インド映画夜話

テリ ~スパーク~ (Theri) 2016年 158分
主演 ヴィジャイ & サマンタ & ベイビー・ナイニカー
監督/脚本/原案/台詞 アトリ
"やっちゃいな、ベイビー"




 その朝、ケーララ州イティサナムのパン屋店主ジョセフ・クルヴィラは、遅刻寸前の娘ニヴィ(本名ニーヴェディタ)に文句を言われつつ、バイクで彼女を小学校まで送っていた。
 そこで荒っぽい運転の車に水をぶっかけられた親子は、車を追いかけて運転手に詰問する。「ベイビー、やっちゃって!」「うちの娘に謝るんだ。…悪い事をしたら、謝るのが大人だ!!」

 ニヴィの担任アニー先生は、毎日遅刻してくるニヴィにご立腹。わけを父親のジョセフに尋ねる中、母親不在で街から離れた家に住むこの父子と毎日関わって行くようになる。
 ある日、遅刻解消のためにアニー先生と一緒に登校する事にしたニヴィが、交通事故にあったと聞いてすぐ病院に駆けつけるジョセフだったが、車で煽ってきたギャングたちを通報したと言うアニー先生の話を聞いた途端「それは止めてくれ!!」と猛抗議。警察沙汰を極端に嫌う彼に不信感を抱くアニー先生を前にして、抗議取り下げ署名をするジョセフになにか気づいた警官が「タミルの警察にいた事はおありで? たしか…ヴィジャイ・クマールとか」と問いただすのを聞く。
 マラヤーラム語は苦手だと以前に言っていたジョセフが、流暢にマラヤーラム語で「私はケーララ生まれで、タミルに入った事もないですよ」と警察に抗弁しているのを聞いて、彼への不信感を確信したアニー先生は…!!

挿入歌 Jithu Jilladi (引き金は素早く [腕は超一流の司令官])

*見よ! この鮮やかなる色彩世界!!
 指スライドで、グラスの色が変わるサングラスほしぃー!!!


 原題は、タミル語(*1)で「やっちまえ」「燃え上がれ」「ぶっ飛べ」のような単語…らしい。

 2013年の「Raja Rani(王と王女)」で数々の監督賞を獲得した、期待の若手監督アトリの2本目の監督作であり、"イライヤタラパティ(若大将)"とも呼ばれるヴィジャイ主演の大ヒットタミル語映画登場!!
 日本でも大ヒットしたタミル語映画「ムトゥ」の主演女優ミーナの実の娘、ナイニカーの映画デビュー作になる事も話題に(*2)。
 公開6日で100カロール(=10億ルピー)の成績をマークし、世界的にも大ヒット。イギリスでは、初週売上ベスト8位に入り、ヴィジャイ主演作中最大ヒット作となった。
 後にテルグ語(*3)吹替版「Policeodu(警察官の男。別題「Police」)」も公開。日本では、2016年にSPACEBOXによる英語字幕上映で初上陸。2017年に南インド映画祭にて日本語字幕付きで上映された。

 ケーララ州の牧歌的な風景から始まる本作は、ジョセフ&ニヴィの理想的親子の暮らす平和でメルヘン的な日常をコミカルに描いていく導入部、「ヴィジャイ・クマール」の実像を描く中盤アクション、その2つのパートがつながって最終決着へとなだれ込む後半と、息もつかない怒濤の展開!!
 ニヴィにとっての父親であり母親であり親友でもあるジョセフの朴訥さ・飄々さ具合から来る理想的親子関係だけでも可愛さ全開の映画なのに、さらに二転三転する物語に従って主演ヴィジャイの八面六臂な活躍、それぞれの場面で見せてくるヴィジャイの多彩なカッコ良さ演出の数々がも〜〜〜〜〜〜〜最高であります!
 同じ南インド映画祭で、ラジニの「帝王カバーリ (Kabali)」を見てたせいか、ラジニとヴィジャイのヒーロー性の違いやそれぞれの主演映画の作り方の違いも興味深い印象。ラジニのそれは、より政治的主張が濃いタミル人全体への啓示になっているのに対し、本作のようなヴィジャイ映画は、弱気もの儚きもの(*4)を守ろうとするより良き父性を発揮する若きヒーロー像な感じ。まさに「ああ、カッコ良い父ちゃんってこんなんかね」と子供が認めて応援してくれるようなパワーと茶目っ気オーラ全開のヴィジャイが、超頼もしEEEEEEEーーーーー!!!

