インド映画夜話

~君がくれた歌~ (Ae Dil Hai Mushkil) 2016年 157分
主演 ランビール・カプール & アヌーシュカ・シャルマー
監督/製作/脚本/原案/台詞 カラン・ジョーハル
"これは、一見奇妙な恋と友情の物語"
"恋がヒーロー、友情がヒロインの、ひどい話さ"




 新進気鋭の歌手アヤーン・サンガルは、その日インタビューにて「歌の原動力」について聞かれ、「片思いこそ、人の力になる」と思い出話を語り出す…

***********
 ロンドンのクラブにて、大学院留学生アヤーンとアリゼー・カーンが意気投合したのは数年前。お互いの身の上話や軽口を叩き合いつつ、双方の恋人を連れ出したダブルデートまでやる仲になるが、そのためにお互いに恋人と破局してしまい、一緒に傷心旅行に出発する。だが、アヤーンの気持ちと裏腹に、アリゼーはあくまで彼を親友としてしか見ていなかった。
 その旅先で、かつての恋人アリーと再会したアリゼーは…。


挿入歌 The Breakup Song (ブレイクアップ・ソング)


 ボリウッドの大ヒットメーカー カラン・ジョーハルの7本目(*1)の監督作となる、FOXスター配給のヒンディー語(*2)ロマンス映画。
 そのタイトルは、劇中でも讃えられる伝説のボリウッドシンガー ムハンマド・ラフィーが歌う1956年の映画「C.I.D.(犯罪捜査課)」の挿入歌タイトルからの借用だそう。

 インド本国の他、クウェート、オーストラリア、北米、ヨーロッパ各国、マレーシア、ニュージーランド、パキスタン、ペルー(*3)でも公開されて大ヒットを飛ばしたと言う。
 日本では、2016年にSPACEBOX配給にて東京、千葉、福岡で英語字幕上映。翌17年にIFFJ(インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン)にて日本語字幕版が上映された。

 過去のカラン・ジョーハル監督作と共通する大規模海外ロケ、多数の大物ゲスト出演、セレブ同士の洒脱な会話から発展する恋愛・友情模様、数々の過去のボリウッド名作オマージュ…などを踏襲しつつ、本作物語でその骨格となる「男女の友情は成立するか」「友情が愛に勝りえるか」と言うテーマは、「愛とは、友情のこと」と言い切った初監督作「何かが起きている(Kuch Kuch Hota Hai)」に対する新たな一解釈を加えてきているよう。

 公開後、「アイシュとランビールが恋人役だって!」ってな評判を聞いてて「それはランビールが霞みそう...」とか思ってたけど、アイシュはまあそこそこ出番の多いゲスト出演枠でしたな。あんな都合良く、傷心の旅途中に自分の話を聞いてくれる妖艶な美女なんかいるか! う、羨ましくなんかないんだからネ!!!!!! ケッッッッ!!!! イイゾモットヤレ!!!!!(*4)

 本編は、物語的魅力よりも小粋な会話劇の積み重ねで色々人間関係が変化して行くことを楽しむ映画になっていて、所々にぶち込まれるボリウッドネタの濃さに、映画が生活に染み込んでいるインド万歳が嫌味なく表現されていて、実際インドの彼ら彼女らはこんな会話を次々に語りまくってんのかなあ...、あれがボリウッド的お洒落かなあ...とか色々考えちゃうよ(*5)。

 監督を務めたカラン・ジョーハルは、1972年マハラーシュトラ州ムンバイ生まれ。父親は映画プロデューサーであり、映画会社ダルマ・プロダクション創始者でもあるヤーシュ・ジョーハル(*6)。母親ヒロー・ジョーハル(旧姓チョープラー)は、ヤシュラジ・フィルム創始者ヤーシュ・チョープラーの妹(姉?)になる。
 ムンバイのH.R.商学&経済大学にてフランス語の修士号を取得。その学生時代にTVドラマ出演で俳優活動を始め、シャー・ルク・カーンやアディティヤー・チョープラーと親友になっていたそう。
 95年に、そのアディティヤー監督デビュー作&シャー・ルク主演のヒンディー語映画「DDLJ 勇者は花嫁を奪う(Dilwale Dulhania Le Jayenge)」で助監督兼衣裳デザイン兼出演して映画デビュー。98年には、父の映画会社製作の「何かが起きている」で監督&脚本デビューし、ナショナル・フィルム・アワード驚異的人気娯楽作品賞他数々の映画賞に輝き、一躍ボリウッドのメインストリームに躍り出る。
 その後、験担ぎに「K」を頭文字につけた監督作を連発する他、03年には「たとえ明日が来なくとも(Kal Ho Naa Ho)」でプロデューサーデビューし、監督業とプロデューサー業、さらに衣裳デザインなどで活躍している。04年からは、ボリウッド・セレブを招いたTVトークショー「Koffee with Karan(カランとコーヒーを)」の司会としても人気を博し、06年のミス・ワールド・ワルシャワ大会の審査員を務めたり、世界経済フォーラムの文化的リーダーとして招待されたりと、世界的な活躍を見せている。
 現在に至るまで独身ながら、代理出産による1男1女の父親でもある。

