Autograph 2004年 168分
主演 チェラン & マリッカー & ゴーピカー & スネーハー
監督/製作/脚本 チェラン
"思い出は、続いて行く"
挿入歌 Gnyabagam Varudae (記憶は戻り巡る)
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雨の後の午後…穏やかな涼風が、あなたに触れて消えて行く。
思い出は、その風が消えたあの頃へと、あなたを連れて行く…。
チェンナイから結婚式の招待状を友人知人へ届けるため、生まれ故郷ティンドゥッカル県ネイカランパティ村に帰る広告マン センディル・クマールは、久しぶりの故郷の様子に触れて、在りし日を回顧する。懐かしい同級生たち、初恋の相手カマラ、そしてその別れ…。
旧友スブラマニや担任教師、3児の母になったカマラとの再会に時の流れを感じながら、センディルは続いて大学時代を過ごしたケーララ州アーラップーザへ向かう。そこにもまた、彼の忘れ得ぬ人がいるはずだった…。
挿入歌 Kizhakke Paarthen (僕が東を向くと [ああ愛する人、夜明けのような君がいた])
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ナショナル・フィルムアワード人気娯楽作品賞を獲得した、タミル語(*1)映画の傑作。
その人気から、続編のアナウンスがあったものの実現していない。そのプロットは、一部1995年の伊独仏合作映画「愛のめぐりあい(Beyond the Clouds / イタリア語題 Al di la` delle nuvole)」から拝借された言う指摘も。
2010年の同名ベンガル語(*2)映画「Autograph」とは別物。
公開と同じ年にテルグ語(*3)リメイク作「Naa Autograph(私の写真)」が、06年にはカンナダ語(*4)リメイク作「My Autograph(マイ・オートグラフ)」、17年にはベンガル語リメイク作「Amar Aponjon」も公開されている。
主人公センディルの追憶が綴る、少年期から今までの人生の回想、そこに関わった忘れ得ぬ3人の女性の人生の在りようを描くノスタルジー劇。
冒頭とラストに、センディルが画面の向こう側に語りかけるナレーション的な役割を担う事で、センディルの追憶劇というよりはそれぞれの舞台で過去のセンディルに関わりを持った女性たちの生き様・その人生や恋愛における制約や苦悩を中心に描く女性物語、と見る事も可能か。
故郷の農村を舞台にした最初の恋愛劇の主人公となるカマラ、アーラップーザの大学で古典芸能を学ぶラティカーとの淡く苦い思い出、大都市チェンナイで広告会社で働きながら身体障害者支援活動に精を出すスネーハーの抱える表の顔と裏の顔…。
それぞれに家庭事情や社会事情で叶うことのなかった人生像が、主人公センディルの結婚式への招待という形で再び顔をもたげる切なさ・儚さの美しさ、虚しさは、戻らない在りし日の懐かしさとともに、こちら側に様々な思い出を喚起させてくれるノスタルジックな映像の勝利という感じ。
本作の監督兼主役を演じるのは、1970年タミル・ナードゥ州マドゥライ近郊のコリンジパッティに生まれたチェラン 。
父親は観光映画劇場の映写技師で、母親は小学校教師をしている家に生まれ、映画界を志望してチェンナイに上京。プロダクションマネージャーや助監督として働き出した後、97年のタミル語映画「Bharathi Kannamma」と「Porkkaalam(黄金期)」の2本で監督&脚本デビュー(*5)。「Bharathi Kannamma」ではフィルムフェアのタミル語映画監督賞を、「Porkkaalam」ではタミル・ナードゥ州映画賞の作品賞を獲得し、すぐに話題作を連発するヒットメーカー として名声を得て行く。
02年のタンガル・バチャン監督作「Solla Marandha Kadhai(語り忘れられた物語)」で主演デビューした後、本作で監督&プロデューサー&脚本&主演を担当。企画当初はヴィクラムに主演オファーしていたそうだけども、スケジュールと予算の関係で企画が変動した結果、自身の体験を盛り込んだ上での監督&主演作となったと言う。ナショナル・フィルムアワードをはじめ数々の映画賞に輝いた本作ののちも、監督兼男優としてタミル語映画界で活躍する他、出版社チェラン・ノーラガムや音楽会社ドリーム・サウンズも設立し、出版・作詞・著作権侵害防止活動などでも活躍している。
最初のネイカランパティ村編のヒロイン カマラを演じるのは、ケーララ州トリシュール生まれの女優マリッカー(生誕名リージャー・ジョンソン)。妹にやはり女優のガウリがいる。
