ヴィクラム (Vikram) 2022年 174分
主演 カマル・ハーサン(製作/作詞/歌も兼任) & ヴィジャイ・セードゥパティ & ファハード・ファーシル他
監督/脚本 ローケーシュ・カンガラージ
"街を彷徨う獣たちの幽霊はまだ…生きている"
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2019年9月3日、チェンナイ郊外。
男が倉庫に荷物を押し込めながら、中の様子を報告していた。「ここは武器庫です。全てスクラップ同然ですが。…大量の袋もあります。コカインではないようです…?」
日付は遡り2019年7月6日、チェンナイ。
警察は、誘拐された泥酔男カルナン救出のために犯人たちが集まる現場を取り囲んでいた。「…これは殺人ではない。声明だ。我々は宣戦布告する…お前たちのシステムに対して」5人組の覆面犯人グループはカメラを前にそう言い残すと、カルナンを刺殺し、手榴弾でその場を混乱させて現場から速やかに逃亡してしまう…!!
同じ事件がすでに2回連続発生していた。7日毎に同じ声明とともに殺人が行われて、その現場映像が警察に送られてもいる。事件担当のホセ署長は、証拠1つ残さない犯人捜索のために、隠密捜査官アマルを招集し捜査を命じる。彼は身分証もなく、口座もなく、本名を持たない政府の駒として動く諜報員。アマルは早速、犠牲者の2人(麻薬取締官プラバンジャンとステファン・ラージ)に対して、その1人プラバンジャンの義父でしかない第3の犠牲者カルナンなる一般人を疑い、カルナンを同居させていたプラバンジャンの残された妻と幼子、カルナン周辺の動向捜査を開始。次第に酒浸りだったと言う彼の生活圏から奇妙な符号を発見し、それを糸口にチェンナイの裏社会に潜む大規模な影を見つけていく…。
挿入歌 Pathala Pathala (足りない足りない [心がもっと欲しがっているぞ])
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*主演カマル・ハーサン自身による作詞・歌(歌手は、さらに本作音楽監督であるアニルド・ラヴィチャンデルも参加している)を担当した映画一発目のOPソング。
タイトルは、事件の中心人物のコードネーム。
サンスクリット由来の名前で「仕事に専念する者」「勇気ある歩み」「勤勉なる人生」の意や、「勝利をもたらすヴィシュヌ神の権限」的な意味にも解釈されるそうな。
「囚人ディリ(Kaithi)」を監督したローケーシュ・カンガラージの、5本目の監督作にして、その「囚人ディリ」から世界がつながるローケーシュ・シネマティック・ユニバース2作目となるタミル語(*1)映画。何人か、「囚人ディリ」と共通するキャスト&スタッフがいて、物語的にも(いちおう)繋がっている。
そのプロットはまた、1986年のカマル・ハーサン主演作「Vikram」のオマージュ的な続編ともなっている。
インドと同日公開で、アラブ、イタリア、オーストラリア、カナダ、フィンランド、フランス、英国、アイルランド、シンガポールでも公開。
日本では、2022年にSPACEBOX主催の自主上映で埼玉・群馬・愛知で英語字幕版が上映。2025年に一般公開された。
「囚人ディリ」に続いて、こちらも評判通りの傑作サスペンス!!
