インド映画夜話

Thalaivaa 2013年 182分
主演 ヴィジャイ & アマラ・ポール
監督/脚本 (A・L・)ヴィジャイ
"「指導者」とは我々の遠くの存在ではない。我々とともにある言葉だ"
"我々が貴方を「指導者」と呼んだ時、そこに「指導者」が生まれる"






 1988年のボンベイ。過激化する暴動からタミル人移民を救うために闘うラーマドゥライは、その闘争の中で妻を殺され、その怒りで首謀者を自らの手にかけてしまう。彼は、復讐の怨嗟から終わらない争いを捨てて外国移住する友人ラトナムに、息子ヴィシュワーをあずけて闘争の日々から遠ざけさせ、自身はボンベイでタミル人のために身を捧げようと決意する…。

 そして現在。
 シドニーのミネラルウォーター製造工場で、ラトナムの息子ログと共に働くヴィシュワーは、工場の仲間たちとともにダンスチームを結成して一躍有名人に。仕事先で知り合った美女ミーナと仲良くなって、ダンスチームに参加して来た彼女と次第に相思相愛の仲に…。
 ミーナとの結婚話がでると、実業家の彼女の父親から「君のご両親に会って話をしなければ」と切り出され、1年に1度の電話連絡しかしない父親ラーマドゥライを訪ねるため3人でムンバイ(旧ボンベイ)を目指す。
 すぐに会えるだろうと思っていたヴィシュワーだったが、父親に会うためにムンバイ各地をたらい回しにされた上、警戒厳重な父の支持者たちに入れ替わり立ち替わり案内されて初めて息子の前に現れた父親は…!!


挿入歌 Tamil Pasanga



 タイトルは、タミル語(*1)で「リーダー」。政治運動や社会活動において、人の先頭に立って突き進み、多くの人々に讃えられる人物の尊称…のよう。
 タイトルにも冠せられる副題"Time to Lead"は、時のタミル・ナードゥ州首相J・ジャヤラリター(*2)への対抗スローガンとして使われていた用語だと言う。

 タミルスターのヴィジャイ主演のアクション映画で、日本公開作「神さまがくれた娘(Deiva Thirumagal)」のヴィジャイ監督6作目の監督作(*3)。インドの他、アメリカ、イギリス、クウェート、フランスでも公開。
 インド国内では、テルグ語吹替版「Anna : Born to Lead」、ヒンディー語吹替版「Thalaivaa ― The Leader」も順次公開。
 2024年のシネ・リーブル池袋の「週末インド映画セレクション」でも英語字幕で上映。

 もう、なにはなくとも主演ヴィジャイのトンデモカッコ良さよ!!!!!
 初登場シーンから、その完璧なダンス、コメディにロマンスに友情劇にと青春主人公を演じる前半、暴力と陰謀に彩られたムンバイ裏社会の改革に乗り出す父性オーラバリバリのボスとしての後半の活躍、ギャングたちをボコるアクションの数々、悲惨な現実を前にしての挫折と逡巡も含めて、ここまでさまざまな表情を映画の中で見せてくれるスターが他にいるだろうか! って感じにヴィジャイそのもののスターオーラにやられてしまう一本。
 それだけやってまったく嫌みにならないし、それぞれのシークエンスが自然かつエキサイティングにつながっていく演出の冴えもあってぐいぐい惹き付けられていく、1本の傑作スター映画であると同時に娯楽映画としての完成度も高い。
 タイトルやパッケージから想像してたイメージを裏切る、さわやか青春劇の前半も綺麗でテンポいいし、大どんでん返しから始まる後半のダーティな政治抗争アクションへの変身ぶりも小気味良くカッコええ(*4)。脚本・演出・撮影・編集・音楽・音響に役者の演技、どれをとっても一級品の娯楽映画でありますよ!

