ファンタジーな地名辞典

フュノン・グルウ

分類:山?
交通:可。英国ウェールズ地方南部のガース・ヒル
 
 映画「ウェールズの山」で舞台となる英国はウェールズ地方南部にある山、もしくは丘。「丘を登って山を下ったイギリス人」と言う奇妙に長い名字の由来となる場所である。
 イングランドからウェールズに入った時にまず最初に出くわすのがこの山で、かつては幾度もウェールズに侵入したイングランド勢力を押し返しウェールズを守った城壁のような山。ウェールズ人はこの事を誇りとしているらしい。
 さて地元の昔話に曰く。
 1917年。第1時世界大戦後のウェールズにイングランドから測量士がこの山にやってきた。グレートブリテンの地図にフュノン・グルウを取り上げるべきか否かを検討するために山を測量しに来たのだった。
 なにを馬鹿な、あれはウェールズの誇る立派な山だと村人は一様にその素晴らしさを説いたが、英国法律では「標高1000フィート(1)以上が山。そうでないなら丘」とある。山の高さは984フィート(2)。山は法律上丘になり、地図からの抹殺対象になったのだった。
 これに怒ったのが地元の人々。ウェールズを代表する山が、にっくきイングランド人によって丘に変えられたのだ。村は騒然、人々はカンカン。なんとかウェールズを代表する山を山と認めさせるために、ついに村人一同が山頂に16フィート分の土を運ぶ事を決定した。測量士は帰ろうとするわ大雨が降り続くわの災難にめげず、村人全員による16フィートの盛土によってフュノン・グルウは晴れて山と認定される。
 
 山か丘か。それが問題だ。ウェールズにとって。
 思いっきり映画のネタばれですが、この映画のよさはストーリーだけではないので是非とも御覧になって下さい。筆者必死の弁解でございます。
 さて、監督が幼い頃に祖父から聞いた話がもととなっている「ウェールズの山」。モデルはカーディフ近郊のタフズ・ウェルにあるガース・ヒルです。ヒルと呼ばれますが現在は山と認定されています。しかし、この山は映画のお話の後もたびたび測量されては、その都度高さが変わり丘になったり山になったりしてその度に地元の人々の盛土作業が行われたそうです。
 ウェールズ人にとってはここはまぎれもなく「山」でなくてはいけなかったのです。イングランド侵入に耐えた山。ウェールズを守る山。けして地図に載らない丘でもなければ、イングランド人に無視される丘でもない。ウェールズのイングランドに対する反感・対抗心は生半可なものではないようです(3)。高さだけでなく、気持ちの上でも「丘」か「山」かで存在意義が大きく変わってしまう妙な場所です。
 ちなみにタフズ・ウェルは英語。ウェールズ語ではフュノン・タフと言い、映画のフュノン・グルウもこれから来ているようです。

参考
「ウェールズの山」
クリストファー・マンガー 監督 MIRAMAX FILMS PARALLAX PICTURES 製作
2004.11.17.
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(1) 約305メートル。
(2) 約299メートル。ちなみに我らが日本では山か丘かは勝手に決められるらしい。
(3) 日本で言えば大阪対東京と言うトコか? どっちがどっちか深くツッコむと喧嘩になりそうなのでやめよう。…大阪対京都でも通じるかな?