 本作公開直前、パキスタン人の武装テロによる印パ対立の激化によって「パキスタン出身の俳優やスタッフをインド映画界に参加させないよう」呼びかける政治運動も激化してしまい、パキスタン人俳優が参加し製作中から知名度の高かった本作は格好の攻撃対象になったと言う。
 抗議運動などの様々な混乱の中、カラン・ジョーハル監督と右翼政党との間で「完成作や今現在製作中の映画を除き、今後パキスタン人俳優を映画に起用しないこと」で合意することで、本作公開を許諾された事も大きな話題を呼んでしまっていた(*7)。
 このため、本作に出演しているファワード・カーン(アリゼーの元カノ アリー役)やイムラーン・アッバス(アリゼーの恋人ファイサル・カーン役)は、その演技力を讃えられながら以後インド映画界出演がなくなってしまっているは、なんとかしてほしいもんですわ…(17年現在)。

 お話は、そんな国際情勢や政治運動とは何も関わりのない軽めのラブロマンス映画でしかなく、その軽快な音楽とお洒落な会話劇で魅力全開の主演ランビール&アヌシュカーの一挙手一投足を楽しめばいい親切設計。
 後半登場のアイシュの尋常でない妖艶さもサービス全開で、社会派メッセージとか登場人物の奥深さとかは脇に売っちゃっておけばいい映画だけど、まあ全体的に主役アヤーンに都合の良すぎる話だよなあ…とは思わなくもなくもな…い? ラスト近辺のドンデン返しも効果的だったかどうかは色々疑問が…。

 とりあえず、この映画で勉強になったのはヒンディー語で「歌いなさい(命令)」は「ガオ」って言うことだゼ (*「・д・)「ガオー!

挿入歌 Ae Dil Hai Mushkil (ああ我が心よ [君なしで生きるなんて出来はしないよ])

*元々、このタイトルソングは「Ye hai Bombay Meri Jaan」と言う往年のヒット曲の冒頭部をもじったものとか。


受賞歴
2016 Screen Awards 音楽監督賞(プリタム)・男性プレイバックシンガー賞(アミット・ミシュラー / Bulleya)・作詞賞(アミターブ・バッタチャルヤー / Channa Mereya)
2016 Stardust Awards 監督賞・女優賞(アヌーシュカ / 【スルタン(Sultan)】に対しても)・音楽アルバム賞・音楽監督賞(プリタム)・作詞賞(アミターブ・バッタチャルヤー / Channa Mereya)・男性プレイバックシンガー賞(アリジット・シン / Channa Mereya)
2017 Filmfare Awards 音楽監督賞(プリタム)・作詞賞(アミターブ・バッタチャルヤー / Channa Mereya)・男性プレイバックシンガー賞(アリジット・シン / Channa Mereya)・RD・ブルマン(新人音楽)賞(アミット・ミシュラー / Bulleya)


「心 ~君がくれた歌~」を一言で斬る!
・雪山でボリウッドダンスの真似っこしてて、フル装備のアヤーンが寒さに根を上げたのを見て『あんた、私はサリーなのよ!』と啖呵切るアリゼー、カッコEEEEEE-!!!!!w

2017.11.10.

戻る

*1 うち2013年のオムニバス映画「ボンベイ・トーキーズ(Bombay Talkies)」の短編含む。
*2 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。その娯楽映画界を、俗にボリウッドと呼ぶ。
*3 「La´grimas de amor」のタイトルで公開。
*4 その妖艶さについて、義父アミターブの不興を買って数シーンカットされて公開に行き着いたと言う噂だけど。
*5 実際のインドを見たことないくせに。
*6 その後、ダルマ・プロダクション社長の座はカラン・ジョーハルが継承している。
*7 この合意に関して、映画界はじめ多くの人々からカラン・ジョーハルが政治的圧力に屈したと批判が集中してもいる。