インド映画夜話

アマン (Ammoru) 1995年 129分
主演 サウンダリヤー & ラムヤー・クリシュナ
監督 コーディー・ラーマクリシュナ
"ガンガーナンマ、ヌーカーランマ、ポーレーランマ、チェンガーランマ…人々が様々に呼ぶ太母神たち…それすなわち、全てが私の事だ"



映画冒頭の女神因縁譚のシーン

*映画冒頭部分。6分過ぎくらいから大女優ラムヤー姉さんの本領発揮やでぇぇぇ!!!


 その昔、疫病に苦しむ村に、人の姿を借りた太母神がやって来た。
 女神は、夜中に親切な娘の家を訪れ「この薬湯を家々に振りかけなさい。決して途中で帰ろうとしてはいけない。私はお前が帰って来るまでこの家で待っているから」と命じる。娘は言う通りに薬湯を持って村を回りながらも、ふと気になり自宅を覗き見る…と、そこには病魔を祈伏する太母神の姿が!! 来訪者の正体に気付いた娘は、逡巡の末、ついに井戸に身投げしてしまうのだった…永遠に自分が帰宅しなければ、女神は永遠に村に留まってくれるだろうから、と…!!
 こうして、村にはリンガ(?)と化した女神がいつまでも鎮座するようになったと言う…。

 そして現在。
 この女神像を崇拝する孤児バーヴァニは、奉公先の邸宅の主人で呪術師のゴーラク(本名ゴーパラクリシュナ)の殺人現場を目撃し、警察に通報、彼を投獄させてしまう。これに怒ったゴーラクの母リーランマの陰謀によって、バーヴァニは精神的に追いつめられていき、ついには瀕死の重傷を負わせられるが、死に際の彼女に答えるかのように突如、太母神廟から女神が現れる…!!


挿入歌 Dandalu Dandalu / Jathara (百万の拝礼を[母なる神ヘ])



 タイトルは、「女神」または「母神」。
 女優サウンダリヤーの代表作の1つであると共に、コーディー・ラーマクリシュナ監督の特撮ファンタジー・テルグ語(*1)映画の傑作と名高い一本。(当時としては)過去例のない程のCG特殊映像が盛り込まれたこの映画の大ヒットによって、特撮神様映画ブームが到来し、主演のサウンダリヤーはその活動拠点をトリウッド(*2)に定めたとか。
 後にタミル語(*3)吹替版「Amman」も公開され、こちらも大ヒット。日本では、2019年のカナザワ映画祭「大怪談大会」にて「アマン」のタイトルでオリジナル・テルグ語版が上映!

 サウンダリヤーの代表作の1つと言うから見てみれば、映画の1/3くらいはサウンダリヤーが泣き叫ぶシーンで満ちているわりに、なにがそんなに恐怖なのかが微妙に分かるような分からないような…牧歌的な映画でございました。とりあえず、この時代からヒロインのベッドシーンはあるし、2時間9分のコンパクトさだし、歌とダンスも必要最低限だし(*4)、善悪どちらも"強い女性"が前面に出てくる女性映画だし……とにかく、カメラに向かって「キッ!!」って目線くれるだけでものスゴいオーラを発揮する、女神役のラムヤー・クリシュナすげげげげげげー!!!!!! 邪悪な笑みを浮かべながら多腕の全てを使って踊り狂いながら人を殺す女神様かっこEEEEEEー!!!!

 監督のコーディー・ラーマクリシュナは、テルグ語映画界を中心に活躍するインド特撮映画の巨匠。
 アーンドラ・プラデーシュ州西ゴーダヴァリ県パラコルー出身で、1976年「Manushulanta Okkate(全ての人は特別)」で助監督として映画界に入り、80年に「Manavude Mahaniyudu」で監督デビュー。本作が37本目の監督作となる。同じ年には「Police Qaidi」「Lady Boss」「Rikshavodu」「Chilakapachcha Kaapuram」と4本の監督作も公開されていて(!!)、09年の「Arundhati(アルンダッティ)」まで毎年平均で1〜3本前後の監督作を発表する多作監督(*5)。VFXを多用したインドの神様映画を牽引する第一人者でもある。

