インド映画夜話

秘剣ウルミ バスコ・ダ・ガマに挑んだ男 (Urumi) 2011年 120分(オリジナルは160分)
主演 プリトヴィラージ(製作も兼任) & プラーブ・デーヴァ & ジェネリア・デスーザ
監督/製作/撮影監督 サントーシュ・シヴァン
"目を見開け。我々の敵は、ポルトガルのはずだ!!"




 神話では、ヴィシュヌ神の化身パラシュラーマの投げた斧によって生まれたと言うケーララの地は、しかし、歴史上ではポルトガル人航海士バスコ・ダ・ガマのカリカット(現ケーララ州コーリコード)到達によって、西暦1498年に"発見"されたとされる…。

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 現代のケーララ州で遊び暮らすクリシュナダース(通称KD)は、母方の祖父の土地が莫大な金額で多国籍企業に売れる事を知らされ、さっそく友人を連れて現地の様子を見に行く事に。しかし、土地の売却話を聞きつけた人々は2人を縛り上げ、かつてこの土地を守りポルトガルと戦ったKDの祖先の話を語り始める…。
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 時に、16世紀初頭。
 バスコ・ダ・ガマ率いるポルトガル船団の再来によって、当時この地を治めていたチラケル王国(*1)は数々の苦汁をなめさせられていた。
 ポルトガル人の略奪や虐殺から生き延びた少年ケールーは、戦士でもあった亡き父チラケル・コットバルの言葉に従い、インド古来の武器ウルミ(金属鞭状の剣)を作って、恩人であるムスリムの友人ヴァヴァリと共にポルトガルへの反旗を翻さんとする…!!

挿入歌 Aaro Nee Aaro

*その楽曲が、カナダ人シンガーソングライター ロリーナ・マッケニットの"Caravanserai (アルバム「アンシェント・ミューズ〜古代の女神」収録曲)"の剽窃であるとして訴えられ、著作権侵害であると確定した問題の歌(のために、国際版、タミル語吹替版、ヒンディー語吹替版ではカットされている)。

 16世紀の南インドを舞台とした、マラヤーラム語(*2)の歴史映画大作。タイトルは、劇中にも登場するインドの伝統的な剣のことで、植民地時代に一旦廃れながら、現在も南インドの武芸技の一種として継承されているそうな。
 同名タイトルでテルグ語吹替版が、「Urumi: Padhinaintham Nootrandu Uraivaal」のタイトルでタミル語吹替版が、2016年にはヒンディー語吹替版「Ek Yodha Shoorveer」も公開された。
 日本では、2011年にNHKアジア・フィルム・フェスティバルにて110分の国際版で上映。2014年にNHK-BSにて放送された。

 現在のケーララ州でも"偉人"として学ぶと言うバスコ・ダ・ガマ到来を背景にして、その外国勢力に翻弄されるインドの抵抗具合と故国への愛着を呼び起こそうとする一大時代絵巻。
 当時のマラヤーラム文化風俗を色濃く反映させた画作りも色々興味深いし(*3)、撮影監督畑のサントーシュ監督作に共通する映像密度、その湿度の濃いケーララの状景の美しさだけでも一見の価値あり。
 ポルトガル船団の到来によって起きるインドの混乱と、その内外の闘争のむなしさ、対比的に描かれるインドの大地に根付く旺盛な生命力、それぞれの立場でポルトガル勢力と対峙する人々の生き様は、見る前に予想されていたよりも泥臭いながら叙情的。アクションよりも、それぞれの理由からケーララの地に集まってくる人々の生き方のありようを描くことが中心に来ている。

