ファンタジーな地名辞典

ぺガーナ

分類:原世界/天上界
交通:死後のみ(?)
 
 世界が始まるよりも前、神々が現れるよりも遥か以前に、ふかいふかい霧のなかで<宿命>と<偶然>が賽をふって勝負した。そして勝った方がマアナ=ユウド=スウシャイに近づき「神を創ってくれ」と話しかけてから、ぺガーナにはマアナの作り出した神々と<なかの海>とスカアルの太鼓のこだまと、休息についたマアナ=ユウド=スウシャイだけがいた。
 ぺガーナはこの時<あらゆるもののまんなか>にあった。静寂のなかで神々は慰みに世界を創造し、色彩を与え、ついに<地球>がうまれた。そしてキブは戯れに生命を創りことばを与え、シシュは自らの猟犬<時>をけしかけ、ムングはムングの印形を押したてて生命を大地から放っていた。
 ふかい霧のなかで賭けにかったのがどちらだったのか、誰にわかろう。
 下界も天界も、ただスカアルの打ちならす太鼓のこだまなのかもしれないと、誰にわかろう。
 大地と星ぼしは、マアナが太鼓にうながされてむすんだ夢かもしれないと、誰にわかろう。
 終末がめぐる日が来ると、マアナ=ユウド=スウシャイは目覚めて世界と神々の全てが消え去り、マアナがただひとり、そこにいるのだろう。
 
 多少"ぶって"書いているので、イメージが曲解されてるかもしれません。もうしわけない。
 これは、ロード・ダンセイニ(本名 エドワード・ジョン・モアトン・ドラックス・ブランケット)の処女集に展開された創作神話の世界です。
 異国趣味的であり無国籍でありケルトの匂いも感じられるこの独自の神話は、ダンセイニが見た米国製の東洋劇に着想を得たとされます(「ペガーナの神々」解説参照)
 神秘的であり諦観に満ちた世界とそこに現れる魅力的ながら無慈悲な神々の群れは、宗教学以前のギリシャ・北欧・東欧・ケルトの信仰世界と、西洋から見た東洋のイメージが合わさった複合的な視野を与えてくれます。20世紀初頭に、神話と言うメディアを使ってこれだけのものを生み出したダンセイニにはただただ驚くしかありません。
 W・B・イエイツやルイス・キャロルなどに続きファンタジー文学を牽引し「アダルト・ファンタジー」と言うジャンルを築いたダンセイニは、その創作活動を通してほぼ1人で20世紀初頭のファンタジーを引っ張っていき、その流れはやがてJ・R・R・トールキンやC・S・ルイス、H・P・ラブクラフトに受け継がれていきました(最後のは亜流かもしれない)

参考
「ぺガーナの神々」
ロード・ダンセイニ 著 荒俣宏 訳 ハヤカワ文庫刊
「時と神々の物語」
ロード・ダンセイニ 著 中野善夫 中村融 安野玲 吉村満美子 訳 河出出版刊
2004.6.15.

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