02年のマラヤーラム語(*6)映画「Nizhalkuthu(影封じ)」で映画デビュー後(*7)、続く本作でフィルムフェア・タミル語映画助演女優賞を獲得。本作のテルグリメイク作「Naa Autograph」で同じ役(役名は違うけれど)を演じてテルグ語映画デビュー、06年の「Odahuttidavalu」でカンナダ語映画デビュー、さらに11年には初のベラリ語(*8)映画「Byari」に主演して、ナショナル・フィルムアワード特別賞を獲得している。主にタミル語映画界やTV界、10年以降はマラヤーラム語映画界で活躍中。
中盤のアーラップーザ編のヒロイン ラティカー役には、1985年ケーララ州トリシュールのシリア=マラバル典礼カトリック(*9)の家に生まれたゴーピカー(生誕名ギルリー・アント *10)。
カリカットの大学で社会学の学位を取得。その大学時代にクラシックダンスを習得しつつミス・カレッジに選ばれ、ミス・トリシュール・コンテストに出場した事でモデル業・女優業の仕事が舞い込むことになったそう(*11)。
CM出演を経て、02年のマラヤーラム語映画「Pranayamanithooval」で映画&主役級デビュー。続く04年には本作を含む7本の映画に出演(*12)し、「Vesham」ではアジアネット助演女優賞を獲得。以降、マラヤーラム語映画を中心に南インド映画界で活躍。08年の結婚で外国移住することになり、09年の主演作「Swantham Lekhakan」ののち映画界を離れていたものの、13年の「Bharya Athra Pora」に主演して映画復帰している。
後半のチェンナイ編のヒロイン ディヴィヤーを演じるのは、1981年(1978年とも)マハラーシュトラ州ムンバイに生まれたスネーハー(生誕名スハシーニー・ラジャラーム)。
生まれてすぐアラブに移住した後、タミル・ナードゥ州カダルール県パンルティで育つ。00年のマラヤーラム語映画「Ingane Oru Nilapakshi」で映画デビュー(*13)し、同年のタミル語映画「Ennavale(愛する少女よ)」で主演デビューする。翌01年には「Tholi Valapu(初恋)」でテルグ語映画デビュー。02年のタミル語映画「Punnagai Desam」でタミル・ナードゥ州映画賞の主演女優賞を、同年の「Unnai Ninaithu(君のことを想う)」でフィルムフェアのタミル語映画助演女優賞を獲得。以降、タミル語映画界・TV界を中心に南インド映画界で活躍中。12年には、長年噂されていた男優プラサンナと結婚している。
3つの舞台の回想と結婚式場で構成される映画を、4人の撮影監督がそれぞれの舞台を担当して撮影していたと言うことで、それぞれに舞台の特色を生かした撮影方の比較も楽しい。
特に、河を利用した船で移動する人々を映すアーラップーザの情景の美しさ、大学生たちが使っていた桟橋の、時を移して朽ちた様子に見える時間経過のありようが詩的に美しい。
また、それぞれのヒロインたちの主人公との関わり方、その恋愛の終焉(*14)も、そこはかとなく見えてくる地域社会のありよう、その束縛と結束力が、家族単位・村単位で共通して存在している比較、田舎と都会でも女性たちを取り巻く苦悩が変わらず存在している事実を見せつけるよう。
そんな状況の中で、主人公の結婚式で一堂に会する思い出の中の人々の現在の姿が、時間経過の中で育まれた様々な苦悩を越えて笑い合い、祝福しあい、交流し合う、その姿の前向きさ、暮らしの中に見えるそこはかとない生命力の強さ、人生の縁に導かれる暮らしのありようを見せてくれるよう。
それぞれに新婚夫婦を囲んでの記念撮影で終わる映画の、その写真に集まる人々の笑顔の裏にあるだろう人生模様の厚みに思いを馳せる、追憶系映画の傑作ですわ(*15)。
挿入歌 Jegatho Tharana
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*大学時代のセンディルが、2回目の恋に落ちる瞬間の図。
受賞歴
2004 National Film Awards 金蓮人気娯楽作品賞・銀蓮女性プレイバックシンガー賞(K・S・チトラ)・銀蓮作詞賞(パ・ヴィジャイ)
2004 Filmfare Awards South タミル語映画作品賞・タミル語映画監督賞・タミル語映画助演女優賞(マッリカー)・タミル語映画音楽監督賞(バーラトワージ)
2004 Tamil Nadu State Film Awards 作品賞・監督賞・女性プレイバックシンガー賞(K・S・チトラ)
「Autograph」を一言で斬る!
・落ち穂拾いならぬ、落ち孔雀の羽拾いなんてあるのか…(彼女へのプレゼント用だけど)。
2020.5.5.
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