インド映画夜話

アルンダティ (Arundhati) 2009年 131分
主演 アヌーシュカ・シェッティ & ソヌー・スード
監督 コーディー・ラーマクリシュナ
"貴方がこれを読む時は、あの悪魔が帰って来たと言う事。
貴方が知ろうと知るまいと、私はここに私のして来た事を記す…あの悪魔を滅ぼすために"






 ガドワル王族の末裔アルンダティの結婚は、一族を大いに喜ばせた。なにしろ、彼女は曾祖母以来初めての直系の女性。産まれた時から一族に祝福され、偉大なる曾祖母アルンダティの名を継承していたのだから。

 その夜、ガドワル宮廃墟近くにて車両事故を起こした地元の夫婦が、老婆と謎の声に導かれるまま廃墟内に入ってそのまま妻が失踪、半狂乱の夫は宮殿奥の棺から妻の声が聞こえると夜中に騒ぎ立て、近所の人々に取り押さえられてしまう。
 翌朝。アルンダティは、地元で悪魔払いをしているムスリムの霊媒師アンワルに「ジェージャンマの生まれ変わりではないか」と不吉視される。…その夜、婚約者ラーフルの声を真似る何者かにガドワル宮廃墟に誘い込まれたアルンダティは、見えないなにかに命を狙われることに!!
 見知らぬ使用人風の男とアンワルの登場でなんとか一命を取り留めたものの、あの使用人風の男が30年前に死んだ祖父の兄だと知り、乳母から"女神ジェージャンマ"とも呼ばれた先代アルンダティ(ガドワル王ラージャ・チンナヴェンカタ・ランガラウユドゥの次女)と、復讐の鬼と化した甥パスパティの争いについての恐ろしい話を聞かされる…。


挿入歌 Kammukunna CHikatlona (貴方は、闇のトンネルの中の希望の光 [女神ジェージャンマよ])

*劇中で、先代アルンダティの別名で出てくる"ジェージャンマ"とは、テルグ語で"祖母"の尊称であると同時に、女神の尊称にも使われる…らしい(太母神とか地母神的な意味?)。
 タミル語吹替では、"ジャッカンマー"と訳されていて、同じ意味かどうかはわからないけど、これはタミル・ナードゥ州で暮らすテルグ語を母語とする氏族の間で敬われている女神だとか(お教え頂きありがとうございます!)。



 タイトルは、主人公であるヒロインの名前(*1)。お話は1984年のヒンディー語(*2)映画「Purana Mandir(古の神殿)」と似るとか。
 テルグ語(*3)映画界の特撮映画の巨匠コーディー・ラーマクリシュナの放つ09年に大ヒットしたオカルトホラートリウッド(*4)大作! 同名タイトルでタミル語(*5)吹替版・マラヤーラム語(*6)吹替版が、「Mantrasakti」のタイトルでオリヤー語(*7)吹替版も公開。2014年には同タイトルのベンガル語(*8)版リメイク作も公開された。
 日本では、2015年の「インド映画同好会 大映画祭」にて上映。

 インド映画では初ホラー体験な私だったわけだけど、そこまで恐いシーンはないものの(*9)、とにかく登場人物のほぼ全員が鮮血まみれになっていく過剰な真っ赤っか画面がなんとも強烈。所々、「LOVERS」とか「エクソシスト」とか外国映画のパロディクサいシークエンスも出て来る遊びが「おいおい」だけども、その容赦ない血飛沫アクションはもう…ここまでやられると「参りました! もうこれはホントスゴい映画だね!」と納得してしまう力技でございます。

 お話は、冒頭に主人公アルンダティの結婚式を描きながら、よく見るホラー映画常道展開の濃いいシークエンスを重ねていき、乳母の回想から先代アルンダティの活躍、悪鬼パスパティとの対決を中盤に持ってきて、現代のアルンダティが前世の記憶を取り戻しながら悪鬼に追いかけられていく怒濤のクライマックスへと駆け込んでいく。多少詰め込みすぎ感とかツッコミ所はあるとは言え、過剰なまでの鮮血シーンと、おどろおどろしさを越えて狂気じみたパスパティ演じるソヌー・スードの怪演も相まって、なんかワケのワカラン迫力に満ち満ちたファンタジックホラーになっている。

