インド映画夜話

バレーリーのバルフィ (Bareilly Ki Barfi) 2017年 116分(122分とも)
主演 アーユシュマーン・クラーナー & クリティ・サノーン & ラージクマール・ラーオ
監督 アシュヴィニー・アイヤル・ティワーリー
"策士になれない男と、ワルになりきれない連中の、恋路や如何に?"




 ウッタル・プラデーシュ州バレーリー。この街で一番印象的な家はミシュラー家である。
 毎朝大騒ぎのこの家の一人娘ビッティ・ミシュラーは、とぼけたお菓子屋の父親、保守的な小学校教師の母親に男の子同然に育てられ、肉は食うわ喫煙するわ親の言うことは聞かないわ、海賊版ハリウッド映画を見まくり、屋上で友達とブレイクダンスを踊るのが趣味の、電力公社コールセンター勤めの現代っ子。

 その性格故に婚約を何度も破棄されて、母親を激怒させてしまったビッティはついに家出を決意するも、駅の売店で何気無く安値で買い叩いたペーパーブック「バレーリーのバルフィ」を読んだ瞬間、家出を取りやめ早々に帰宅する。
 なんと不思議なことに、その小説にはビッティその人としか思えないバレーリーの現代っ子少女が主人公として登場していた。友達にひとしきり打ち明けた後、早速その本の作者プリータム・ヴィドローヒーなる人物を探し出そうとするビッティだったが…。


プロモ映像 Sweety Tera Drama (ああハニー、君のお話は大騒ぎのもとだ)


 タイトルは劇中の重要アイテムとなる小説のタイトル。「バレーリー」は劇中舞台の都市名、「バルフィ」はインドのお菓子の名前になる。

 2016年の「ニュークラスメイト(Nil Battey Sannata)」で大きな反響を受けたアシュヴィニー・アイヤル・ティワーリー監督の、3本目の監督作となるヒンディー語(*1)映画。
 その内容は、ニコラス・バリュー著の小説「The Ingredients of Love(愛の原材料)」や、1991年公開のヒンディー語映画「Saajan」との類似性が指摘されているそうな。

 インドと同日公開で、オーストラリア、フランス、英国、オランダ、ニュージーランド、米国でも一般公開。
 日本では、2017年にSPACEBOX主催の自主上映で千葉と大阪で英語字幕版が上陸。その後、2019年の同じくSPACEBOX主催ICW(インディアン・シネマ・ウィーク)にて「バレーリーのバルフィ」のタイトルで日本語字幕版が上映されている。

 保守的な地方都市を舞台に、その保守性を飛び越えるバイタリティ溢れるヒロインを中心にしたラブコメで、序盤は自分のことを小説にされたと思ったヒロイン ビッティの作者探しが始まる過程を、映画前半はその作者チラグ・ドゥベイがとある事情で作者と名乗れないことから、作者の事をごまかしつつビッティとの仲を縮めていく様子が描かれて行き、中盤以降、その嘘が作者名に使われたプリータム自身も巻き込んだ切なく可笑しい三角関係を構築していく。
 嘘による恋愛模様の進展といえばボリウッドでも良くあるお話で、夫が妻のために嘘の恋人に扮する「神が結び合わせた2人(Rab Ne Bana Di Jodi)」みたいなのもあったけど、こちらは序盤はヒロイン側の視点で、その後は嘘をつき続けるチラグの視点で話が展開して行き、ビッティの思い描く理想のプリータム像をぶち壊して自分に目を向けさせようとするチラグの小物臭のちらつく嘘の応酬が、三者三様にクスリと笑えるすれ違いコメディを展開させていく。

 主人公の1人ビッティの"現代っ子"アピールの内容なんか、1つ1つが「なんて破廉恥な人か!」みたいな告げ口口調でナレーションされているのに(*2)、その内容がこちらから見れば特に大変でもなんでもない普通なスレかたしてたりするのも、クスクス笑えるポイント。同時に、そんな普通な感覚が否定されるインドの地方都市の強固な保守性を、笑いとともに糾弾しているユーモア姿勢もビッティ共々カッコ楽しい。
 そんなヒロインに惹かれていきながら、自分本位な嘘をつき続けるチラグ演じるアーユシュマーンや、その嘘に利用されて男の友情のために身を削る思いを迫られる様がなんとも可笑しいプリータム演じるラージクマールの、両者それぞれに魅せてくれる確かな演技力とテンポの良さが、この映画の最大の魅力。
 やってることは、何気ない日常ドラマの延長にあるドタバタラブコメなのに、1つ1つの展開・すれ違い・会話の呼吸がいちいち楽しいわ、皮肉な笑いを醸し出すわ、カッコつけたいのにカッコつかない庶民のゆるさが、なんともいい塩梅に映画そのものを魅力的な世界へと押し上げている。とにかく、主演3人組の息のあったトボけた芝居をずっと見ていたくなる一本ですわ。

 アシュヴィニー・アイヤル・ティワーリーの監督デビュー作「ニュークラスメイト」とも共通する、女性の自立・社会進出を笑いを交えて描く手法も冴えに冴え渡っていて、淑女を求める地方都市の保守性を遠回しに糾弾しつつ、女性が自ら動き、自分の価値観を見据えて行く様をごく自然なこととしても同時に描いて行く演出の流れの滑らかさも必見。そんな中でも、各家庭でくり広がる母親からの結婚に関する過干渉っぷりや、ビッティの父親のようなのほほん具合の家庭ドラマのあいかわらずさも、なんだかんだ言って楽しい要素になってるからニクいよこのぅ。

プロモ映像 Badass Babuaa (だって、俺はワルだから)


受賞歴
2017 Screen Awards 助演男優賞(ラージクマール・ラーオ)・台詞賞(アシュウィニー・アイアール・ティワーリー & ニテーシュ・ティワーリー)
2017 Zee Cine Awards 監督賞・脚本賞(アシュウィニー・アイアール・ティワーリー)・プロダクションデザイン賞(ラクシュミー・ケルスカール & サンディープ・メヘル)
2017 Jagran Film Festival 助演女優賞(シーマ・バフワ)
2018 Filmfare Awards 監督賞・助演男優賞(ラージクマール・ラーオ)
2018 Bollywood Film Journalists Awards 監督賞・助演男優賞(ラージクマール・ラーオ)
2018 IIFA (International Indian Film Academy Awards) 脚本賞(ニテーシュ・ティワーリー & シュレーヤス・ジェイン)


「バレーリーのバルフィ」を一言で斬る!
・街場の印刷屋さんが営業に来ただけで、あんなに歓待してくれるなんて羨ましか!(婿さん候補だから、でしかないけどw)

2021.9.17.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。その娯楽映画界は、俗にボリウッドと呼ばれる。
*2 ナレーション担当は、かの高名な脚本家兼作詞家ジャベード・アクタル!