ファンタジーな地名辞典

グランド・ホテル

分類:ホテル
交通:可能 ドイツはベルリン中心街にある高級ホテル
 
 「グランド・ホテル…。人々が来ては去り、何事もなし…」の台詞が印象的な、1932年度制作のアメリカ映画「グランド・ホテル」の舞台。
 ベルリンの中心街にある超高級ホテル。各界の名士が続々と宿泊に訪れ、オーケストラの音楽が奏でられる。劇中ではプリマドンナのグルジンスカヤ(1)、ホテル荒らしのガイゲルン男爵(2)、速記タイピスト兼モデルのフレムチェン(3)、会社合併の商談に来たプレイジング社長(4)、死を宣告され享楽的になるクリングレン(5)、元軍医のオッテルンシュラーグ医師(6)などが主要登場人物となってすれ違いながらそれぞれの人生ドラマを作り出して行く。
 1階ロビーが各階から見渡せる吹き抜け構造で、各階に円状に部屋が並ぶ。さまざまな人生の苦難を背負った人々が集まり、微妙にすれ違いながら各々の人生を見つめ直し、そして去っていく。その日その日でたくさんの出来事が起こりつつも、それでもなおホテルは平穏無事に次の日を迎える。グランド・ホテルとはまさに人生の縮図! …なんて言うとベタなキャッチコピー的でカッコエエね。

 いわゆる「グランド・ホテル形式」と言う作劇法を産み出した古典映画の傑作中の傑作が映画「グランド・ホテル」です。
 「グランド・ホテル形式」とは、1つの舞台に、複数の人々のドラマが並列進行して行く構造のお話。特に、主役級スターが一堂に会して、特定の主人公を決めずにそれぞれで1本のドラマが出来得るものを集めた作劇法を言います。どちらかと言うと舞台演劇が得意とする手法ですが、「グランド・ホテル」以降たびたび映画でも作られるようになりました(7)
 映画「グランド・ホテル」は第2次世界大戦の迫る1930年代初頭のベルリンが舞台(8)。これがまた、歴史的には微妙な時期に作られてるんですねぇ。映画内にはそんな空気は微塵も出てきませんが。

参考
「グランド・ホテル」
ヴィッキー・バウム 原作/脚本 エドマンド・グールディング 監督
Metro Goldwyn Mayer 製作

2008.9.2.
戻る

(1) 演じるのはグレタ・ガルボ。過去の帝政ロシア時代を懐かしみながら舞台恐怖症になっている。
(2) 演じるのはジョン・バリモア。通称"バロン"。小粋な紳士。お金に困ってるはずが、そんな事を微塵も見せないダンディズムの鏡。
(3) 演じるのはジョーン・クロフォード。働けど働けど貧乏から脱出できずに荒むキャリアウーマン。撮影当時、新進気鋭のジョーンとグレタ・ガルボが対立して同時に撮影所に入らなかったため、2人の共演シーンはない。しかし、映画的にはまったく違和感なくつながっているのがすんげ。
(4) 演じるのはウォーレス・ビアリー。合併が成立しないと倒産の憂き目に遭う社長。劇中で一世一代の賭けに出るが…。憎き資本家代表、と言った所か。
(5) 演じるのはライオネル・バリモア(男爵役のジョン・バリモアの兄)。しがない小市民っぷりを遺憾なく発揮する情けないサラリーマン…故に映画内ではトリックスター的で一番印象に残る。憎めないお父さん。
(6) 演じるのはルイス・ストーン。唯一、戦争の傷跡を(かすかに)引きずる医者。映画の最初と最後を締める名台詞を残す。
(7) 「グランド・ホテル」自体も元々は演劇用戯曲なので、舞台転換とか登場人物のシーン配分なんかは、けっこう演劇的。
 グランド・ホテル形式ものとしては、近年にハッキリ「グランド・ホテル」のパロディを公言した「THE 有頂天ホテル」(2005年公開の日本映画)の他、空港を舞台とした「大空港」(1970年公開の米映画)、クリスマスのロンドンを舞台とした「ラブ・アクチュアリー」(2004年公開の米英合作映画)などなどがある。
(8) 映画公開は、日本ではちょうど満州国が建国した年。翌1933年にはドイツでヒットラーが首相に選出される。もちろん、映画撮影はアメリカで行っているので、そんな国の事情とか国際情勢とかは出てこないけど、登場人物たちの経済的困窮なんかは世界恐慌を繁栄したもの?