 女神役で強烈な存在感を発揮していたのは、1967年タミル・ナードゥ州チェンナイ生まれの女優ラムヤー・クリシュナ(*6)。親戚にタミル・コメディアンのチョー・ラーマスワーミーがいる。
 幼少期からバラタナティアム(*7)などのダンスパフォーマンスのトレーニングを受け、1983年のタミル語映画「Vellai Manasu」で映画&主演デビュー。翌84年には「Kanchu Kagada」でテルグ語映画デビューし、86年「Neram Pularumbol」でマラヤーラム語映画に、87年には「Pushpaka Vimana(愛の戦車)」でカンナダ語映画に、88年には「Dayavan(憐憫)」でヒンディー語映画にも進出して以降も各映画界で活躍している。現在に至るまで200以上の映画に出演し、その記録はまだまだ延びているそうな。日本公開されたラジニカーント主演のタミル語映画「パダヤッパ(Padayappa)」でフィルムフェア・サウスとタミル・ナードゥ州映画賞の主演女優賞を獲得している。

 本作でフィルムフェアのテルグ語映画主演女優賞を初獲得したサウンダリヤーは、1976年カルナータカ州コーラール県出身。92年のカンナダ語映画「Gandharva(ガンダルヴァ)」のデビュー以降、93年には9本、94年は8本の映画出演と大活躍し続け、本作公開の95年にはテルグ語映画だけで本作含め10本も出演しているんだから恐ろしい(さらにタミル語映画「Muthu Kaalai」にも主演している!)。

 少女の姿になった女神を演じているのはベイビー・スナヤーナ(*8)とあるけど、これ1本にしか出てないらしい。まあ、数ある名子役群と比べると表情が硬いし踊りも「ふーん」ではあるけど、それが逆に神秘的に見えてくる眼力のスゴさが印象的だったんだけどなあ。

 ヒロインを救うために登場してくる女神が、強欲なリーランマ一家を呪術で茶化すシーンなんかは、チェコアニメを彷彿とさせるユーモアに彩られていたシークエンスになっていて楽しいし、妖しさ大爆発な悪霊チャンダーに仕える呪術師ゴーラクの陰険さも妙なインパクト。井戸の縁に赤ん坊置いて落下させるシーンなんて、どうやって撮ったんだかあな恐ろしや(*9)。
 男優陣で印象に残るのは、悪役ゴーラクと女神に帰依する使用人の男くらいで、頼もしく登場した米国帰りのスーリアなんか後半ほぼ空気(*10)ってのも笑えるっちゃ笑えるけど、陰険ないじめの末「こいつ悪魔憑きなんだよ!」とバーヴァニを追いつめて行くリーランマ達の所行が妙にリアルな感じに描かれているのもコワいっちゃコワい。見方1つだろうけど。


VFXシーン




受賞歴
1995 Filmfare Awards テルグ語映画主演女優賞(サウンダリヤー)




「Ammoru」を一言で斬る!
・様々な女神の名で呼ばれる全ての存在と言いつつ……村の神像がそんなゆるすぎ粘土細工みたいな神像でいいんですか神様!

2016.7.1.
2019.6.8.追記
2019.8.11.追記

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*1 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*2 テルグ+ハリウッドの合成語で、テルグ語娯楽映画界の俗称。
*3 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*4 逆に言えば、とってつけた感あり。
*5 テルグ語映画界って、そう言う多作な人たちが多いけどね…スゴすぎる…。
*6 またはラムヤー・クリシュナン、ラムヤークリシュナンと表記される場合も。
*7 タミル発祥の寺院舞踏。
*8 シュナヤーナ? インド映画界では子役のクレジット表記には名前の前に、男児には"マスター"、女児には"ベイビー"をつける事が多いとか。
*9 全然深そうには見えないけども。
*10 って言うか、邪魔もの扱い?