インド映画夜話

WAR ウォー!! (War) 2019年 153分
主演 リティック・ローシャン & タイガー・シュロフ
監督 シッダールト・アーナンド
"世界を交錯する、諜報と銃弾!!"




 RAW(Research and Analysis Wing = インド諜報部)でも最高クラスのエージェント カビール・ダリワールが突如国を裏切り行方をくらませた。報告を受けたインド防衛大臣は命じる…「殺しなさい。他にも有能なエージェントはいるでしょう」!!

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 その2年前。
 国を裏切って殺された軍人を父に持つハーリド・ラフマニは、あえて父と同じ陸軍に進み、父を殺した陸軍のエージェント カビール少佐率いる特殊部隊への配属を希望する。彼の部隊が追行する任務のため、IS支配下のイラクでの大物テロリスト ハシブ拘束任務に成功してカビールに認められたハーリドは、彼らの最終目標リズワン・イリヤシの居所を掴みモロッコはマラケシュへと飛ぶが、そこで裏切り者の出現によって部隊は窮地に立たされてしまうのだった…!!
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 軍関係の要人2人を殺した裏切り者カビールの捜索にて、「お前は奴に近すぎる関係だ。リーダーにはしない」と厳命されたハーリドだったが、自分こそカビールの思考を一番トレースできると自負するからこそ、この命令に不服を示して単独で師であるカビールを追跡しようと決める。
 そのハーリドの前に不意に現れた当のカビールは、彼の甘さを指摘しつつ自分の目的か、次なる標的か、どちらか1つだけお前に教えようと告げてくるのだった…!!


挿入歌 Jai Jai Shivshankar (シヴァ神に万歳を)

*過去のわだかまり、右目の障害を越えて、正式にカビールの部隊に迎えられたハーリドを祝うかのようなホーリーの喧騒!
 春迎祭ホーリーが、「新たな人と人の出会い」を祝福する祭でもある事を物語上の両者の関係性にかけて表現するシーンでもある。加えて、長い冬が終わって季節が移り、物語が次の展開へ入っていく事を宣言するシーンでもある!


 シッダールト・アーナンドの6本目の監督作となる、アクション大作ヒンディー語(*1)映画。

 公開初日から記録的な人気を維持し、2019年度ヒンディー語映画最高売上記録、インド・アクション映画史上最高売上記録を達成。
 インド本国と同日公開で、アラブ、オーストラリア、ベルギー、ブラジル、バーレーン、カナダ、チェコ、デンマーク、フィンランド、英国、ギリシャ、ギアナ、アイルランド、イスラエル、韓国、オランダ、ネパール、ニュージーランド、米国などでも公開。ノルウェーでは「WAR - Hrithk vs Tiger」のタイトルで公開されてるそうな。
 日本では、2020年に一般公開。2022年には、新潟の高田世界館でも1日限定上映されている。

 インドに忠誠を尽くすはずの諜報員2人を主人公に、「裏切り」というキーワードによるどんでん返しの連続と超絶アクションで描かれるハイパワー&スピーディーな一作。
 インド国内の他、ポルトガル、イタリア、フィンランド、スウェーデン、スイス、オーストラリア、ジョージア(旧グルジア)各国での撮影が敢行され、ハリウッドや韓国映画で活躍するアクション監督による数々の特徴的シチュエーションのアクションの有様が異様にカッコええ。
 シッダールト・アーナンド監督の前作「バン・バン!(Bang Bang!)」でも主役を演じたリティックは、本作でもそのムキムキ筋肉を惜しげも無く披露し、よりシリアス顔で悩める軍人をねっとりと演じ切る。
 対して、そのリティックに憧れて俳優の道を志したというタイガーが、やはり劇中でもリティック演じるカビールに心酔して彼の活躍を心の支えとする弟子ハーリドを演じてるんだから、そのキャスティング意図のあからさま具合が楽しく、心踊るとともに、心地よい。そこにかぶってくる「裏切り」と言うキーワードのピリリと効いた味つけ展開が、映画の進行にともなっていやが上にも見てるこちら側の感情をかき乱してくれるんだからたまりまへんでホンマ!(*2)

