ミルカ (Bhaag Milkha Bhaag) 2013年 189分(国際版は153分) 1960年のローマオリンピック。 インド代表の世界新記録保持者として、国内初のオリンピック金メダルを待望された短距離走者ミルカ・シンはしかし、レース中に突如後ろを振り返って失速、4位に終わった。その時、なにが彼を振り返らせたのか…? その後、印パ対立緩和のためにパキスタン主催の印パ陸上競技会の開催が決まったものの、政府の懇願もむなしくミルカはパキスタン行きを断固拒否する。 ミルカを育てた軍人グルデーヴ・シンとインド代表陸上コーチ ランヴィール・シンは、ミルカの説得を命じられたワドワ書記官と共に彼の家を尋ねる道中、彼の生い立ちを語り始める… プロモ映像 Bhaag Milkha Bhaag (走れミルカ、走れ) 本作は、実在のインド代表短距離走選手ミルカ・シン(*1)の半生を描く伝記映画。物語は、ミルカ自身とその娘ソニア・サンワルカー著の「The Race of My Life」を下敷きにしている。 日本では、武井壮が出演したインド映画としてまず一瞬話題に上り、2013年に大阪アジアン映画祭で原題の直訳タイトル「走れ、ミルカ走れ」で上映告知されてたものの、諸般の事情により上映中止になってしまった作品。その後、"アジア映画最強レーベル"をコンセプトとするGOLDEN ASIAの選定作として2015年に一般公開。事前プロモで"走ってミルカを観に行こう"イベントが開かれたり監督が駆けつけたりと、大々的な宣伝もなされた。 インドを代表するアスリートの一人、ミルカ・シンの人生を中核に、印パ分離独立の血で血を洗う戦争の悲劇、インドスポーツ界の歩み、一人の人間の立身出世物語、悲劇の中で人間の尊厳が如何に蝕まれていくか、さらにはスポ根映画の王道もてんこもりな、様々な要素が入り交じる一代記のボリュームにただただ圧倒。3時間越え(*2)はたしかに長いけど、それを耐えるにあまりある迫力満点の映画。 ミルカの他、ネルー首相、パキスタンランナーの英雄アブドゥル・ハーリクなど、実在の人物が多数登場(*3)。 主役ミルカを演じるのは、いまや役者に監督にプロデューサーにと大活躍中のファルハーン・アクタル。 1974年のムンバイにて、脚本家兼作詞家の父ジャヴェード・アクタルと女優兼脚本家のホーニー・イラーニーの間に生まれ、姉は映画監督のゾーヤー・アクタル。親戚には芸術系映画界の大女優シャバーナー・アーズミー、映画監督のファラー・カーンとサジード・カーン姉弟がいる。 17才から映画関係の広告会社で広告宣伝やスクリプトライターとして働いた後、2001年の「Dil Chahta Hai(心が望むもの)」で監督デビューし世界的大ヒット。その後もヒット作を立て続けに連発し、06年の「ドン 過去を消された男(Don: The Chase Begins Again)」で監督と共にプロデューサーデビュー、08年には「Rock On!! (ロックオン!!)」で俳優兼歌手として登場し業界を驚かせた。これ以降、俳優としての活動を中心にボリウッドのメインストリームを歩む人物である。 監督のラケーシュ・オームプラカーシュ・メーラーは、1963年にニューデリーのパンジャーブ系両親から産まれた映画監督兼プロデューサー兼脚本家。 ホテルマンの父は1982年のアジア競技大会における水泳代表を決める強化メンバーだった経歴を持つと言う(*4)。 清掃器具販売業を務めた後、映像制作会社を立ち上げCMやミュージックビデオを製作し、その時のコネから2001年にアミターブ・バッチャン主演の「Aks(影)」で監督&脚本家デビュー。続く「黄色に塗りつぶせ(Rang De Basanti)」でアーミル・カーンを主演に迎えて大ヒットを飛ばし、数々の映画賞に輝き一躍その名を世に広めた。本作は、その後「デリー6(Delhi-6)」を挟んでの4本目の監督作となる(さらに、2011年にはプロデューサーとしてのみ参加した「Teen They Bhai」もある)。本作では監督兼製作の他、飛行機のパイロット役で監督自身も出演してたりする。 お話は、ローマオリンピック直後〜パキスタンでの印パ陸上大会開催を主軸に、ミルカの人生を振り返りながら、彼の少年時代と、陸軍時代〜各競技会でのメダルラッシュ達成までの2つの時間を交互に描き出し、様々な人生模様の中でミルカの"走る"姿を執拗に映し出す。そうして、最後には「ミルカがなぜ走るのか」「なぜインドを代表する人物になりたがったのか」「なぜパキスタンに行くことを拒絶するのか」の答えを浮かび上がらせながら、一人のアスリートの人生を、現代インド(パンジャーブ)の歴史を、そこに生きる人々の喜怒哀楽を美しくももの悲しく、生き生きと描いていく。1つの歴史の中での人間の生き様の、その圧倒的な描き方はまさに重厚。なにをおいても必見!! とりあえず、昇日カットから始まる1958年度東京アジア競技大会のシーンは、日本人的に見逃せないよ!(*5) プロモ映像 Zinda (生きていれば)
受賞歴
「ミルカ」を一言で斬る! ・娘と共に書いた自叙伝を元にしてると言うけど、その女性遍歴はどの辺まで真実なのかどうなのか…。
2015.1.30. |
*1 別名フライング・シーク(空飛ぶシーク教徒)。1929年英領インドのパンジャーブ州ゴーヴィンドプーラ生まれ。 1958年の東京アジア競技大会にて、200m走と400m走の両方で金メダルを獲得。続く1962年のジャカルタアジア競技大会でも400m走と400mリレーで金メダルを獲得した。 *2 日本で公開される国際版では約2時間半。 *3 東京のシーンでは、他の映画とは違ってちゃんとした日本語をしゃべる日本人が出てきてくれて嬉しいw ロケ自体はインドでやったそうだけど。 *4 最終選考でメンバーから外されたらしい。 *5 ところで、クレジットにある"Emperor of Japan"ってどこに出てたの? |