 監督兼プロデューサー兼撮影監督を務めたのは、1964年ケーララ州トリヴァンドラム(*4)生まれのサントーシュ・シヴァン。
 芸術家一家の生まれで、父親はカメラマン兼映画監督のシヴァン。弟に、マラヤーラム語映画とヒンディー語映画で活躍する監督兼脚本家兼プロデューサーのサンギート・シヴァンがいる。子供の頃から祖母に絵と音楽を習い、父親の映画撮影業について南インド各地を訪れてその民間伝承に触れて育ったそうな。
 インド映画&テレビ研究所卒業後に、カメラマンとして活躍。86年のマラヤーラム語映画「Nidhiyude Katha(秘宝)」で撮影監督デビューとなったよう。88年には、初監督作となる英語のショートフィルム「Story of Tiblu」でナショナル・フィルム・アワードの短編フィクション映画賞を獲得したのを始め、以降の各作品で撮影賞・作品賞を獲得していくヒットメーカーヘと育っていく。96年の「Halo」で長編映画監督デビューし、本作が10本目(うち短編2本)の監督作。本作は、初のプロデュース作でもある(*5)。11年には「Makaramanju(磨羯宮の霧)」で有名なケーララ人画家ラージャ・ラヴィ・ヴァルマー役で出演して役者デビュー。14年には、国からパドマ・シュリー(*6)を贈られてもいる。
 日本でも公開・上映されたものでは、撮影監督を務めた「インディラ(Indira)」「ザ・デュオ(Iruvar)」「ディル・セ(Dil Se..)」「ラーヴァン(Raavan / Raavanan)」などの他、監督作では「マッリの種(Malli)」「ナヴァラサ(Navarasa)」「タハーン/ロバと少年(Tahaan)」がある。

 初期コンセプトとして、グローバル社会の移民と先住民の衝突、それによるグローバル社会の副作用を描きたかったと言う本作は、ポルトガル人を悪役としながらも、たしかに「対西欧」と言うよりも「インド人それぞれの団結と不和具合」が前面に出ている感じ。
 多少説教臭のある序盤と終盤の現代編では、本編の登場人物を反映させた同一キャストによる現代人たちの目線で、合わせ鏡のようにインドへの愛着と団結を呼びかけるのも、わかりやすいと言えばわかりやすい。まあ、16世紀編の方も権謀術策が長々と展開されるのが、多少たるくもあるけども。
 とにもかくにも、日本ではあまり馴染みのないインド洋貿易の歴史と、その中核勢力だった南インドの貿易港を巡る地元勢力とポルトガル人の争いの歴史を確認するにはもってこいの一本。あんな剣が、ホントに実用的なの? と思ったら、是非見て確認してみよう(*7)

挿入歌 Chalanam Chalanam (動け動け)

*これはタミル語吹替版の方かぬ?
 踊ってるのは、「女神は二度微笑む」「フェラーリの運ぶ夢」に出演しているヴィディヤー・バーラン。本作では、16世紀編で踊り子マッコム役、現代編で教師ブーミー役の2役を演じてるこの人、もともとはケーララ州生まれの人なんだよ!

受賞歴
2011 Nana Film Awards 助演男優賞(ジャガシィー・スレークマル)・撮影賞・音楽監督賞(ディーパク・デーヴ)・作詞賞(ラフィーク・アーメド)・女性プレイバックシンガー賞(マンジャリ・バブー)・メイクアップ賞(ランジース・アンバディ)・主演男優賞
2011 Reporter Film Awards 撮影賞・美術監督賞(スニル・バブー)・BGM賞(ディーパク・デーヴ)・音響ミキシング&録音賞(M・R・ラージャクリシュナン&アナンド・バブー)
2012 スペイン Imagineindia International Film Festival 作品賞・監督賞
2012 Kerala State Film Award BGM賞(ディーパク・デーヴ)・録音賞(M・R・ラージャクリシュナン)
ドバイ AsiaVision Movie Awards 主演女優賞


「秘剣ウルミ」を一言で斬る!
・銃火器武装の外国勢力に対して、異様に強い近接武器使いの戦士たちが圧倒させていくインパクトって、なんとなーく『ラストサムライ』的なオリエンタリズムに見えて来ますな…(結末はもっと複雑だけども)。

2017.8.10.

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*1 現ケーララ州北部〜カルナータカ州南部一部地域を治めていた、ドラヴィタ古来の血統から派生したコーラッティリ王家による国。別名コーラットゥナードゥ、コーラ・スワローパムなど。
 王統は伝承では6世紀以前から、独立性としては12世紀頃〜1801年の英国への譲渡まで続いた、らしい。





*2 南インド、ケーララ州の公用語。
 その映画界は、俗にマラヤーラム+ハリウッドでモリウッドと呼ばれる。
*3 どこまで史実通りなのかは知らんけど。
*4 現ティルヴァナンタプラム。ケーララ州都。
*5 ただ、本作では挿入歌「Aaranne Aarane」が剽窃であると訴えられ逮捕状を出されたとか。
*6 一般国民に与えられる4番目に権威ある国家栄典。
*7 …って言うほどには、剣技を見せてくれるシーンは多くないけども。