インド映画夜話

ボンベイ大捜査線(The Perfect Murder) 1987年 89分
主演 ナセールッディン・シャー & ステラン・スカルスガルド
監督/脚本 ザファール・ハイ
"この国はすべからく混乱しているのですよ! …ようこそ、ボンベイへ!!"



むんむん様企画の第3回なんどり映画倶楽部にてご紹介頂きました!
皆様、その節はお世話になりました。なんどりー!



 むせ返るような雑多な群衆に満たされた街、ボンベイ。
 そのボンベイ警察の犯罪捜査課警部ガネーシュ・ゴテは、ダイヤ密売組織の捜査で多忙な日々。しかし、やっと追いつめた手がかりもあと一歩の所で取り逃がしてしまう…。

 そんな彼が、上官から叱責されながらも命令を受けて空港で出迎えたのは、スウェーデンから招待された犯罪学者アクセル・スヴェンソン。第一優先事項として彼に、ボンベイ警察の勤務実体を紹介するよう命令されたゴテだったが、そこに実業家ララ・ヒーラ・ラルの家で起きたパーフェクト殺人の一報が届く!
 …しかし、現場に来てみればこの事件は殺人事件でも完全犯罪でもなく、ラル邸の使用人パーフェクト氏が何者かに殴打され昏睡状態にあるだけだと言うのだ!

 新たに第一優先で事件解決を命じられたゴテは、アクセルと共に殺人未遂事件としてラル邸の使用人やラル一家を洗い出そうとするが、街の有力者で曲者ぞろいのラル一家(ララ・ヒーラ・ラル/妻ラクシュミー/長男ディリップ/長男の妻ニーナ/次男プレム/その他多数の使用人たち)はいちいち難癖をつけては証言を拒否して捜査を妨害。さらに、ゴテの元には、更なる第一優先事項として警察・芸術大臣の指輪盗難事件まで捜査依頼が来るわ、スヴェンソンには密輸組織と思われる男の恐喝は来るわで、捜査は遅々として進まず時間だけが流れていく…。





 英国人作家H・R・F・キーティング原作の推理小説「パーフェクト殺人」(*1)を印英合作で映画化した英語映画。
 「日の名残」「眺めのいい部屋」などで知られるイギリスを代表する映画製作者イスマイル・マーチャントのプロダクション マーチャント・アイヴォリー・プロ製作で、スウェーデンを代表する俳優ステラン・スカルスガルド(*2)とインドが誇る名優ナセールッディン・シャー(*3)が共演した作品である!!
 日本では、かつてビデオ発売されてました(現在絶版)。

 …のわりには、中身は山も谷もない終始ゆるーいドラマ進行で、特に謎解きもなければ激しいアクションや凄惨な事件現場も出てきやしない。最初の「パーフェクト・マーダーが起こった!」と言う一報も、行ってみれば死体も殺人事件もなく
「なに言ってんだ。ウチの使用人のパーフェクト氏が襲われて昏睡状態なんだよ!」
「え!? 殺人事件と言えば、誰かが殺された事件ですよ。殺されてなければ殺人未遂事件だ」
「そんなん知るか。俺が殺人事件と言えば殺人事件なんだよ!!」
 …と言う、噛み合わない会話が続いててなんだかなぁ…なゆるゆる展開。この辺でイヤな予感がし始めるわけだけど、全編ほとんどそんな眠気をもよおすゆったりシーンの連続だったりする。事件の解決もほぼ偶然みたいなもんだけど、その辺は原作に忠実なのかなぁ…(*4)。

