Alibaba 40 Dongalu 1970年 179分
主演 ナンダムリ・タラーカ・ラーマ・ラオ & ジャヤラリター
監督 B・ヴィッタラチャルヤ
"おお主よ。人々の運不運を操り、その様を楽しむ偉大なるものよ!"
挿入歌 Chalakaina Chinnadi (若い娘は愛らしく [その眼と身のこなしで貴方を釘付けにしてしまうわ])
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「神の御名においてハサンが命じる。開けよゴマ!」
その声とともに岩屋の扉は開き、今日も40人の盗賊団が街を襲撃しに出発する。
その日、盗賊団の頭領は戦利品の中に女の赤ん坊を発見。自分の娘として育てようと丘の上の砦に連れ帰った頭領は、女の子を"マールジャナ"と名付ける。
十数年後、美しい踊り子に成長したマールジャナと共に旅芸人に扮する盗賊団は、襲撃地候補の東の街を調べる途上でマールジャナにつきまとう調子のいい美丈夫アリ・ババと衝突する。団員を次々にどつき倒すアリに一目惚れしたマールジャナは、それから密かにアリとの愛を深め合っていくように…。
しかしそのアリは、実は兄である大商人カシムに扶養されるだけの能天気な遊び人。ろくな仕事もできないと蔑まれつつ、ある日隣人の斧を借りて芝刈りに出かけた折、偶然に盗賊団の岩屋の呪文を聞きつけ、中の財宝を目撃。密かにその財宝の一部を持ち帰ってしまい…!!
挿入歌 Bhamalo Chandamamalo (我らの、月の如く美しき淑女たちよ)
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*盗賊団の岩屋から持ち帰った財宝の山で、兄以上の資産を手に入れたアリ・ババが、街の人々に施し公共の広場も作った事を街の人々盛大にお祝いするの図。
テルグの大スター NTR(ナンダムリ・タラーカ・ラーマ・ラオ)主演による、「千一夜物語(*1)」を代表する一編(*2)「アリババと40人の盗賊」を映像化した牧歌的ファンタジー…と言うか、画面的にはマカロニ・ウェスタン風な一本。
50年代から活躍する映画監督兼脚本家のB・ヴィッタラチャルヤの、46本目の監督作。
1956年のMGR(マルトゥル・ゴーパラン・ラーマチャンドラン)主演のタミル語(*3)映画「Alibabavum 40 Thirudargalum (アリババと40人の盗賊)」の、テルグ語(*4)吹替版が本作と同じタイトルで公開されているそうだけれども、共通して「アリババと40人の盗賊」を原作としている以外に接点はない別物の映画、らしい(*5)。
テルグ語映画界には珍しい、イスラーム世界を舞台としたイスラーム教徒たちが主役で活躍する映画だ! …とワクワクで見てみれば、「アッサラーム」「フダー・ハーフィズ」と言ったイスラーム式挨拶が申し訳程度に出てくるくらいで、劇中の衣裳風俗は思い切りインドのそれ。最後の方に、アリ・ババ邸に旅商人に変装して乗り込んできた盗賊隊長が「我々は、はるばるアラビアからこのインドにやって来ました」とか言ってるから、劇中舞台はまんまインドだったのね!(*6)
同じく「アリババ」を映画化した66年のヒンディー語(*7)映画「Alibaba and 40 Thieves(アリババと40人の盗賊)」(*8)とも共通して「岩屋の仕掛けが機械的(*9)」「最後は岩屋内でのチャンバラ」「盗賊団の隠れている油壺を断崖絶壁に突き落として丸焼きにする」と言う要素が出てくるのは、どちらも親子で楽しめる安心設計を目指した映画だからでしょか(*10)。
神様映画で有名を馳せたテルグのメガスター NTRが演じる主人公アリ・ババと共に、もう一方の主人公マールジャナ(*11)を演じるのは、大女優にして後にタミル・ナードゥ州の州首相をも勤める事になる(ジャヤラーム・)ジャヤラリター。
1948年マイソール州(現カルナータカ州)マンディヤ県メルコートのアイアンガール・ブラーミン(*12)の家生まれで、父方の祖父はマイソール藩王国に仕えた宮廷侍医だったとか。
弁護士ながら仕事もせず家財を浪費するだけだった父親を2才の時に亡くして母親の実家で育ったのち、"ヴィディヤーヴァティ"の芸名で子役活動を開始し母方一家を支え始める。キャビンアテンダントになった妹が暮らすマドラス(*13)に母親と共に引っ越して、学業と女優業両方を継続。成績の優秀さを評価されて奨学金を得て大学進学を果たすものの、母親の言に従い大学を中退して女優業に専念する。