 インドの物語文化における「怒りに身を任せ全ての悪を滅ぼす女性像」と言うのは、その大元をカーリー神話まで遡る人気素材みたいだけど、そこに見え隠れするインドの地方に存在する母系社会を基礎とするコミュニティのありようも興味深いポイント。本作のガドワル一族は、実際に南インドに点在すると言う母系社会コミュニティのそれがモチーフなのかどうかはわからないけど、王国を立て直し繁栄させた女王を太母神(?)に見立てて、その子孫の女性を皆で崇め奉る劇中の一族の描写も「へえぇ」ってなもんで、リーダーとして王として活躍する先代アルンダティのオーラたるやスゴいもんがありますわ(*10)。
 女王の生まれ変わりと悪鬼との対決に、ムスリムの霊媒師が手助けすると言う構図も面白い。ヒンドゥー的なタントラによる超能力や必殺武器が事態を前進させる鍵になるとは言え(*11)、悪霊に対してムスリム式の悪魔払いや祈祷も有効なのは、インド的な宗教の平等ってヤツでしょか。

 主役アルンダティを演じたのは、1981年にカルナータカ州マンガロールのトゥルヴァ族(*12)家系生まれの映画女優兼ヨガインストラクター、アヌーシュカ・シェッティ(本名スウィーティ・シェッティ)。
 美容整形医の兄2人を持ち、ベンガルールの学校でアプリケーション開発を修了しつつ、ヨガのトレーニングを初めて、最初はヨガインストラクターとして働いていたそうな。
 04年のヒンディー語映画「Run」の端役で映画デビュー後、05年のテルグ語映画「Super」でフィルムフェア・サウスのテルグ語映画助演女優賞にノミネート。同年の「Maha Nandi」で主演デビューも果たし年間出演本数を飛躍的に伸ばした。翌06年には「Rendu」でタミル語映画デビューも果たしている。
 16本目の出演作となる本作で数々の主演女優賞に輝いてその人気を不動のものとし、同年にはテルグ語映画「Billa(ビラー)」とタミル語映画「Vettaikkaran(狩人)」にも主演。後者ではヴィジャイアワードで人気ヒロイン賞を受賞している。現在もテルグ語・タミル語映画界双方で大活躍中。日本公開作では「神さまがくれた娘(Deiva Thirumagal)」に出演しているので要チェケラ!


挿入歌 Bhu Bhu Nhujamgam (ああ誘惑する [その波の波動よ。致命的なる鼓動の連打よ。我が魂よ…復讐の波動は踊り狂う])…の一部

*最後の方のアルンダティの攻撃が、流血ドバーなグロいシーンなので注意。
 それにしても、おもいきりチャン・イーモウ監督作「LOVERS」のパロディシーンやないかーい!カッコEEEEー!!!




受賞歴
2008 Nandi Awards 悪役賞(ソヌー・スード)・子役女優賞(ディヴィヤー・ナゲーシュ)・編集賞(マルサンド・K・ヴェンカテーシュ)・美術監督賞(アショク)・音響賞(ラーダクリシュナ&マドゥースダン・レッディ)・衣裳デザイン賞(ディーパ・チャンダル)・メイクアップ賞(ラメーシュ・マハンティ)・録音賞(P・ラヴィ・シャンカル)・特殊効果賞(ラフール・ナンビアール)・批評家特別賞(アヌーシュカ)
2009 Filmfare Awards South テルグ映画主演女優賞・テルグ映画助演男優賞(ソヌー)
2009 Santosham Awards 監督賞・プロデューサー賞・主演女優賞・悪役賞(ソヌー・スード)・録音賞(ラヴィ・シャンカル)・撮影賞(センティル・クマール)
CineMAA Awards 批評家選出主演女優賞
Gemini Ugadi Awards 主演女優賞
South Scope Cine Awards 主演女優賞
Vamsee Film Awards 主演女優賞




「Arundhati」を一言で斬る!
・ソヌー・スードの演技力、ヤバい。その他脇役たちの演技力、濃いヤバい!!

2015.3.20.
2015.9.26.追記

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*1 よくある女性名らしいけど、ヒンドゥー神話に登場する夜空や星の女神アルンダティが由来。語義は"吹き付けられた火"と言う星座の姿からの命名だそうな。
*2 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*3 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*4 テルグ語娯楽映画の俗称。同じく"トリウッド"と呼ばれるベンガル語映画界とは由来が別。
*5 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*6 南インド ケーララ州の公用語。
*7 東インド オリッサ州の公用語。
*8 東インドの西ベンガル州とトリプラ州の公用語。
*9 グロいシーンはふんだんにある。
*10 子供時代を演じた子役ディヴィヤー・ナゲーシュのハンパない演技力も見所!
*11 しかし、ココナツで頭かち割られ続ける儀式なんて、痛恐ろしい…
*12 またはトゥル族。トゥル語を母語とするカルナータカ州南部トゥル・ナードゥ地域から派生した部族。独自の相続制度や暦、口承文学を持つコミュニティ。
 この部族の有名人には女優アイシュワリヤー・ラーイ、女優シルパ・シェッティ、男優プラカシュ・ラージ、映画監督のローヒト・シェッティなどがいる。