インド映画夜話

Tik Tik Tik 2018年 131分
主演 ジャヤム・ラヴィ & ニヴェーター・ぺトゥラージ
監督/脚本 シャクティ・ソウンダル・ラージャン
"息子を犠牲にして、英雄になる気か?"




 午後11時43分。チェンナイ近郊エナーの街中に隕石が落下し、多数の犠牲者を出す事件が発生!!
 インド国防省の宇宙研究機関は、7日以内にさらに直径60平方kmもの巨大隕石がベンガル湾に落下する事実をつきとめる。もしそのまま落下すれば、その衝撃と巨大津波によってインド亜大陸の地形そのものが変わる大惨事が予想される…!!

 この未曾有の危機を回避するため、軍はミサイルによる隕石破壊計画を提案。計画に必要なのは、中国の宇宙ステーションに極秘裏に設置されていると言う世界最大級の巨大核ミサイルと、それを盗み出し隕石の中核まで運び出す技術者たち。この前代未聞のミッションに選出されたのは、服役中の稀代の奇術師M・ヴァースだった…!!
 愛する息子との面会を条件に極秘ミッション参加を許諾した彼の要望で、ヴァースの相棒ヴェンカトとアップーも選抜メンバーに入れられて、軍人スワティとラーグラムとともに宇宙飛行士訓練に入るのだが、彼らの出発のその時にヴァース専用回線から謎の声が…「息子は預かった。私が欲しいのは核弾頭だ」
 隕石落下まで、残り10時間05分45秒…。


挿入歌 Tik Tik Tik (チク・チク・チク… [耳に響くは時の雫か、お前の鼓動なのか])


 1998年のハリウッド映画「アルマゲドン(Armageddon)」にインスパイアされた、インド映画界ではまだ珍しい宇宙ものSFタミル語(*1)映画。
 クウェートで初公開された翌日、フランス、インド、米国などで同日公開。
 1981年の同名タミル語映画とは別物、のはず。

 当初、「インド初の宇宙もの映画」と宣伝され、予告編にもアピールされていたものの、実際には1963年の「Kalai Arasi」がそれに当たると指摘されている。

 アイディア元の「アルマゲドン」が「おいおい」って無茶な展開してくれる映画なもんで(*2)、たった1週間で素人が宇宙飛行士になったり、未曾有の大惨事が予想されるのに諸外国に協力要請しないで「核弾頭を盗んでこよう!」ってなったり、色んなところに出てくる科学考証無視な展開も、「まあ、元映画があれだしなあ」である程度は許容してしまいたくなってくる映画ではある。この辺、現地でも公開されるや賛否両論が巻き起こっていたよう。
 そんなSF風映画の中にあって、中心にくるのが父子の愛情劇とそれを引き裂こうとする悪役との丁々発止というのがなんともインド。ああそれにしても、「マジック(Mersal)」もそうだったけどタミルの手品師は、なんでも可能にするスーパーマンすぎるよ!!(イイゾモットヤレー)

 本作の監督を務めるのは、1982年タミル・ナードゥ州チェンナイ生まれのシャクティ・ソウンダル・ラージャン。
 2010年のタミル語映画「Naanayam」で監督&脚本デビューし、以降、新境地と新技術を融合させた映画を生み出す新進気鋭の監督として評判になって行く。16年にはタミル語映画界初のゾンビ映画「Miruthan(共食い)」を世に贈り出し、本作はその次となる4本目の監督作(*3)。

 ヒロイン スワティを演じるニヴェーター・ぺトゥラージは、1991年タミル・ナードゥ州ネリッキュパン生まれでドバイ育ち(*4)。
 16年のタミル語映画「Oru Naal Koothu(ある1日の騒動)」で映画&主役級デビュー。翌17年には「Mental Madhilo(狂える心の内で)」でテルグ語(*5)映画デビューする。本作と同年の18年には他「Thimiru Pudichavan(わがままな男)」にも主演している。

 前半の宇宙飛行士選抜テストと訓練の様子なんかは、市井の人である主人公たちがエリート軍人を見返し、茶化し、圧倒させる様が小気味いいとともに、本格的な宇宙開発を進めているインドという国の自信の有り様も見える…感じ? 宇宙に出て行った後のシーンよりもリアリティレベルが高いのは、なにも撮影のしやすさとかだけでもないんかなあ…って感じ。
 意外なのは、ミッション最終目的である隕石破壊よりも、中国ステーションでの核弾頭奪取のいざこざに結構な時間が割かれていることで、とにかく中国人とインド人との対立具合が半端なくギスギスしまくってること。ラストに向かっての大どんでん返しもそこそこ効果的とは言え、この中盤の対中国人クルーとの対立の方が物語を盛り上げていて、隕石破壊が付け足しみたいになってしまってるのがなんとも。中国ステーションキャプテン リー・ウェイ役のシンガポール人男優アーロン・アジーズの、嫌味たっぷりな演技も見ものでっせ!

挿入歌 Kurumba (Father’s Love) (ああ、悪戯者め [愛する駄々っ子め])



「TTT」を一言で斬る!
・メイキングを見てると、無重力空間の撮影も結構アナログな手法(+CG合成)で撮ってるのが意外でありスゲゲゲゲゲ!!!

2020.7.24.

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*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*2 記憶が「ディープ・インパクト(Deep Impact)」とゴッチャになるるるる…。
*3 その流れだからこそ「インド映画初の〜」ってコピーがついたんかね?
*4 一時期マドゥライにも住んでいたそう。
*5 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。