当初は、ファハード・ファーシル演じる諜報員アマルを主人公にして、冒頭あっさり殺されたカマル・ハーサン演じるカルナンの不可思議な行動を探る「女神は二度微笑む(Kahaani)」みたいなサスペンスとして展開する本作。
しかし、お話は酒浸りの無職男カルナンの行動の裏に隠された意図が見え隠れするあたりから不穏度が爆上がりし、チェンナイの麻薬シンジケートを牛耳るマフィアグループとその一斉検挙を目論む警察の対立が鮮明になっていく中で、数々の集団内の思惑が裏切りに次ぐ裏切りで混乱し出し抜き合戦をし合う中で、警察内にいるマフィアの協力者、マフィア側に潜入する警察のスパイたちの画策する情報操作の中、当初アマルが追っていた覆面殺人犯グループの正体判明をもって、過去作「Vikram」とのつながりが強調され、市井の中に潜伏するかつての諜報員たちの独自の活躍が、闇の仕置き人としてマフィアも腐敗した警察組織をも敵に回した粛清として暴れ出す。
そこに、同時間〜少し前の出来事として「囚人ディリ」の物語も関わってきて、その登場人物たちのその後までもが描かれていくサービス満点の仕上がり。
警察とマフィアとの丁々発止の情報合戦と言い、犯人との追いかけっこと言い、夜のシーンが多いことも「囚人ディリ」との画面演出的な共通点となり、次々にテンポよく話が転がっていく濃密にして軽快なリズム感に支配された画面構成も見事。「囚人ディリ」より情報量が濃いいため、やや初見では追いきれない部分もあるんだけども、「囚人ディリ」共々このテンポ感に慣れてくると逆に中毒気味になってくるからオソロシイ…。
後半の主人公が背負う、タミル社会への絶望とそれでもなお正義を執行しようとする強い決意、その意思を固めるに至ったであろう過去の出来事が漠然と語られながら、現代のチェンナイに潜伏する諜報員たちがその牙を一斉に見せつける時の表情の変身ぶり、同時に画面を彩るコードネームと略歴を示すゲームの紹介画面のような転調もカッコ良すぎて「アメコミヒーローか!」ってツッコむことも忘れてしまいますわ。
音に過敏反応する赤ん坊を連れて、その赤ん坊の安全のためにチェンナイの闇に潜む危険に立ち向かう仕置人の背水の陣の覚悟、って意味では「囚人ディリ」で描かれた主人公のヒーロー性と共通するものがあるのも嬉しい配置。やっぱ、幼い子供とやさぐれおっさんのコンビは世界最強ですわ。うん。
ディリ役でカールティが(声だけ)出演してるのも「ワオ!」って唸ってしまうし、前作で散々危険な目にあわされている道案内役のカマチが、本作でも冤罪的にひどい目にあわされてるのがなんとも微笑まし。ディリを苦しめながらも直接対決しなかったり逃げ延びたマフィアの頭目たちも、本作でまだまだ悪事に余念がないのも「こいつらはもう!」って感じだし、最後に彼らを脅しまくる全シンジケートを牛耳るボス ロレックス役にスーリヤが出てくるのは「キターーーーーー!!!!!」でありますよ。スーリヤが熱血警官を演じる「Singam(シンガム)」の世界と繋がっちゃったりしないかな、とファン目線での妙な期待もしてしまうジャマイカ!(多分、つながらない)
「囚人ディリ」と本作の成功を受けて、続くシリーズ作としてカンガラージ監督続投でヴィジャイ主演作「レオ(Leo)」が公開されてるし、別監督によるユニバース作「Benz」は撮影中というし(*2)、予定だけなら「囚人ディリ」の直接の続編となる「Kaithi 2(仮)」、本作の直接の続編「Vikram Returns(仮)」さらにラスボスの名前を冠した「Rolex」の名前が挙がってるって言うんですから、こちとらワックワクですわよ。どこまでが実現するかは全くの不明なんだろうけども、カンガラージ監督作に共通する軽快な語り口、ノリノリのBGM、ヤクザ映画ながらも泥臭さのあまりないラップ調の物語構成の進化を、なにはなくとも期待していきたいですよ。この映像感覚の中毒性、それこそ監督の仕掛ける情報戦ですわ…!!!
挿入歌 Vikram (ヴィクラム)
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*わりとネタバレ注意。
受賞歴
2023 Filmfare Awards South 主演男優賞(カマル・ハーサン)
2023 SIIMA(South Indian International Movie Awards) 監督賞・主演男優賞(カマル・ハーサン)・助演女優賞(ヴァサンティ)・音楽監督賞(アニルド・ラヴィチャンデル)・男性プレイバックシンガー賞(カマル・ハーサン & アニルド・ラヴィチャンデル / Pathala Pathala)
「ヴィクラム」を一言で斬る!
・やはりこの映画も、ビリヤニ映画だった…(相変わらず色々不穏なシーンだけども)。
2025.11.8.
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