インド映画夜話

Antariksham 9000 KMPH  2018年 140分
主演 ヴァルン・テージ & アディティ・ラーオ・ハイダリ
監督/脚本 サンカルプ(・レッディ)
"失敗するかどうかを問うな、どうすれば成功するかを問え"




 米国の国際衛星追跡局から連絡を受けたISC(=インド宇宙局)は、インド製通信衛星ミヒラの通信途絶事故の対応に追われていた。
 このままではインドの宇宙開発はもちろん、他国の衛星を巻き込んだ大規模な衝突事故を引き起こして、世界的な通信障害を起こす可能性が…!! ISCは、問題解決のためにロシアで宇宙飛行士訓練をしていたリアを急遽インドへと帰国させる…。

 その5年前。
 月面探査人工衛星ヴィプリヤーンの打上げ準備中に起きた通信故障に、システムエラー解決のために召集されたエンジニアのリヤは、ミヒラのシステム設計技師でありヴィプリヤーン開発主任のデーヴと知り合っていた。仕事に厳しくも、宇宙開発に大きな夢を抱き、局長の娘の小学校教師パール(本名パールヴァティ)と2人で未来の子供達に希望を見出してた彼こそ、ミヒラの全てを知る人物。
 …しかし、現在デーヴはISCにはいない。
 帰国したリヤはすぐにデーヴを探し出して助力を請うも、現在小学校教師をやっているデーヴは過去の出来事からかつての情熱を失い「もう、俺とは関係ないことだ」と頑なに協力を拒否するのだった…。


挿入歌 Antarikshayanam


 通信途絶した人工衛星の修復に立ち向かうエンジニアたちの活躍を描く、テルグ語(*1)SF映画。
 インドより1日早くクウェート、米国で、インドと同日公開でオーストラリア、英国、ニュージーランドでも公開されたよう。

 タイトルは、高速で動く人工衛星に直に乗り込むための速度条件の事で、劇中では「不可能な事」の意味合いを込めて使われている。
 潜水艦映画「インパクト・クラッシュ(The Ghazi Attack)」で監督デビューしたサンカルプ・レッディ2本目の監督作となる本作は、舞台を深海から宇宙へと変えて、そこでコントロール不能となった2つの人工衛星の復旧作業に立ち向かうインド人宇宙飛行士たちの葛藤を中心に据えたSFサスペンスお仕事劇。

 本作と同年公開のタミル語(*2)映画「Tik Tik Tik(チク・タク・チク)」や、翌年公開のヒンディー語(*3)映画「ミッション・マンガル(Mission Mangal)」など、同時期に現れたインドの宇宙もの映画の1本でありつつ、人工衛星運用に関わるエンジニアたちの気概と重圧、家族愛の延長線上にある仕事や国家への誇りを謳いあげる職人映画の側面が強い作品でもあるか。

 映画前半は5年前に起きた月面探査衛星の事故の顛末と、地上からそれに対処していた主人公デーヴの苦悩を、映画後半はその苦悩を引きずりつつも乗り越えようとするデーヴと、リアをはじめとした現役宇宙飛行士たちのミヒラ復旧作業を描きながら、次々にやってくるトラブルをそれぞれのやり方で乗り越えていくテンポの速い展開。
 わりと、事件発生〜解決までが同じ調子で何度も何度も繰り返されるので、そのスピード感に慣れてくる映画後半にはややだれてきてしまう所もなくはないものの、現役飛行士と退職した主人公との対立や、過去の惨事の決着を望むエンジニアたちの熱意、ギリギリの燃料で最後は人の手が頼りとなる作業の緊迫感など、プロフェッショナルたちのプロジ○クトX的な静かに熱いリアル路線のノリがカッコいい(*4)。

 基本的には、過去の傷を背負って苦悩するヴァルン・テージ演じるデーヴが全てを解決するヒーロー路線の作りなんだけど、そのデーヴを再び宇宙へと導いて助力するアディティ・ラーオ・ハイダリ演じるリアの頼れる助力者的な立ち姿も素敵だし、デーヴの急な宇宙飛行士加入に反発しながらも彼の能力と度胸はしっかり認める同僚宇宙飛行士たちの仕事への熱意も熱々にあっつい展開。
 そんなに現場に甘くていいんかい、と言いたくはなりつつもデーヴを理解し彼の家族愛・ひいては祖国愛を認めて無茶な復旧作業案に最後の最後にはOKを出す局長たち地上クルーたちの現場への信頼も美しい。人と人が、そこまでしっかりと認め合いながら1人1人の卓越した技術が未来を開くなんて展開……みんな好きでしょ? 私は超スキーーーーー!!!

 やはり、こう言ったお仕事映画で宇宙を舞台にした映画が描けるって言うのは、インドによる13〜14年の行われていたアジア初の火星探査計画「MOM(マーズ・オービター・ミッション)」の成功ってのが反映されてるんかなあ…と思えるほどには、宇宙開発への希望を熱々に語ってくれる語り口でもある。
 「ミッション・マンガル」のラストでも子供に語りかける形で、宇宙開発の未来やインドの未来への希望を臆面もなく表現していたけれど、本作でもしっかり子供の夢を支えるものとして、または父親・母親の仕事への情熱を支えるものとして、親子の見る未来への希望を宇宙開発に重ねるシークエンスの感情の揺さぶられ感と言ったら、もう…絶対泣いてまうやろーコンチクショー!!!!!!

プロモ映像 The Spirit Of Antariksham 9000KMPH Theme



「A9000KMPH」を一言で斬る!
・仕事の引き継ぎはしっかりやっておきましょう。これ大事。うん(わりとシャレにならないご時世ですよね…)

2022.4.23.

戻る

*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*2 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*3 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*4 事故の顛末、解決方法その他、科学考証的にそこまでリアルなのかって言うと…まあね、って感じもあるはあるけれど。