 監督&脚本を務めたのは、ヴィジャイことA・L・ヴィジャイ監督。
 チェンナイで生まれ育ち、ムンバイのヴィーナス・プロダクションにてCM制作で活躍して数々の広告賞を獲得する。そのCM制作のツテからプリヤダルシャン監督の助監督として03年に映画界入り。07年に「Kireedam(王冠)」でタミル語映画監督&脚本デビューを果たす。
 3作目の監督作となる10年の「Madrasapattinam(マドラスの街)」で、イギリス人モデル エイミー・ジャクソンを招待してタミル映画界での女優デビューを飾り、フィルムフェア監督賞ノミネート。続く11年には日本公開作「神さまがくれた娘」で数々の映画賞を獲得(*5)。タミル語映画のレベルを引き上げたとして大絶賛され、ヒットメーカー監督としての地位を確立していった。
 15年には「Oru Naal Iravil(ある日の夜)」でプロデューサーデビューし、16年にはタミル・テルグ・ヒンディー3言語同時公開の「Devi」を公開して、タミル語以外の映画界での監督デビューを果たしている。

 ヒロインを務めたアマラ・ポール(・ヴァルゲーゼ)は、1991年ケーララ州エルナクラムのキリスト教徒の家生まれのモデル兼女優。弟(?)に、男優アビジート・ポールがいる。
 大学で英語を専攻する傍らモデル業を始め、父の反対を押し切って09年のマラヤーラム語映画「Neelathamara(青蓮)」で映画デビュー。翌10年には「Veerasekaran」「Sindhu Samaveli」「Mynaa(マイナ)」の3本でタミル語映画&主演デビューする。当初芸名を"アナカ"としていたものの、「Sindhu Samaveli」までのフロップ(*6)から、本名に戻しての出演となった「Mynaa」で大きな評判を呼び、ヴィジャイ・アワード女優デビュー賞を獲得。以降、数々の映画賞を獲得するトップスターへと成長していく。
 日本公開作では「神さまがくれた娘」に出演。この映画と本作とで、監督のA・L・ヴィジャイとの関係を噂された後の2014年に結婚したものの、16年に離婚申請したそう。

 最初、なんも知らないでテルグ語吹替版の方を手に入れて「ヴィジャイすげげげげー!! ...でも、なんでこんなダンスソングが盛り上がらないんだろう?」とか思ってたら、タミルオリジナルの歌の方がメチャクチャカッコええやないですか! 早くこっちを見とけば良かったっと後悔しきりな面白さ。テルグ版も決して悪くないんだけど、ダンスソングのアレンジで少しおとなしくなってしまった感があるのだけは惜しいかなあ...。
 言語と言えば、舞台がシドニーとムンバイと言う南インドが一切登場しない映画ながら(*7)、タミル語をしゃべるタミル人が中心なのはともかく、英語やヒンディー語もバンバン飛び出し、非タミル語な言語にはタミル文字字幕がついて英語字幕が消えるのが両言語を完全に理解できない自分のような外国人には「ぎゃあ、そうなるか...そうなるわな」て感じで悔し。多言語を操るインド人たちの作る多言語映画の変幻自在さは、羨ましくもあり、めんどくさくもあり。
 ムンバイで働いていてタミル語映画界で活躍するヴィジャイ監督だからこそ見える、ムンバイの景色の切り取り方、そこから来る作劇法・演出法の妙技を確認するだけでも興味深い1本でもある。


挿入歌 The Ecstacy of Dance

*ヴィシュワー率いるダンスチーム"タミル・パサンガー"を狙った妨害行為で、足を負傷してしまったミーナは医者からも親からもダンスコンテスト辞退を勧められる。しかし、ヴィシュワーはそんな彼女を病院から連れ出し、足に負担のかからないダンス特訓を始める…!!
 どっちにしろ足には悪いんじゃ、と思わんんでもないけど扇情的かつ美しく情熱的なダンスシークエンス!




受賞歴
2013 Vijay Awards 人気ヒーロー賞(ヴィジャイ)
Techofes Awards 人気主演男優賞




「Thalaivaa」を一言で斬る!
・裁判で無罪を勝ち取って支持者たちに迎えられるヴィシュワーの広げた手を見て、『ああ、ナマステのときの合掌ってこんなにも壮大な意味を包含してるのね』って感心しきり(ホンマかいな)。

2017.3.31.
2024.2.3.追記

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*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*2 元映画女優。1948年生〜2016年没。91年から、断続的に5期州首相を務めた人物。
*3 主演と監督が同じ名前なのがややこしいですが、別の人なので混同しないように!
*4 各登場人物が、急に雰囲気変わりすぎだろって感じもあるはあるけどもw
*5 大阪アジアン映画祭ではグランプリ受賞している。
*6 この作品は賛否両論を呼んだものの、アマラ本人への脅迫状まで届けられるほどの騒ぎになったそうな。
*7 ロケ自体はチェンナイでもやってるよう。