インド映画夜話

Thuppakki 2012年 174分
主演 ヴィジャイ(一部撮影も兼任) & カージャル・アグルワール
監督/脚本/原案/台詞 AR・ムルガドス
"お前がどこの誰かは知らん。だが今度はオレがお前の所に行く…お前を殺しに"
"…いつでも来いよ"




 インド軍大尉のジャガデーシュ(通称ジャグーまたはジャガ)は、休暇でカシミールからムンバイに帰って来たその日に、家族に率いられて突如見合いの席に出席させられてしまう。
 その気のないジャガデーシュはさっさと見合いを断り家路に着くも、翌日の市内観光中、女子校ボクシング決勝戦のリング上に見合い相手ニーシャを認めて仰天! 昨日は古めかしいだけの女性と思われた彼女は、実はスポーツ万能な現代ムンバイっ子だったのだ!

 彼女の勇姿を見て、一転してニーシャとの見合いの再会を求めるジャガデーシュと、それに怒り心頭なニーシャとのドタバタが続くある昼日中、ジャガデーシュの目の前で突如バスの爆破テロが!!
 その現場から逃走しようとした犯人をジャガデーシュが拘束したものの、警察に連行された男はその夜すぐに医者と警察を殺して逃走。警察組織を巻き込んだ大規模テロの動きを察知したジャガデーシュは…!!


挿入歌 Google Google (グーグル・グーグル)

*色々な障害を経て、晴れて婚約者同士となったジャガデーシュとニーシャーの喜びのディスコソング。
 このシーンに、監督のAR・ムルガドスと撮影監督のサントーシュ・シヴァンがゲスト出演してたりする。


 タイトルは、タミル語(*1)で「銃」。
 タミルスターのヴィジャイ&カージャル主演で、ヒットメーカー監督AR・ムルガドス7本目の監督作となるアクション大作。2012年のディワリ(*2)に公開されて、12年度最高ヒットとなったタミル語映画である。
 同名タイトルでテルグ語(*3)吹替版が、14年にはムルガドス監督自身によるヒンディー語(*4)リメイク作「Holiday: A Soldier Is Never Off Duty(ホリデイ -兵士であれ-)」、バーバ・ヤーダヴ監督によるベンガル語(*5)リメイク版「Game(ゲーム)」、さらに15年にはヒンディー語吹替版「Indian Soldier Never on Holiday(インド兵士に休暇はなし)」も公開されている。

 ボリウッドのお膝元マハラーシュトラ州ムンバイを舞台にして、そこに潜む数々のスリーパー・セル(潜入テロリスト)たちを相手に、その陰謀を潰すために立ち上がる休暇中の軍人ヒーローの闘いを描くサスペンスアクションの傑作!
 そのサスペンスの作り方や、ラブコメとシリアスアクションの構成具合といい、本作の翌年公開のヴィジャイ主演作「Thalaivaa(指導者)」との映画構成上の類似点も興味深い。監督は違うけども、この2作の善悪逆転具合や日常の中に潜むテロの危険描写をくらべてみるのも一興…か?
 ヴィジャイ演じるジャガデーシュの見合いから始まる物語の転がり具合、事件が事件を呼んで、次々と起こる小気味良いドンデン返しがぐいぐいこっちの感情を揺さぶり、出演者たちの多彩な丁々発止具合も盛り上がって最後まで目が離せません。さすがは叩き上げのムルガドス監督の作劇術の素晴らしさよ!

