インド映画夜話

<

Aisha 2010年 126分
主演 ソーナム・A・カプール & アバイ・デーオール
監督 ラージシュリー・オージャー
"聞いてアイーシャ、理解して。君は最高に素晴らしい。君のように一所懸命な人は、他に誰もいないよ"






 アイーシャ・カプールはその日、育ての母でもある叔母チトラの結婚式を迎えてご満悦。なにしろ、叔母をお相手のシン大佐とくっつけたのはアイーシャ本人だったのだから!

 デリー在住の、なんでもそつなくこなす多才なお嬢様アイーシャの目下の関心は、周囲の女性たちのウェディング・プランニング。彼女の次の計画は、ハリヤーナー州から結婚相手を捜しに来た少女シファーリー・タークルを一流の淑女に仕立てて、知人のイケてない御曹司ランディール・ガンビールとくっつけるつもり…。

 大親友のピンキー・ボースと一緒にあの手この手でシファーリーを都会人に仕立てるアイーシャだったが、彼女の幼なじみで姉の夫の弟でもある銀行マン アルジュン・バルマンは、なにかと彼女たちに口出しするし、だんだんピンキーの方も呆れモード。ケンカ友達でもあるアルジュンとの押し問答も挨拶代わりのはずのアイーシャだったが、彼がNYから連れて来た女 アールティはヤな感じ…。
 さらに、シファーリーの幼なじみサーラブ・ランバーや、超イケメンに成長したシン大佐の養子ドゥールヴの登場でアイーシャの周りはだんだん波瀾の予感…。


プロモ映像 Suno Aisha (聞いて、アイーシャ)



 英国人作家ジェーン・オースティンの代表作「エマ」を、現代インドに翻案した映画。
 主演女優ソーナムの父アニル・カプールの制作会社で作られたカプール家映画であり(*1)、インドではまだまだ少数派である、女性客をメインターゲットにしたガールズ映画。原作もの映画では、原形をとどめないくらい脚色するのも普通なインド映画界において、わりと原作の雰囲気を残したままうまいことアレンジされている。
 監督のラージシュリー・オージャーは、英語映画やヒンディー+英語映画を手がけて来た新進気鋭の女性監督…らしい。

 「エマ」のプロットをある程度守りつつ、登場人物や人間関係やエピソードが柔軟に整理されながら、現代インドのゴージャスなセレブ界でのロマンスを描いていく。
 原作との最大の違いは、田園地帯の広がる田舎の閉じた社会が舞台だった「エマ」に対し、こちらは大都市デリーの最高級セレブの社交界が舞台になっている所。登場人物もその分アクティブになっており、原作では外へ出たり皆と歓談するだけであーだこーだゴネていたエマの父親も、この映画では結構元気に歩き回ってたりする。国民性の違い?
 全体として、トレンディドラマ色が強く打ち出されいている感じで、劇中に出てくる衣食住はどれもきらびやかでファッショナブル。そういや、主要登場人物も20歳前後ばかりの青春劇で、原作のミス・ベイツに相当する人物がいなかったような…。

 オースティン自身が「エマ」を評して「私以外、誰も愛せないであろう女性」と言ったそうだけど、本作にもしっかりその「エマ」の精神は息づいていている。特に主役アイーシャにそういった人間らしい嫌みさ・露骨さ・未熟さが集中していて、それ以外の登場人物は(比較的)オーソドックスな人物像に落ち着いている…ような。話の中心は常にアイーシャなわけで、完全に主役演じるソーナムのためにある映画なんだけど、それであんな嫌みでわがままなキャラを演じさせているあたり、お父さん(アニル・カプール)の自信のほどが伺え…る? なんか、ソーナムも多少声のトーンを高くして演じてる気もする。

 物語的には、ファッショナブルなセレブ界のお嬢様たちが繰り広げる、古典的な"恋愛を通した成長劇"なわけで、お話的な意外性は薄いけど、「エマ」に見えるドロドロした所がまったくないのはボリウッド仕様か。
 主役ソーナムの他、シファーリー演じるアムリター・プリー(本作が映画デビュー作!)やピンキー役のイラー・ドゥベイの演技やファッションも見所。監督・脚本・プロデューサー・ヘアスタイリスト・衣裳デザイナーと女性スタッフが大活躍する中、メイキングで縦横無尽に演技指導に走るアニル・カプールの元気さも微笑ましい。
 あと、この映画は音楽もすっごくポップ&ノリノリでイイネ(作詞担当は、ボリウッドの大御所ジャーヴェード・アクタル。音楽は「Dev D」で音楽賞に輝いたアミット・トリヴェディだ)!


プロモ映像 By The Way





受賞歴
2011 Star Awards 新人女優賞(アムリター・プリー)
2011 Golden Kela Awards 最悪主演女優賞

2012.7.27.

戻る

*1 アニルと、ソーナムの妹のファションデザイナー レア・カプールがプロデューサーについている!