すでに57年のテルグ語映画「Mayabazar(幻影饗宴劇)」にノンクレジット子役出演して映画デビューしていた後、数々の古典舞踊を習得して英語・カンナダ語(*14)・ヒンディー語・テルグ語映画界で子役やダンサー役で活躍。64年のカンナダ語映画「Chinnada Gombe」で主演デビューし、翌65年には「Manushulu Mamathalu(人々の好意)」でテルグ語映画に、「Vennira Aadai(白いドレス)」でタミル語映画にそれぞれ主役級デビューし続け、その後は主にタミル語映画界で活躍。66年のタミル語映画「Chandhrodhayam(月の出)」でタミル・ナードゥ州シネマファン賞の主演女優賞を獲得したのを皮切りに、数々の映画賞を獲得していく人気女優に成長していく。68年には、「Izzat(敬意)」でヒンディー語映画主役デビューもして、69年には主演作であるタミル語映画「Adimai Penn(奴隷の女)」で歌手デビューもしている(*15)。72年にはカライママニ(*16)を贈られているのを始め、数々の功労賞、栄誉賞も贈られている。
長年共演の多かったタミル語映画スターMGRの設立したAIADMK(*17)の政治運動に参加したのをきっかけに、82年に初めて発表した党演説"Pennin Perumai(女性の偉大さについて)"が好評を博し女優業から政界へ転身。書記を経て正式な議会員として選出され、MGRの州首相時代に政党を支える看板議員として活躍する。MGRの死後、党の後継者闘争の激化の中でMGR夫人のジャーナキー・ラーマチャンドランを中心としたジャーナキー内閣が早期に総辞職に追い込まれると、与党から追われたAIADMK内もジャーナキー派とジャヤラリター派に分裂して派閥争いが本格化。ついに派閥争いに勝利し88年に3代目党首に選出され、91年の州議会選挙で圧勝。州首相となり、様々な政争を乗り越えつつ断続的に6期州首相を務めることとなった。
2016年、感染症や急性脱水症などの合併症で入院したのち、その年末に物故される。享年68歳。その死は、タミル・ナードゥ州の他ケーララ州、ポンディシェリ連邦直轄領、カルナータカ州、パンジャーブ州でも公式に追悼されていたと言う。
奇しくも、後のアーンドラ・プラデーシュ州首相とタミル・ナードゥ州首相が主役で共演してるってのも今となっては見ものだけども、本作において特徴的なのはそのジャヤラリター演じるヒロイン マールジャナの立ち位置。
原作ではアリババの兄の家に仕えていた聡明な奴隷、66年のヒンディー語版では盗賊団に滅ぼされた亡国の王女が踊り子に身をやつしている姿として出てくる役回りが(*18)、本作では盗賊団の強奪品の中から発見された赤子で強盗団の中で育てられた踊り子と言う設定で登場。アリ・ババへの愛から、彼をかばい盗賊団の隊長に責められて事故とは言え育ての父親を殺されて、その恨みを持ちながらアリの元へ逃げて行くという段取りだけでドラマチック度うなぎのぼり。奴隷という設定は綺麗さっぱり消えて、アリとの仲を進展させたいために母親の世話を甲斐甲斐しく焼く姿も可愛らしい。その上で、強盗団の手法を知り尽くしているからこそ、アリに迫った危機にいち早く察知して速攻で解決策を思いつく段取りが、自然な流れになるんだからうまい脚色具合でありますわ。
そういや、時代劇かと思ってた本作ですが、盗賊団が拳銃や猟銃で武装してアリ・ババ側もわりと簡単に奪って使ってしまってるあたり、移動手段は馬しかないとは言え中世世界を舞台にした時代劇というより、インド風世界を舞台にした西部劇的な雰囲気が強く、現代の文明機器がそこまで浸透してきていない近代世界って感じなのも意外。盗賊団の根城が、アリたちの町からどれくらい離れてるかがよくわかんないんだけど、馬で長いこと走った末に岩屋とその近くの岩山の上にある砦で生活している風なのが「へぇ」って感じ。それなのに「近所の山へ芝刈りに行ってくる!」と言ったアリ・ババが徒歩で出かけた先に偶然岩屋があるんだから、いとをかし。
顔と調子だけはとびきり良い主人公が、終始偶然の運命だけで良い思いをし続ける、その調子の良さっぷりもお話の牧歌性にピッタリ合ってる無責任さとも言えますかねえ…(*19)。
挿入歌 Ravoyi Ravoyi (ようこそ、お客様よ)
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*油樽に潜んでる盗賊たちを火あぶりにしながら崖下に突き落とす最中、それを計画したマールジャナは、事が露見しないよう盗賊団リーダーの前で大きな音を立てながら踊り明かす…の図(*20)。
原作では、煮えきった油で油樽の中の盗賊を殺したマルジャーナが、その後に復讐に戻ってきた盗賊の頭を歓待するふりをして踊りながら刺し殺す場面に当たるんだろうけど、本作ではこの時点で決着はつきません…!!
「A40D」を一言で斬る!
・馬の走る音が、どうにも軽いのね…。
2021.5.21.
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