インド映画夜話

Toilet: Ek Prem Katha 2017年 155分
主演 アクシェイ・クマール(製作補も兼任) & ブーミー・ペードネーカル
監督/編集 シュリー・ナラーヤン・シン
"愛を育てたくば、家にトイレを作れ"




 マハトマ・ガンディーが目指した"清潔なる母国"はいまだ実現していない。しかし現在、ようやくにして、それが実現できる一歩が踏み出され始めている…。

 マトゥラー近郊の農村マンドガオンにて、自転車屋を営むケーシャヴ・シャルマーは、配達途中に出会った女性の啖呵を受けて彼女に一目惚れ。その女性が配達先の家の娘ジャヤー・ジョーシーと知ってあの手この手で彼女の気を引こうとする。
 その彼女との衝突や保守的な父親からの無理難題を越えて、両思いになった2人は晴れて結婚まで行き着くが…その翌朝、ジャヤーは夜明け前に村の女性たちに起こされることに。
 「なにしてるの。早く村外れの茂みまで行きましょう。この村では皆、夜明け前に用を足しに行くのよ。まさか旦那さんがトイレを作ってくれるわけでもないでしょう?」

 村にトイレがないことに衝撃を受けるジャヤーの怒りは日に日に高まり、なんとか彼女のためにトイレを確保しようと策を弄するケーシャヴを尻目に、ついにはジャヤーは実家へと帰ってしまう…。


挿入歌 Gori Tu Latth Maar ([ああ愛する人よ] 君の杖で、愛する僕を殴ってくれ)

*マトゥラー周辺でのホーリー祭では、ラットゥと呼ばれる木製の杖で人々が(大体はカップル同士で?)お互いに叩き合う風習があるんだそうな。


 インド国内のトイレ事情改善政策を風刺する、ヒンディー語(*1)大ヒット作。
 インドと同日公開で、スイス、フランスで、1日遅れてインドネシア他でも公開。

 その物語は、実際にマディヤ・プラデーシュ州で起こったアニーター・ナッレ夫婦の事件をもとに脚色したものとクレジットされるている。
 後に映像作家プラヴィーン・ヴィヤスが自身のドキュメンタリー「Manini」からいくつかの台詞を盗用しているとして本作を訴えているとか。

 ナレンドラ・モディ政権が提唱する「きれいなインド」キャンペーンに呼応した、インド国内で問題になっているトイレのない地域の屋外排泄習慣の撲滅、それに関連した感染症などの社会問題の解決を訴える映画で、そう言う意味では現代インドにおけるタイムリーな映画であるとともに、かなり教条的な映画にもなっている。もっとも、政治キャンペーンの応援映画かと言うと、インド全戸へのトイレ設置が遅々として進まないお役所仕事への批判めいた皮肉も全開で、"インドの今”を的確に映画に落とし込んだ人情劇の佳作といった感じ。

 15年公開作「ヨイショ! 君と走る日(Dum Laga Ke Haisha)」に続く2本目の映画出演となる(*2)ジャヤー役のブーミー・ペードネーカルは、早口の啖呵も調子良く、堂々とした役者っぷり。ホント、元一般会社員だったとは思えない貫禄&美しさでありますことよ。なんか、かすれた時の声がプリヤンカを彷彿とさせますわ。
 映画開始から50分ほどが、主人公ケーシャヴとジャヤーの(多少強引な)古典的なロマンスで費やされる所に、律儀に物事の経緯を細かに描かないと気のすまないインド式作劇法を感じてしまうけれど、そののんびりさを耐えられれば、あとは「トイレを作るか作らないか」のドタバタ悲喜劇がテンポよく展開するユーモア溢れる人情劇となっていって楽しい。

 なんと言っても衝撃なのは、トイレのない村という存在であり、その状態を良しとして「なんでトイレなんて不浄なものを作んないといけないんだ」と反発する村人たち(*3)の強固な保守性だったりする。
 そりゃまあ、以前の日本だってトイレは"御不浄"とか言って家とは別に建てて分けてあったそうだけど、食欲や睡眠欲と同じレベルの生理的欲求である排泄欲をタブー視して「その辺でやればいいじゃん」ってなるのはなんというか…カルチャーショックってこう言うもんなんですねえ…。きれいなトイレのない所で暮らせるかと聞かれれば、そりゃあ…ねえ。旅先でも、清潔なトイレのない所は、私ちょっと無理でございますワヨ。

 監督&編集を務めたシュリー・ナラーヤン・シンは、1971年ウッタル・プラデーシュ州バルランプル生まれ。
 08年のヒンディー語映画「Don Muthu Swami(首領ムトゥ・スワーミー)」「A Wednesday(ある水曜日)」で編集を担当して映画界入り。その後も編集担当として働いて行く中で、12年の「Yeh Jo Mohabbat Hai」で監督デビュー。本作が2本目の監督作となる。18年には続く監督作「Batti Gul Meter Chalu」でプロデューサーも兼任、翌19年にも監督作企画が控えているとのこと。

 女性たちの衣裳をのぞけば、そこまでカラフルでもなく地味〜な画面が続く田舎の風景がリアルな映画なんだけど、そんな素朴な舞台で巻き起こるトイレ問題の切実さが身に迫れば身に迫るほど、「きれいなインド」キャンペーンの理想像の重要性が浮かび上がってくる感じ。
 それに対して、ロマンス度高めのミュージカルがホーリー祭を舞台として、そんな農村地域を極彩色に染め上げるのは、皮肉なのかインド式の「綺麗」なのか…って対比具合も効果的デスネ!

挿入歌 Toilet Ka Jugaad (トイレを準備せよ)


受賞歴
2017 Zee Cine Award 視聴者選出作品賞・驚異的インパクト賞
2018 National Film Awards 振付賞(ガネーシュ・アチャーリヤー / Gori Tu Latth Maar)
2018 Matri Shree Media Awards 注目作品賞
Dadasaheb Phalke Film Foundation Awards 主演女優賞(ブーミー)


「Toilet」を一言で斬る!
・街中育ちのジャヤーの家はともかく、ケーシャヴの家は親のいうこと絶対で父親に逆らえないんだなあ…と思ったら、父親は父親で自分の親には逆らえないのがなんとも。

2018.12.8.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 この間に、ネット公開のドラマシリーズに出演していたりする。
*3 含む女性たち。