 ゆるゆるな脚本と撮影の中、注目すべきは濃いい〜役者の皆様。
 特に主役ゴテ警部役のナセールッディンのギョロ目がぐりぐり動くシーンは必見だよお客さん! 白人イケメンが家に来たって言うんで、普段は口喧しい奥さんがしとやかな妻を演じてるのを凝視する時のゴテの表情芸はナイスであります。喜怒哀楽どんな表現も渋ーくこなすナセールッディンは、ゆるゆるならゆるゆるなほど冴え渡ってくるね!(超贔屓目)
 このゴテの妻プラティマを演じてるのが、実際にナセールッディンとご夫婦な女優ラトナ・パタック。'82年公開のイスマイル・マーチャント製作・ジェームズ・アイボリー監督作「熱砂の日」にも出演してたりする(未見だけど…)。この人も、ナセールッディンに負けず劣らず演技派でかつお美しい人ですわぁ。この幸せ者めぇ〜。
 …そんな感じにゴテと終始雑談ばっかしてる、ゆるゆるな裏主役アクセルを演じるステラン・スカルスガルド。ベルリン国際映画祭男優賞を受賞したことをきっかけにイスマイル・マーチャントに招聘されて「Noon Wine」と本作に起用されたと言いますが……その割には、ずいぶんとのほほ〜んと演じてますなぁ。マフィアに捕まって「拷問だ!」と上半身はだけさせられた時の肉体美が見所…?(*5)
 原作者のH・R・F・キーティングもチョイ役で出演していたりする。最初の空港シーンで、ダイヤ密輸犯がアクセルとゴテの騒ぎを受けてさっさと別便の飛行機で国外逃亡しようとカウンターに向かうシーンで一瞬出てくる先客がそれ(わかりにく!)。

 話の本筋よりも力が入ってるのが、雑多なボンベイの日常風景の数々。それこそ、本筋が崩れまくリ、テンポもなにもなくなるほどに…。
 映画撮影風景、映画用大看板製作風景(*6)、不味いチャイを配達に来る子供、下半身のない物乞い、クリシュナ神祈祷を欠かさないラル家、そのラル邸で使用人のために行なわれるパールシー(拝火)教の祈祷、雑然としたスラム街、小市民な狭いゴテのアパート(*7)、主婦たちのデモ行進、欧米風の結婚行列、聖牛に群がる人々、下町の屋台村、モンスーンに煙る暗いボンベイの町並み…。
 実は原作者はインドに行ったことがないまま原作を執筆したそうだけど、それを逆手に取るかのようにボンベイらしさを前面に出しまくる撮影の数々は、ボンベイ観光ビデオを目論んで……いれば良かったんだけど如何せん完成度がなぁ。とにかく、どこにでも人がいっぱい歩いていて、モンスーンの雨は全ての問題を解決するってことを押さえておけばOK?

 それはそうと、見た後につきよ様に「モンティ・パイソンに出てくる、被ると馬鹿になるハンカチ帽子とそっくりなものを、アクセルが被ってた」とご指摘頂いて、ほほぅ〜、これが(モンスーンの到来にアホみたいにはしゃぐ二人を見る)いわゆる1つのブリテッィシュ・ユーモアかいな……と思いたかったけど、扱いがぞんざいすぎてねぇ。
 インドを知らない無知かつ余計な一言でインド人たちを混乱させるアクセルの、(インド側から見た)田舎者具合を表現している…んだったら良かったんだけど…どうとらえればいいんだか。むぅ。
 現場で誰かが「ねえねえ、これ被ってみてよ」とか言ってステルスガルドが面白がった部分がカットされてるとか、そんな所なんかなぁ…うーむ、色々「なんでこうなった?」を考え出すとキリがないゼ。



2013.5.31.

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*1 1964年刊。英国推理作家協会ゴールド・ダガー賞受賞作で、ゴーテ警部シリーズの第1作。
*2 代表作「ダンサー・イン・ザ・ダーク」「マンマ・ミーア」等。より正確なスウェーデン語発音だと、ステッラン・スカーシュゴードになるそうだけど。
*3 代表作「渡河」「モンスーン・ウェディング」「踊り子」等。
*4 とか思って読んでみたら、原作にはダイヤ密輸事件そのものがなくてですね…w
*5 結局、拷問がかぎ爪でマッサージってのもどうよw
*6 警官姿のラジニやシュリデヴィ?の絵が大写しに!
*7 60年代の原作では電気冷蔵庫を買ってくれない事を妻にどやされるゴテだけど、本編ではカラーテレビがないことをどやされておりますw