 OPの、007かスパイ大作戦を彷彿とさせる本編映像をザッピングした映像構成をはじめ、数々の過去のスパイアクション映画をオマージュしたようなアクション振付や様々なアイテムの使いこなし方も楽し。
 ポルトガルの市街や山間を爆走するバイクチェイスシーンや北極圏の氷上爆走チェイスシーンなんて、よくもまあ…な凄まじい暴走っぷり。超絶アクションを演じる役者も大変ながら、それを撮影するスタッフにも相当な覚悟のいる現場でありますことよ。
 お話としては、「Dhoom 2(ドゥーム2)」や「バン・バン!」みたいなノリの軽い演技がなりを潜めてシリアス演技の多い本作のリティックながら、その「あり得ねーよ!」なアクションの連続から、ちょっとしたシーンで見せる茶目っ気がいい起伏となってタイガー以上に映画の顔として君臨しておりましたわ。2人のバディアクションっぷり全開な目配せとか、気を使った立ち位置の変化とか、重要な伏線への言及とか、師弟ものに欠かせない濃密空間も満載。あー、これはファンにはたまらないでしょうね…って遊びも多いから油断できまへん。

 もちろん、アクションを魅せることが第1目的の映画なためにシチュエーションや物語は外連味重視になって無茶な展開とかもあるんだけど、そんな無茶をこの目で見てみたい! と見てる間にどんどん欲が高まっていくんだから、観客のツボを心得た演出の巧みさに唸らされる。
 ヒロインの使い捨てっぷりが、欧米系スパイアクションらしさをより強調する感じなんだけど、そこをしっかり家族ドラマにつなげてくるのはええ根性してると言うか「なんでも拾いまっせ!」って言う脚本家の声が聞こえてきそう。数々の過去作オマージュの中でも、やっぱりスパイ大作戦へのリスペクト臭が強く漂う感じ。そう思ってみると、映画構成やOPの作り方とかにも、そんな意気込みが見えてくる…ような?

挿入歌 Ghungroo (足環の鈴が [壊れて落ちた])


受賞歴
2019 Screen Awards 振付賞(ボスコ=シーザー & トゥーシャル・カーリヤー / Ghungroo)・アクション賞(ポール・ジェニングス & オ・セヨン & パルヴェーズ・シェイクー & フランツ・スピルハウス)・編集賞(アーリフ・シェイクー)
2020 Filmfare Awards 女性プレイバックシンガー賞(シルパ・ラーオ / Ghungroo)・アクション賞(ポポール・ジェニングス & オ・セヨン & パルヴェーズ・シェイクー & フランツ・スピルハウス)・特殊効果賞(シェリー・バールダ & ヴィシャール・アーナンド & YFX)
2020 IIFA(International Indian Film Academy Awards) 音響ミキシング賞(アヌージ・マトゥール & プリタム・ダス)・振付賞(ボスコ=カエサル & トゥーシャル・カーリア / Ghungroo)・特殊効果賞(YFX)
2020 Zee Cine Awards アクション賞(ポール・ジェニングス & オウ・シー・ヤン & パルヴェス・シェイクー & フランツ・スピルハウズ)・振付賞(ボスコ=シーザー / Jai Jai Shivshankar)・特殊効果賞(YFX)
2020 ETC Bollywood Business Awards 最高収益・オブ・ジ・イヤー賞・300カロール・クラブ賞・人気予告編賞・クラブソング・オブ・ジ・イヤー賞(ヴィーシャル・ダドラーニー & シェーカル・ラヴジアーニ & シルパ・ラーオ & アリジット・シン & クマール / Ghungroo)・最高初日収益賞・最高収益監督賞


「WAR」を一言で斬る!
・不穏なシーンでの、不穏さを強調する揺れるカメラアングルは、なんか乗り物酔いしてしまいそう…。

2020.12.31.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 だからこそ、ノルウェー公開版タイトルの「WAR: リティック VS タイガー」なんてのが、よりたまりまへんでホンマにホンマ!!