インド映画夜話

若さは向こう見ず (Yeh Jawaani Hai Deewani) 2013年 159分
主演 ランビール・カプール & ディーピカ・パドゥコーン
監督/脚本/原案 アヤーン・ムケルジー
"いつも急いでいると、人生の大切な瞬間を見逃すのよ。さあ、この瞬間を楽しみましょうよ"






 デリーに住むネイナー・タルワールは、親友の結婚式招待状を受け取ったついでに昔のアルバムを読み返していた。時に人は、ふと思い出に取り憑かれる事がある…。

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 8年前、医大生だったネイナーは、高校の同級生アディティ・メヘラーと再会し、彼女が親友たちと一緒にヒマーチャル・プラデーシュ州マナーリーへトレッキングに行く事を知らされる。彼女の言葉に感化されたネイナーは、人生で初めて親に反抗してトレッキング参加を決める…。

 翌日、彼女を待っていたのはクラスの人気者だった結婚恐怖症男のバニー(本名カビール・ターパル)とアディティ、そしてギャンブル好きなアヴィ(本名アヴィナーシュ)。その他の参加者それぞれが楽しむ旅行中、ネイナーは如何に自分が勉強漬けの生活を送って来たかを痛感させられるものの、バニーはそんな彼女を皆の前に押し出し、隠された魅力を引き出させ、旅を楽しめるように盛り上げていく。さらに、2人してリーダーが止めた禁断のブータ(人狩り)山の山頂目指して昇り続け、その道中でバニーは自分の夢…世界中のあらゆる所をこの目で見てみたい…を彼女に語って聞かせるのだった。
 トレッキングが終わる頃にはバニーを愛し始めていたネイナーだったが、アヴィが問いつめた所、彼は報道関係の学校への進学のため、数日後には渡米してしまうと言う!
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 そして現在。ネイナーはデリーで医者になり、アヴィは経営者に、バニーは世界を飛び回るTV番組スタッフに成長していた。念願かなって世界のあちこちを旅するバニーだったが、アディティのウダイプルでの結婚式招待ムービーを受け取った事で、8年前にインドに置いて来た様々な思いが蘇る…。


挿入歌 Dilliwaali Girlfriend (デリーの彼女の元から [離れてここへ来た])



  原題の直訳は、ヒンディー語で「この青春は狂気のように」。一度、私生活で恋人同士だったのが破局したランビールとディーピカが、再度集結したラブロマンスの傑作登場!
 日本では、2014年IFFJ(インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン)にて上映。翌2015年に東京で一般公開。

 前半はヒロイン ネイナーの目線で、人生の行き先に迷う大学生たちそれぞれの無軌道ぶり・思うように行かない人生への不安を描き、8年後のそれぞれの人生を照らす後半では、主にバニーの視点からそれぞれの夢の達成・諦観を通して前半の伏線を回収しつつ、誤解や衝突を越えてそれでも人生を前進し続ける若者たちの姿を浮き彫りにする青春劇。

 時間を隔ててなお持続する愛と友情の青春劇と言えば、ヤシュラジ映画の得意中の得意とする映画構成(*1)。緻密に仕込まれた過去の名作ボリウッドネタ(*2)もいい味出しているとは言え、やっぱなにをおいてもこの映画を傑作足らしめているのは、主要4人の登場人物の8年の歳月によって変わっていく人生のありようの対比を、効果的にかつ美しい人生讃歌にまとめあげている所。
 前半は、よくある自分探しテーマの青春劇ではあるものの、大学生4人のすれ違いの淡いロマンスが、8年の時間差をおいて蘇る後半の重みは見事。役者陣もさることながら、ノリノリの音楽をてがけるプリタム、真っ青なインドの空に映えるウダイプルを切り取る撮影監督V・マニカンダン、映画一族出身のアヤーン・ムケルジー監督共々台詞を担当したフサイン・ダラル、それを取りまとめた真打ちプロデューサーのカラン・ジョハールの手腕はさすがでありまする。

 前半の主役ネイナーを演じたディーピカ・パドゥコーンは、1986年デンマークはコペンハーゲンのコンカニ系(*3)家庭の生まれ。父親プラカーシュ・パドゥコーンはバドミントンのインド代表を務めたメダリスト。母親は旅行会社勤務と言う両親を持ち、妹はプロゴルファーと言うスポーツ一家。
 1才の頃にベンガルールに移り、子供時代からバドミントン選手とモデル業で活躍して2004年にモデル業に専念。翌05年にキングフィッシャー・アワードのモデル・オブ・ジ・イヤーを受賞し、アイシュワリヤー・ラーイの再来と謳われ、映画界からのオファーを受けて映画界入り。
 アヌパム・ケール・フィルム・アカデミーで演技修行し、06年のカンナダ語映画「Aishwarya」で映画&主演デビュー。続く07年にファラー・カーンに見出されて「恋する輪廻(Om Shanti Om)」でボリウッドデビューし、フィルムフェア新人賞を獲得して一躍スターダムへ。その後次々とヒット作に出演し続け、本作公開年の13年には本作含めて4本の主演作+ゲスト出演1作全てが大ヒットと言う活躍ぶり。自身を「ファイター」と語る体育会系な資質を見せつける、バイタリティあふれる演技を得意とする。
 日本公開作・上映作では「恋する輪廻(Om Shanti Om)」の他「チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ(Chandni Chowk to China)」「今時の恋愛(Love Aaj Kal)」「カクテル(Cocktail)」「チェンナイ・エクスプレス(Chennai Express)」等がある。
 08年の「Bachna Ae Haseeno(気をつけな、お嬢さん)」で主演同士だったランビール・カプールとの交際が取りざたされていたものの1年前後で破局。メディア上でも激しくランビールを責め続けて2人の共演は今後ないだろうと思われていた所での、本作での5年ぶりの再共演となった事も(ゴシップ的な意味で)話題に。

