マサーラー&スポ根映画。
 後にヒンディー語(*2)吹替版「Aar Paar-The Judgement Day」、マラヤーラム語(*3)吹替版「Challenge」も公開。
 05年の同名カンナダ語(*4)映画とは、特に関係はないよう。

 いわゆるマサーラーアクションの定番を踏襲しつつ、そこにラグビーによるスポ根要素を入れ込んだ映画。今見るとどうしてもレトロ感が滲み出る映画ながら、冒頭&中盤のギャング抗争もの、前半の大学青春ラブコメ、後半のスポ根という怒涛の展開で物語を盛り上げる贅沢さはさすが。

 ラージャマウリ監督作3作目ということで、色々と映画の作り方を試行錯誤してるような匂いのする本作は、それぞれのジャンルのストーリーラインが並行して動いていく感じで、以降のラージャマウリ監督作に見えるファンタジック要素は薄い。…なんて思ってると、ギャングから土地権利書を取り戻そうとする大学生たちの奮闘ぶりに「そんなんありかい!」ってシークエンスが出てくるわ、悪役の極悪ぶりに合わせて徹底的に悪を滅ぼしに来る勧善懲悪っぷりが、しっかりスポ根をも盛り上げるように展開するんだから、よーやりますわ。ホント。色々と新機軸を模索しているように見える一本ですわ。

 大学生たちの決闘になんでラグビーなのかよくわかんなかったけど(*5)、インドではマイナーらしいラグビーについてのルール解説がばっちり入る親切設計なのも良きかな。ま、試合には、詳しい戦術論とかはなんもなく物語の感情的展開にそって勝敗が動いていきましたけれども(それはそれで熱い!)。

 主役プリティヴィを演じるのは、1983年アーンドラ・プラデーシュ州ニザーマーバード(*6)生まれのニティン(・クマール・レッディ)。父親は映画プロデューサー兼男優のスダカール・レッディになる。
 02年のテルグ語映画「Jayam(勝利)」で映画&主演デビューしてフィルムフェア・サウス新人男優賞を獲得。本作と同年公開作「Sri Anjaneyam」の2本で、サントーシャム若手パフォーマンス賞も受賞している。その後もテルグ語映画界で活躍しているけれど、09年に「Agyaat」でヒンディー語映画デビューしている他、12年には主演作「Ishq(愛)」の挿入歌で歌手デビューし、翌13年の主演&歌手を務めた「Gunde Jaari Gallanthayyinde(いつの間にか奪われた心)」からはプロデューサーとしても活躍中。

 これが3本目のテルグ語映画出演となる、ヒロイン インドゥ演じるジェネリア(・デスーザ)共々主役2人のなんとなく垢抜けてない雰囲気が初々しい映画ではあるけど、綺麗所のジェネリアはともかく、ニティンはなんか長い手足を持て余してる感じなところが惜しいかなあ。そのタレ目表情の硬さが妙にいい人オーラを醸し出しておりますが。

 それにしても、04年公開作の劇中に出て来る大学が創立60年って言ってるってことは、あの大学はインド独立直前に作られたって設定なのかね?
 なんとなく、大学生たちの暴走と世間に対する闘争姿勢に独立運動的気概も重ねられてるように見てしまうのは、深読みってやつかねえ…。ま、物語的には単なる青年たちの個人的闘争から既得権益を荒らすマフィアたちへの闘争に変わっていく成長劇ってだけではあるけれど。
 なもんで、前半はなんか物語が掴みづらくて「ゆっくりした展開だなあ」とか思っていたけど、後半からハッキリした障害の出現によって疾走し始める展開が熱い。インド映画に珍しい熱血ラグビーものとしても、覚えておきたい映画ですネ。

挿入歌 Gutlovundi (籠の中に隠された [サッカリンは])


受賞歴
2004 Santosham Film Awards 若手パフォーマンス賞(ニティン / 【Sri Anjaneyam】とともに)


「Sye」を一言で斬る!
・テルグの列車は、車両間移動ってできないの…?(劇中の列車が特別だと思いたい…)

2018.1.12.

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*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*2 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*3 南インド ケーララ州の公用語。
*4 南インド カルナータカ州の公用語。
*5 満員の通学バスに乗り込む様子が、ラグビースタイルっぽくはあったけど。
*6 別名インドラプリー。現在はテランガーナー州所属。
*7 多少メルヘン的なニュアンスも匂う?