インド映画夜話

地上の星たち (Taare Zameen Par) 2007年 165分
主演 ダルシャール・ザファリー & アーミル・カーン
監督/製作 アーミル・カーン
クリエイティブ監督/原案/脚本 アモール・グプタ
"子供に特定の価値観を押しつけてはならない。…それは児童労働よりも罪が重いはずだ"







 イシャーン・ナンディキショーレ・アワスティーは好奇心旺盛な小学生。しかし学校の勉強はからっきしで、3年生で留年してしまうほど。今日もイシャーンは、廊下に立たされたり、授業をさぼって街中を一人で散策に出ていったり…。

 彼の兄ヤハーンの成績優秀ぶりもあいまって、周囲の大人たちはイシャーンの無能さが全く理解できず、学校側も匙を投げて「こうなったら、特別寄宿学校へ入れるしかない」と結論づけてしまう。
 嫌がるイシャーンを尻目に、両親は彼を寄宿制の特別校へ預ける事を決定。最後まで彼をかばっていた母マーヤーは、別れ際にはイシャーンの顔を見る事ができないまま去ってしまう。イシャーンは絶望感から殻に閉じこもり、周りに対して全く無反応な状態になっていく。

 そんなある日、寄宿学校に臨時の美術教師ラーム・シャンカル・ニクンブがやって来た。
 彼の自由奔放な授業は子供たちに大ウケするも、それすら全く反応しないイシャーンの様子に疑問を感じたラームは、イシャーンの状況を調べ始め、やがてある結論に達する…。


ED Taare Zameen Par (地上の小さな星)

*あぁ願わくば、すべての子供たちが盛大に笑い、盛大に泣き、盛大に悔しがり、そしていつも安らかに眠る事ができますように。


 原題は「地上の星々のように」。
 ボリウッドのトップスター アーミル・カーンの初監督作にして、数々の映画賞で監督賞を獲得した、児童教育をテーマにした映画。サブタイトルは「every child is special」。お話の基礎は、かの黒澤明の自伝をヒントに書かれたとかなんとか。
 英題「Like Stars on Earth」として、米国でディズニーからDVD販売され、2018年にはNetflixにて「地上の星たち」の邦題で日本語字幕配信された。

 非常に美しく繊細な画面作り、イメージ構成力の高さ、嫌みにならない真摯なテーマ……と、いわゆるインド娯楽映画の範疇の外にあるかのような内容でありながら(*1)、素晴らしい高密度な作品になっていた。
 ファーストシーンの、ゴミも流れている側溝の中の水草や稚魚の泳いでいる様の、なんと美しい事か。

 クリエイティブ・ディレクターを務めた脚本家兼俳優のアモール・グプタ(これが初監督作?)が妻ディーパ・バティア(本作では編集を担当)とともに7年間暖めていたアイディアをもとにして、アーミルに声をかけた事がきっかけとなって製作されたらしい。実質的にはアモール&アーミルの共同監督作となるよう。

 いわゆる家族の更正物語かと思ったら、そんな小さな話ではなくて、現代インドの過渡に画一的な教育・受験勉強的な並列的で没個性的な教育環境への問題提起が中心命題。イシャーンを代表とする、周りとは違う能力を持つ子供一人一人が、どう成長しどう生きていくのか、大人たちは児童教育にどう向かい合うべきかを問う作品になっている。

 人と違う障害故に学校に馴染めない子供…と言えば、「Koi... Mil Gaya」なんてのもあったけど、本作はより子供視点に立った作品であり、その意味ではこれまでボリウッドにはなかった本格的な児童文学的作品。
 主演兼監督のアーミルが出て来るくる中盤までは、ずっとダルシャール演じるイシャーンが徐々に孤立して行く様を丹念に描いているのもポイント。
 大人たちには理解できない(しようとしない)子供独自の世界を・自分になにが起こっているかを自覚する手段を持たない子供のありようを、しっかりきっちり描く態度にただただ拍手。こうした、真剣に子供の視点に立った作品が増えてくれると、児童文学好きとしてはさらに注目しないわけにはいかなくなるのですよ、おっかさん(*2)。

 映画祭授賞式で子役賞を受賞して、「なんで主演男優賞じゃないんだ」と怒ったとか言うダルシャール君の、子役演技の枠を飛び越えた喜怒哀楽(+虚無)の表情の、なんと素晴らしいことか(*3)。

 映画の中に出て来る"失読症"とは、学習障害の一種で、知的能力になんの異常もないにもかかわらず、文字を認識する事が困難な状態にある障害。
 文字と意味のつながりや、文字自体のデザインの把握が処理できないなどの症状があり、特にアメリカでは全人口の2割近くが失読症であると言う統計も出て研究が進み、障害克服のためのさまざまな学習方法が考案されていると言う。
 いまだ不明な点も多く、個人により症例が多岐にわたるために誤解や偏見も多いみたいだけど、その原因として考えられるのは、脳が文字を認識する方法が一般的な回路と異なるパターンで行なわれているから…と説明されるらしい(*4)。

 それまでのボリウッドにない手法の1つとして、OPのクレイアニメーションも注目したい。カートゥーン的な画風の2Dアニメーションと共に、インドのアニメ技術も「Hum Tum」の頃より格段に進化している。アニメと言えば、ディズニー的なものばかりだったインドアニメ界にあって、こうした映像の進化は、これからイギリスや日本のようなアートアニメヘの発展とかもある…のでしょうか?


挿入歌 Kholo Kholo (扉を開けて)

*ネタバレありにつき注意。
 ギターの音色がなんとも心地よい…。



受賞歴
2008 Filmfare Award 作品賞・監督賞・原案賞・批評家選出パフォーマンス賞(ダルシャール)・作詞賞
2008 Stardust Award 観客選出助演女優賞(ティスカー・チョープラ)
2008 Star Screen Award 監督賞・新人監督賞・助演男優賞(アーミル)・特別パフォーマンス賞(ダルシャール)・子役賞(ダルシャール)・原案賞・台詞賞・作詞賞
2008 V. Shantaram Award 作品金賞・監督銀賞・主演男優賞(ダルシャール)・脚本賞
2008 Zee Cine Award 監督賞・有望監督賞・作詞賞・批評家選出主演男優賞・有望新人(子役)賞(ダルシャール)・原案賞
2009 Apsara Film & Television Producers Guild Award 作品賞・監督賞・脚本賞・作詞賞(Maa)・男性プレイバックシンガー賞(Maa)・原案賞・特殊効果賞
2009 National Film Award 家族福祉映画賞・作詞賞・男性プレイバックシンガー賞(Maa)

2012.3.10.


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*1 細かい所までで言えばヒロインの不在とか、ダンスの不在とかも。
*2 まぁ、多少教条的・理想的すぎるきらいも…あるけど。
*3 普通の表情してるときは全然可愛くないのに。
*4 外国文字環境に入って、初めて症状を認識する人もいるとか。