きっと、うまくいく (3 Idiots) 2009年 170分 その日、飛行機の離陸直前に、ファルハーン・クレーシーの携帯の呼び出し音が鳴り響く。 「今日、ランチョーがやって来る」 その知らせに、無理矢理飛行機を降りて大学の同級生ラージュー・ラストーギーと共に母校ICE(インペリアル・カレッジ・オブ・エンジニアリング)に向かうファルハーンを待っていたのは、同窓生のチャトゥル・ラーマリンガムだった。 「ヤツと賭けをしたんだ。10年後に同じこの場所で再会しよう。そのときどっちが勝ち組か比べたやろうとね……だが、どうせヤツは来ないさ。負けを認めるのがコワいんだ」 ファルハーンとラージュー、そしてランチョー(本名ランチョールダス・シュヤマルダス・チャンチャル)は、大学時代に同部屋の「3バカ」と言われた親友同士。しかし、卒業と共にランチョーは音信不通になっていた。チャトゥルからランチョーがシムラーにいるらしいと聞かされた2人は、チャトゥルの車で一路シムラーを目指す…。 ************** 10年前。超難関を勝ち抜いてエンジニアになるためにICEに入学したファルハーンとラージュー。2人はさっそく待っていた先輩たちの新入生いじめと過酷な課題の山に恐れをなすが、そこに現れた新入生ランチョーだけは他と違っていた。 彼は、暗記型の詰め込み勉強よりも、発想の転換や研究の深化に興味を持つ知識欲を優先する学生。彼の破天荒な言動はいつも周りを混乱させ、「人生とは競争である」がモットーの学長ヴィール・サハストラブッデー(通称ウィルス先生)とは衝突ばかり。それでもランチョーは常にトップ成績保持者で、そんな彼を常時2番手のチャトゥルは深く恨み、学長ははらわたが煮えくり返るばかり。ついには、ファルハーンとラージューの家に連絡を入れ、2人の家族を盾に3バカの絆を割こうとしたが…。 ************** シムラーに到着した3人は、すぐに豪華なランチョーの屋敷を発見。その時、そこでは街の名士であるランチョーの父親の葬儀が行なわれていた。しかし、何故かランチョーの姿は… 挿入歌 Aal Izz Well (きっと、うーまくいーく) 小説家チェータン・バガット原作の小説数篇からインスパイアされた映画で、歴代ボリウッド史上で最大ヒットを記録した超大作!(*1) 日本では、2010年にしたまちコメディ映画祭にて「3バカに乾杯!」のタイトルで上映され、2013年ついに「きっと、うまくいく」の邦題で一般公開されて大ヒット! 各界から様々に絶賛されていました。 主演は、ボリウッドスターを代表する"3カーンズ"の1人で"ミスター・パーフェクト"の異名を持つ完璧主義者にして、"アワード・キラー"と称されるアーミル・カーン(本名 アーミル・フセイン・カーン)。 映画一族出身で子役から主演俳優に昇格し、'88年作「Qayamat Se Qayamat Tak」があたり役となりフィルムフェア男優デビュー賞を受賞後、コンスタントに主演作がヒット。初の製作&主演を担当した「ラガーン('01年作)」では、インド映画で初めてアカデミー外国語映画賞にノミネートされ世界的にも大ヒットした(日本でもイベント上映されDVD発売されてました)。 児童教育をテーマにした初監督&主演(助演?)作「Taare Zameen Par('07年作)」は児童映画としても社会派映画としても世界的に高く評価され、米国ではディズニーからDVD販売、訪印していたヒラリー・クリントンとの対談が組まれたほど。翌'08年公開の主演作「Ghajini」では、ボリウッドにサウスブーム(南インド風演出の映画ブーム)を巻き起こし、海外志向が高まりを見せていたボリウッドに"インド映画の意味"を再考させるきっかけを作ってインド映画の層の厚さを実証させ、国内の非ヒンディー語映画への注目度を高まらせた。本作は、この流れを受けた次の映画作品となる。 冒頭からサスペンス調の展開が始まったかと思えば、ナレーション担当のファルハーンの狂言騒動から主要人物がそろい出して本筋へと流れて行く構成でつかみはOKってなもんで、ラージクマール監督のデビュー作「Munna Bhai M.B.B.S.('03年作)」で見せた冴え渡った脚本・演出術の進化系を堪能させてくれる。 その「Munna Bhai M.B.B.S.」や、アーミル監督作の「Taare Zameen Par」でも描かれるインドの教育現場の問題を、登場人物たちの人生と照らし合わせて描き出す映画術はまさに至高。笑いと涙の緩急とその落差も心得たもんで、よくもまあ監督作3本目にしてここまでの完成度を誇る映画を作れるよね…と感心してしまう。 90年代以降のインドの急激な経済成長の影響を受けた国内の受験戦争の過酷さは、日本人の想像を遥かに超えるものらしく、インド全国から受験生が集まってくる工科大学の倍率はうなぎ上り(競争倍率40倍以上だそうな)。この受験戦争に落ちこぼれたインド人が、米国マサチューセッツ工科大学に進学するほどだと言うから恐ろしい。まさにトップ中のトップの頭脳が集まり、さらに学内でも選抜に次ぐ選抜を越えて生き残った超エリートを育成する大学生活は、日本のそれとは比べもんにもならないほど過酷…なんだそうな。劇中でも指摘されているけど、それ故に家族や周囲からのプレッシャーは並大抵ではないし、学生の自殺も珍しくないってんだからもう…。 お話は、そう言った現代インドの社会問題をテーマにしながらも、「Munna Bhai M.B.B.S.」のように人情コメディ色に片寄るでもなく、「Taare Zameen Par」のように教条的になるでもなく、登場人物たちそれぞれの生き様を時にコミカルに、時にシリアスに、時に詩的に描いて人生讃歌・生命讃歌へと昇華させて行く。そのドラマツルギーの多彩さとまとめ方のテクニカルさはたしかにインド映画史上に輝くほどハイレベル。うますぎて腹が立つわ! 無駄な所が1つもなく、かつ人生のそれぞれの場面を描ききる作劇・演出・構成・撮影・編集・音響・演技の幅はスバラしか! つい、自分の学生生活を振り返ってあれやこれや語りたくなるからオソロシイ。 見た後の爽快感と共に、エア・インディアを使ってラダックに駆け込みたくなる事請け合い。だって、急に体調崩してもエア・インディアなら手厚い看護してくれそーじゃなーい? 挿入歌 Zoobi Doobi (ズビドゥビ)
受賞歴
2013.7.12. |
*1 公開後にタミル映画版リメイク作「Nanban(友達)」が製作され、さらにハリウッドと中国もリメイク権を買ったそうな。 |