インド映画夜話

インパクト・クラッシュ (The Ghazi Attack) 2017年 123分
主演 ラーナー・ダッグバーティ
監督/脚本/原案 サンカルプ・レッディ
"これは、誰にも知られなかった戦争"




 1971年。
 東パキスタン(現バングラデシュ)内部での、独立運動の高まりを恐れたパキスタン軍の侵攻によって、バングラデシュ独立戦争が勃発。パキスタンはこの争いにインドが加担していると発表し、それを否定するインドとの対立が激化していた。

 その年の11月。
 ベンガル湾の公海内で、パキスタンが秘密裏に海軍を動かしている事を傍受したインド軍は、インド本国への奇襲も予想されるその詳細を探るために、潜水艦S21(カルヴァリ級潜水艦カラニ)での偵察計画を始動させる。
 しかし、その艦長ランヴィジャイ・シンは有能ながら、好戦的で独断専行しがちな軍人。司令部はS21に監視役としてアルジュン・ヴァルマー少佐をつけ、パキスタンとの戦端を開かぬよう、極秘行動の上での偵察任務である事を厳命する。こうして、ヴィシャーカパトナム港を発したS21は、急遽集められた海兵たちを乗せて、敵が潜伏していると思われるベンガル湾を潜行していく。まだ見ぬその先に、パキスタン最強の潜水艦ガーズィーがいることも知らず…。


VFXメイキング


 バングラデシュ独立戦争の渦中、1971年12月に起こった第三次印パ戦争のきっかけとなった実話を元にフィクションを交えて描く潜水艦映画(*1)。
 インド映画初の潜水艦映画であり、海戦映画になるそう(ホンマ?)。

 原題は、その事件の主役となるパキスタン軍の潜水艦ガーズィー(*2)の名をとった「ガーズィー攻撃」。

 テルグ語(*3)版とヒンディー語(*4)版で同時公開され、タミル語(*5)吹替版も公開。インドと同日公開で、米国でも公開された。
 日本では、2018年にヒンディー語版が「インパクト・クラッシュ」のタイトルでDVD発売されている。

 まさにインド版「Uボート」とでも言うべき、潜水艦映画の基本を押さえた映画。
 極秘任務の物語故に、登場人物のほとんどは軍人ながら、司令部の指示通り戦闘を避けようと迷う主人公アルジュン、目の前の敵を許さない艦長の暴走の裏にある真実、その艦長の過ちを認めながら艦長を信頼する副長、腹の読み合いで相手の潜水艦艦長の生き様を見つめる敵側の艦長…と、主要登場人物の種類こそ少ないものの、なかなかに粒ぞろいの濃いい設定(*6)。
 新人海兵を配置して、舞台となるS21の機能・限界深度の説明を自然な形で入れるのも慣れた構成で、「あ、この当時の潜水艦ってそんなに動きにくいものだったのね」って驚いてしまう軍事ネタ素人なこっち側にも親切な設計ですことよ。

 調べてみると、圧倒的性能差を有するパキスタン側のガーズィーはアメリカ製の潜水艦で、主人公たちの乗るインド側のS21はソ連製の潜水艦って事実も、印パ紛争の悲劇とともに冷戦下の代理戦争的な哀しさを強調する歴史的事実にも見えてくる。
 その分、自分たちで作ったものではないからか軍人たちの行動原理が「どう運用するか」「どう対処するか」に終始して、船の技術的な側面での突っ込んだ設定とかはあんま触れられないもんなのね、って感じもなくはない(*7)。
 その中で、戦争に向かう軍人たちの気概、国防とはなんなのか、戦争責任を取りたくないばかりに上層部が命じる「専守防衛」の名の下にどれだけの犠牲と悲劇が贖われているのかを糾弾するその語り口は、1962年の中印国境紛争を題材にしたヒンディー語映画「Haqeeqat (国境の真実)」に通じる内容にも見えるか。

 監督を務めたサンカルプ・レッディは、1984年アーンドラ・プラデーシュ州ハイデラバード(*8)生まれ。
 工学を修了したのち、6ヶ月間ソフトウェアエンジニアとして働き出す。その後、MBA(経済学修士号)取得のためにオーストラリアの大学に留学するも、途中退学してグリフィス大学視覚・創造芸術学科に入学し直し、MFA(芸術学修士号)を取得。iPhoneを使って数本の短編映画を監督したのち、ハイデラバードに戻って本作のために映画会社「クリスタル3C」を設立。自身の脚本を元にして本作で長編映画の監督&脚本デビュー。ナショナル・フィルム・アワードのテルグ語注目作品賞を獲得した他、複数の映画賞から監督賞ノミネートもされている。

 最強の潜水艦に立ち向かったインド海軍の偉業を描く映画なので、お話はある程度予想の範囲内に進むものの、その海中での見えない敵との腹の探り合い、船員たちの中で起こる様々な疑惑・軋轢の数々もあって最後までドキドキハラハラな展開が楽しめる。
 …んだけど、やっぱりこう言う愛国戦争もの映画なのでしょうがないけど、基本インド目線で当時の状況を描いていくので、バングラデシュ側やパキスタン側からみると色々気になるところはあるだろうなあ…インドに都合のいいように話が進むなあ…ってな部分もあることはある。まあ、その辺は気にしつつも目をつぶるか、戦争映画の常道演出と見るかですかねえ…。

メイキング (英語 / 字幕なし)


受賞歴
2018 National Film Awards テルグ語映画注目作品賞


「TGA」を一言で斬る!
・さすがに海軍だと、しっかり水泳も長時間潜水も訓練されてるのね!(いやほら、ほかの映画だと、わりとインド人泳げなかったり泳ぎ方が特殊だったりって描写があるから…)

2019.11.29.

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*1 ガーズィーの最期については、映画ラストにある通り印パで公式見解が違うため、実際何が起こったのかは不明な点が多い。
*2 元々はアメリカ海軍所属のテンチ級潜水艦ディアブロ。1963年に相互防衛援助計画の下にパキスタンに貸与され、改修の末64年からパキスタン海軍に就役していた。
*3 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*4 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*5 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*6 王道っちゃ王道ですが。
*7 ラストあたりは、わりと努力と根性な展開に向かってるしぃ。
*8 現在は、テランガーナー州内にある両州の共同州都。