インド映画夜話

Thanga Magan 2015年 115分(121分とも)
主演 ダヌシュ & サマンタ & エイミー・ジャクソン
監督/脚本/出演 R・ヴェルラージ
"金は、お前を裕福にはするが…同時にお前を狂わせるぞ"



*ここはタミル・ナードゥだ。英語もフランス語も、ましてハングルも日本語も中国語もイタリア語も、スペイン語もドイツ語も通用しない…。ここはタミル・ナードゥ。タミルこそが勝利するのさ!


 その日、小さなみすぼらしい家に引っ越してきたタミルと妻ヤムナ、タミルの母親の3人は、無言のまま家の掃除に取り掛かった。
 当座の生活費のため、タミルはその日のうちから仕事を探し始めるが、彼の父親の評判を聞く街の人々はなかなか彼を受け入れようとはしない。ついにタミルは、露店のビリヤニ屋台で働く決意をするものの、老いた母、妊娠中の妻、そして会社からファイルを盗んだと言う父の不名誉を挽回できない自分を嘆き、母と妻に謝り続けるのだった…。

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 かつて、B・コム(=商業学部)2年生だったタミルは、いつも従兄弟アルヴィントと親友クマランとつるんで遊びまわる日々を過ごしていた。
 ある日、両親の使いで訪れた近所の寺院にて、美しい建築学生ヘーマ・デソウザに出会ったタミルは、徐々に距離を詰めて恋人同士となると毎日を2人だけで過ごすようになるのだが…


挿入歌 Tak Bak ([君が僕を見ると…]ドカン!)


 タイトルは、タミル語(*1)で「黄金の(=前途有望な)息子」。

 カメラマン出身のR・ヴェルラージの、2本目の監督作となるファミリー映画。1983年のラジニカーント主演の同名タミル語映画とは別物、のはず。
 のちにテルグ語(*2)吹替版「Nava Manmadhudu(新しい恋人)」も公開。

 貧しい生活環境に苦しむ家族の姿で始まるロマンス映画は、「ダヌシュ主演作ってことは、また重いロマンス映画なんかな」とか勝手に思い込んでたこっちの思惑はすっ飛ばし、前半は大学生の青春ロマンス劇、中盤には別のヒロインとのぎこちない新婚夫婦が織りなす家族劇ロマンスに変わっていき、その間に撒かれた不穏な伏線が本格化する後半にはヒッチコックばりのサスペンス劇へと転調して、突如主人公が無双し始めるマサーラー風の復讐劇という熱い展開も差し込まれていく。それでいて、全ジャンルを網羅しながらきっちり家族劇で全編で貫いていくサービス精神がスンバラし。
 これだけやって2時間に満たない映画構成の妙なのが、よく考えて脚本を練ってるなあ…と感心してしまいますよ。

 まあダブルヒロインの立ち位置が、1人目は英国人女優エイミー演じるイギリスハーフな白人顔ヒロインで、2人目が古風な家族第一主義な美しきインド人代表みたいなキャラ付けになってるのがあからさまにステレオタイプな気もしないではないけれど。とは言え、それぞれの性格の違いがそれぞれの恋愛劇の風味を変えていきながら、後半のサスペンス劇の不穏な展開をより重層的に盛り上げていくあたり、小洒落た台詞のやり取りとかも含めてよく考えて作ってますことよ。
 わりとズケズケ言いたいことを主張しまくるエイミー演じるヘーマの啖呵切る勢いのカッコよさも楽しいし、サマンタ演じるぎこちない新婚妻のプラトニックな恋愛模様も嫌味にならない美しさ。前半だけで言えば、不穏さは極力隠された朝ドラのようなさわやか青春劇だし(*3)、そこがあるからこその後半のサスペンス復讐劇における家族・恋人たちの存在の重さが素晴らしく印象的。不穏さがそこまで過剰になることなく、ダブルヒロインの使い捨て感もないまま、きっちり映画全編でそれぞれの主要登場人物が活躍してるのがポイント高いですネ!

 監督&脚本を務めるR・ヴェルラージは、1969年タミル・ナードゥ州マドゥライ近郊のクーティヤーカンドゥ村生まれ。
 マドゥライの大学に通ったのち、舞台演劇を経てカメラマンアシスタントとして映画界入り。03年のヒンディー語(*4)映画「Supari」で撮影監督デビューとなり、07年のタミル語映画「Polladhavan(無慈悲な男)」でヴィジャイ・アワードの撮影賞を初獲得。11年の「Aadukalam」でもフィルムフェア・サウス撮影賞他を獲得している。その後もタミル語映画を中心に撮影監督として活躍中で、14年のダヌシュ主演&プロデュース作「Velaiyilla Pattathari(無職のままの卒業)」で撮影監督とともに監督&脚本デビューして、エディソン・アワードとSIIMA(国際南インド映画賞)の新人監督賞を受賞。本作は、この成功を受けた2本目の監督作となる。

 後半の大金が元で起こるサスペンス(*5)の発端を作る主人公の父親ヴィジャヤラガーヴァンを演じてるのが、「ムトゥ(Muthu)」の監督として有名なK・S・ラヴィクマールという所も要チェックですゼ。わりとがっつり演技力を要する役所でしっかり父親役を演じてるんだから、映画監督ってスゴイ!出たがりの多いインド映画界は、ホント多種多様になんでもできる人材が豊富でんな。

 復讐劇に突入した途端、急にケンカが強くなる主人公は「んん?」って感じではあるものの、そこまでアクションシーンは描かれずに家族劇の方に時間が割かれてるのでそこそこ安心して見ていられる内容。最初の恋愛劇で「将来住む家に、自分たちの親を住まわせるかどうか」で大ゲンカに発展するインドの家族観が、さまざまな思惑によって揺れ動き変容を余儀なくされながら、それでもインド固有の家族主義の優しさが声高らかに謳いあげられる映画の美しさは、やっぱり素晴らしいと思うのですよ。うん。
 ま、住居を追われた主人公家族が、妻の実家に避難すると妻も含めてものすごく冷たくあしらわれてしまうと言う構図が、どこまで現実の反映なのか気になる所ではありますけども…。そう言うもんなの?

挿入歌 Enna Solla (なにを言ったのかしら)


受賞歴
2016 Filmfare Awards South タミル語映画助演女優賞(ラーディカー・サラトクマール)・タミル語映画女性プレイバックシンガー賞(シュウェーター・モーハン / Enna Solla)
2016 South Indian International Movie Awards タミル語映画助演女優賞(ラーディカー・サラトクマール)


「TM」を一言で斬る!
・「ジャッキー・チェンが君を日本に招待したり、マイケル・ジャクソンから米国に呼ばれたりしてるのかい」って台詞があったけど、タミル人にとって中国と日本はそーゆー認識なのだねえ(同年公開のエイミー主演作【マッスル(I)】でも区別がついてなかったけどさ!w)

2019.5.17.

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*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*2 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*3 なにかにつけ料理できる男像を放り込んでくる主人公像あたりは新し…いのかなあ?
*4 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*5 タイトルとの反比例具合がステキ!