 後半の主役バニーを演じたランビール・カプールは、1982年ムンバイ生まれ。
 父親が名優リシ・カプール、母親もまた名優ニートゥン・シンと言うボリウッドを代表するカプール・ファミリー出身。アメリカのリー・ストラスバーグ・シアター・アンド・フィルム・インスティテュートで映画製作を学ぶも、学内の勉強は実践的でないとしてインドに舞い戻ってサンジャイ・リーラ・バンサーリの2005年監督作「Black(ブラック)」の助監督として映画界入り。助監督時代に相当しごかれながら(*4)、続くサンジャイ監督の2007年作「Saawariya(我が愛)」で主演デビュー。興行自体不発に終わったもののフィルムフェア新人賞を獲得。09年「Wake Up Sid(起きろ、シド)」でフィルムフェア批評家選出主演男優賞を獲得して人気を呼び、そのダンスパフォーマンスや演技力を武器に出演作を増やしていく。13年は本作の他に、「Besharam(恥知らず)」で主演、「Bombay Talkies(ボンベイ・トーキーズ)」でゲスト出演している。  日本公開作・上映作では、「バルフィ!(Barfi!)」「ロックスター(Rockstar)」「チャンスをつかめ(Luck by Chance)」など要チェック!

 まあしかし、バニーのような放浪癖に突き動かされるロマニー(*5)な人たちって実際に一定数いるよねぇ。うちの家系にも4分の1くらいそう言う人がいてねぇ……大変ですよ、そう言う人と暮らすのってのは。うんうん。まあ私はあそこまで劇的に苦労してる人たちは見たことなんて、当然ないけどさ(夫婦喧嘩レベルなら、まあ…)。


挿入歌 Badtameez Dil (傲慢で無礼な心は [誰の話も聞こうとしない])




受賞歴
2013 IIFAインド国際映画批評家協会賞 スタープラス最強ペア特別賞(ランビール&ディーピカ)
2013 BIG Star Entertainment Awards ロマンス映画賞

2014 Apsara Awards 台詞賞(フサイン・ダラル)・振付賞(レーモー/Badtameez Dil)・音楽監督賞(プリタム)・殿堂栄誉賞
2014 IIFAインド国際映画批評家協会賞 振付賞(レーモー)・助演男優賞(アディティヤ・ローイ・カプール)
2014 Screen Weekly Awards 人気女優賞(ディーピカ/Race 2、Chennai Express、Goliyon Ki Rasleela Ram-Leelaに対しても)・音楽賞(プリタム)・振付賞(レーモー)
2014 Zee Cine Awards 監督賞・パワークラブ=ボックス・オフィス賞・BGM賞(プリタム)・脚本賞(アヤーン・ムケルジー)・振付賞(レーモー)
2014 Bollywood Hungama Surfers' Choice Movie Awards 助演男優賞(アディティヤ・ローイ・カプール)
2014 Golden Kela Awards 最悪助演男優賞(アディティヤ・ローイ・カプール)

2014 Bollywood Hungama Surfers' Choice Music Awards 振付賞(レーモー/Badtameez Dil)
2014 Global Indian Music Awards 音楽監督賞(プリタム)・デュエット賞(トーチー・ライナ&レーカ・バールドワージ/Kabira)・音楽アレンジ&プログラム賞(ドゥルバジョティ・プーカン&ニキル・パウル・ジョージ&サニー・M・R/Badtameez Dil)
2014 Mirchi Music Awards 歌曲プログラム&アレンジャー・オブ・ジ・イヤー(ドゥルバジョティ・プーカン&ニキル・パウル・ジョージ&サニー・M・R/Badtameez Dil)




「若さは向こう見ず」を一言で斬る!
・とりあえず、勉強が嫌いだから美術やってたみたいな扱いは止めてくれたまえ。…否定はしないけどw

2014.12.19.
2015.7.26.追記

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*1 もっとも、この映画は、UTVモーション・ピクチャーズ製作だけど。
*2 DDLJやらバルフィやら。
*3 インド西海岸にあるゴア周辺の、コンカニ語を母語とするコミュニティ。
*4 本人いわく「虐待され続けた。しかし毎日学び続けた」。
*5 ジプシーと同義…そういやジプシーの起源ってインド系って説があるんだっけ?