 主役ジャガデーシュを演じるヴィジャイは、同じ年には主演作「Nanban(友情)」と、ゲスト出演でヒンディー語映画「Rowdy Rathore(暴れん坊ラトール)」にも出演。本作でフィルムフェア主演男優賞ノミネートされている。
 ヒロイン ニーシャにはタミル語・テルグ語両映画界で活躍するカージャル・アグルワール。本作でCineMAA映画賞のタミル語映画主演女優賞を獲得。同年には、本作の他タミル語映画では「Maattrraan(お互いに)」、テルグ語映画では「Businessman(ビジネスマン)」「Sarocharu(ねえ君、来て)」にも主演している。
 ラスボスを演じるヴィディユト・ジャームワールは、1980年ジャンムー・カシミール州ジャンムー生まれ。父親はケーララ人の軍人で、軍事訓練のためインド各地を渡り歩いていたと言う。3才頃からカラリパヤットなどさまざまな武術を習い、マーシャルアーツの学位を所得。25カ国以上を渡り歩いて格闘技ショーに参加していたとか。別名"ボリウッドの新世代アクションヒーロー"。
 モデル活動の後、11年のテルグ語映画「Shakti(シャクティ)」の端役出演で映画デビューし、同年のヒンディー語映画「Force(フォース)」にて何千人もの中からラスボス役に選抜されてメジャーデビューして複数の新人賞を獲得(*6)。翌12年に「Billa 2」と本作でタミル語映画デビュー。13年には、ヒンディー語映画「Commando(コマンドー)」で主役デビューを果たす。自身の出演作では必ずアクションシークエンスの振付、デザイン、スタントチーム作りを務めているとか。

 マサーラー映画によくある、テロリストを相手とするポリスアクション大作かと思うとさにあらず。
 警察組織にも潜んでいるスリーパーをあぶり出すため、休暇中の軍人が自発的にテロリストとの対決に乗り出す愛国心を鼓舞する変則ヒーロー像が、一般人の顔して都市部で生活するテロリストとの対称構造となって、情報戦で双方勢力をあぶり出そうとやりあう展開は熱い。上層部の命令とか組織の仕事としてミッションが始まるのではなく、善悪どちらも自発的に集まったメンバーによる大都市ムンバイの日常をかけた戦いが、一般生活圏のすぐ隣で行なわれている恐さ、カッコ良さ、パワフルさ、ギリギリな焦燥感がスンバラしい。
 街中が突然戦場になるテロとの戦い、廃工場や船の上での格闘戦(*7)、1つの手がかりから着実に目標へと辿り着こうとするその執念が丹念に積み上げられるシークエンスでの、各出演者たちの魅力が相乗効果で高められる盛り上がりが、映画としてホントにカッコいいですわ!!

挿入歌 Antarctica

*これはテルグ語吹替版?


受賞歴
2012 Ananda Vikatan Awards 主演男優賞(ヴィジャイ /【Nanban】と共に)
2012 Edison Awards 編集賞(スリーカル・プラサード)・プロデューサー賞(カライプリ・S・ダーヌ)・作詞賞(マダーン・カールキィ / Google Google)

2013 Vijay Awards エンターテイメント・オブ・ジ・イヤー賞・作品賞・監督賞・人気ヒーロー賞(ヴィジャイ)・人気ヒロイン賞(カージャル)・人気歌曲賞(Google Google)
2013 South Indian International Movie Awards 批評家選出主演女優賞(カージャル)・悪役賞(ヴィデュット・ジャムワール)・音楽監督賞(ハリス・ジャヤラージ)・格闘シーン振付賞(ケチャ)
2013 Cosmopolitan People's CHoice Awards タミル語映画主演男優賞(ヴィジャイ)・タミル語映画主演女優賞(カージャル)
2013 CineMAA Awards タミル語映画主演女優賞(カージャル)
2013 Chennnai Times Film Awards 作品賞


「Thuppakki」を一言で斬る!
・カージャルのパンチ、どのシーンでもまったく腰が入ってませんなあ…(わざと?)。

2019.8.3.

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*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。その娯楽映画界を、俗にコリウッドと呼ぶ。
*2 秋に行なわれるヒンドゥーの正月祭。その年の大作映画が続々公開される期間でもある。
*3 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*4 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*5 北東インド 西ベンガル州とトリプラ州の公用語。
*6 さらにこの年には、日本公開作「スタンリーのお弁当(Stanley Ka Dabba)」にも出演している。
*7 本格的なマーシャルアーツの身のこなしの凄まじさよ!