 本作監督を務めたアトリ(生誕名アルン・クマール)は、1983年タミル・ナードゥ州マドゥライ生まれのチェンナイ育ち。
 ヴィジュアルコミュニケーションを修了後、ヒットメーカーのシャンカル監督作「ロボット(Enthiran)」「Nanban(友達)」で助監督を務めて映画界入り。13年のFOXスター・スタジオ製作の「Raja Rani」で監督&脚本デビューして大ヒットを飛ばし、多数の新人監督賞を受賞する快挙を達成。2作目の監督作となる本作で、テコフェス注目監督賞とIIFAウトサヴァム・アワードのタミル語映画監督賞を獲得する。
 翌17年には「Sangili Bungili Kadhava Thorae(サンギル・ブンギル、ドアを開けろ)」でプロデューサーデビューして、新たなヴィジャイ主演作「Mersal」の監督も務めているとか。

 中盤のヒロインを演じるサマンタ(・ルス・プラーブ)は、1987年タミル・ナードゥ州チェンナイ生まれ。父親はテルグ系で、母親がマラヤーラム系の家の末っ子として育つ。
 チェンナイのステラ・マリア大学で商法の学位を取得。学士号取得の間にモデル業をはじめ、その評判から映画界入り。10年のテルグ語映画「Ye Maaya Chesave(どんな魔法を使ったの?)」で主役デビューし、同時製作された別バージョンタミル語映画「Vinnaithaandi Varuvaayaa(私と空を飛ばない?)」にもカメオ出演する。前者でフィルムフェア・サウスの新人賞を獲得し、同年には他に3本の映画に出演。12年には「Ekk Deewana Tha(狂おしき恋人たちは)」にカメオ出演してヒンディー語映画にもデビューする傍ら、テルグ語映画「マッキー(Eega)」でフィルムフェア・テルグ語映画主演女優賞を、タミル語映画「Neethaane En Ponvasantham(君は、僕の黄金の春)」でフィルムフェア・タミル語映画主演女優賞を同時受賞する。しかし、この年に免疫障害を発症し、2ヶ月間療養生活をおくる事になったとか。
 以降、テルグ語・タミル語両映画界で大活躍する女優へと成長しつつ、慈善団体の活動を通して難病治療の援助も積極的に行なっていると言う。
 本作公開の16年には、「Bangalore Naatkal(バンガロールの日々)」「24」のタミル語映画2本(*5)の他、テルグ語映画3本にも出演して「A Aa」でIIFAウトサヴァム・テルグ語映画主演女優賞を獲得している。

 サマンタは出て来た瞬間にわかったけども、最初にヒロイン然として出てくるアニー先生が誰かわからず「新しい人かなあ」とか思ってたら、エイミー・ジャクソンだとぅぅぅぅぅぅ!!!!! …と後でわかってビックリしておりました。
 そんなに出演作見てないけど、いつもモデル然として出てきてイギリス人である事を最大限に武器にしていた人が、サリー着て黒髪かつらかぶって、マラヤーラム語を流暢に(*6)話すなんざ、インドに順応しつつ役者としての技術を存分に成長させておりますなあ…ホント驚き。最後に踊ってるあたりで気づいても良さそうなのに、気づけなかったのが悔し。くぅ。

 物語は、冒頭の日常コミカル劇からは想像もつかない社会派アクション家族劇に移って行くわけだけど、現実のインドで事あるごとに発覚する凄惨な性犯罪を背景に、そこにはびこる男尊女卑、旧来的な父権主義、有力者たちの傲慢さ、インド社会の抱える無関心さを初めとする社会病理の数々を真っ正面に描き、登場人物の態度に仮託して「そんな奴らをどうすれば良いと思う?」「そんな世の中を、どうやったら変えて行けると思う?」と言う問いかけを、当初の家族ドラマの延長の中に入れ込んで描いて行く映画力・映像構成術・その卓越した話術の律儀さがホントにスンバラしい。
 正しく恐い大人がいることで、子供どころか大人も態度を正すさまを見せつける理想を描きながら、そこに示される「教育の大切さ」「これからの教育のありかた」を見つめる視線が、ヴィジャイ演じる父親の、娘を見守る視線とシンクロして行くあたりなんざ、粋ってもんですわ!!

挿入歌 Eena Meena Teeka (イナ・ミナ・ティーカ)

受賞歴
2016 Edison Awards 大衆ヒーロー・オブ・ジ・イヤー賞(ヴィジャイ)
2016 WE Awards 子役賞(ベイビー・ナイニカー)
2017 IIFA Utsavam Awards タミル語映画監督賞・タミル語映画助演女優賞(ベイビー・ナイニカー)・タミル語映画悪役賞(マーヘンドラ)
2017 Behindwoods Good Medals Ceremony 観客選出監督賞・観客選出男優賞(ヴィジャイ)・観客選出女優賞(サマンタ)
Techofes Awards 人気監督賞


「テリ」を一言で斬る!
・襲撃時にボコボコにされるヴィジャイが、ホント頭を攻撃されてスーリヤみたいに短期記憶障害とかにならなくて良かったねえ…みたいな(それはGajini)。

2017.6.30.

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*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*2 さらに、ヴィジャイの娘ディヴィヤーも特別出演!
*3 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*4 子供たちやヒロイン、平和な日常などなど。
*5 そのうち、前者はカメオ出演。
*6 聞いても意味まで理解出来ない身だから、流暢かどうかの最終的ジャッジは出来ませんけど。