ファンタジーな地名辞典

加賀の潜戸

分類:聖地/異郷
交通:風が吹いてなければ可。島根県八束群島根町加賀浦
 
 加賀の潜戸と書いて"かかのくけど"と読む。島根県八束群島根町加賀浦にある海食洞窟である。
 その昔、出雲の一地方の暗い岩屋の中でキサカヒメ(1)が子を産んだ。この時、キサカヒメは弓矢を失ったため、子サダノオホカミ(2)に「わが子よ、マスラカミ(3)の子ならば失せた弓矢を出してみよ」と言うと、子の方へ角の弓矢が流れてきた。子が「これではない」と投げ捨てると、次は金の弓矢が流れてきた。これをとって「暗い所であるよ」と射通すと矢は岩壁を突き通して加賀浦まで飛んだと言う。
 こうして出来たのが加賀の潜戸と呼ばれる洞窟である。出雲の四大神に数えられるサダノオホカミの産まれた場所であり、その信仰の中心地でもある。
 洞窟は、神の住まう新潜戸と別名「賽の河原」と言われる旧潜戸に別れる。
 新潜戸は、通る時は必ず大きな音を立てなければならない。そうしなければ神が旋風を起こし船は転覆すると言い伝えられている(4) 。その入口と出口には雫が落ちてきていて、清めの水とか母乳を授ける水とか言われている。
 新潜戸の裏側にある旧潜戸は、死んだ子どもの霊が集まる場所として水子地蔵が多数奉納され、子の霊にかわって小石を積み上げた塔が、足の踏場もないほど大量にある。古代、ここは子を産む産屋として使われていたそうで、それがいつしか死んだ子どもの供養の場に変わっていったと言う。
 ここは現在でも、子を亡くした親が供養に訪れ、霊となった子の早い転生を願う場になっている。
 
 現在も島根県に実在する場所で、観光船で行く事ができます。
 神秘的な海食洞窟である神道信仰の新潜戸と、石塔に覆われた仏教的・胎内回帰信仰の強い旧潜戸が表裏になっているなんとも不思議な(そして日本的な)場所です。
 サダノオホカミが神々を集めた場所とされる断崖絶壁の「錦が浦」や、高天原の領土を仕切るためにアマテラスと立てたと言われる「屏風が岩」(5)など、地元独自の景観に独自の神話が伝承されています。
 水子地蔵や胎内に模した潜戸内、キサカヒメとサダノオホカミ、母乳を授ける御手水鉢など、なにかと母子のつながりを強調するように感じられる場所です。

参考
「出雲國風土記」
加藤義成 校注 今井書店刊
「神々の国の首都」
小泉八雲 著 平川祐弘(祐は本来「示」偏) 編 講談社学術文庫刊
「新編 日本の面影」
ラフカディオ・ハーン 著 池田雅之 訳 角川書店刊
2004.8.31.
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(1) 赤貝の女神。カミムスビの娘神。記で傷ついたオホナムヂを治療するキサガヒヒメと同。加賀浦は貝や海草がよく採れる。
(2) 佐太大神。加賀を含む佐太地方一帯の国造神と言われ、天孫降臨の際にニニギを先導したサルタビコの別名とされる
(3) 益荒男の神で勇猛な男神の意か。原文では麻須羅神。
(4) これは小泉八雲によればこの辺一帯の難所や「魔」が棲む場所を通る時に一般的に行なわれていた石打のまじないと同じ流れの伝承らしい。
(5) これってアマテラスとサダ神が2神で高天原を支配してたって事になるけど…。復古神道派の人から怒られなかったのだろうか、と妙な心配&無駄なつっこみ。地元自慢の話だろうけど。