賭ける男 (Baazigar) 1993年 172分(182分とも)
主演 シャー・ルク・カーン & カージョル & シルパ・シェッティ
監督 アッバス=ムスタン
"気をつけろ…目標を達成しようとするときはいつも、愛が邪魔をする"
今日もまた、アジェイ・シャルマーは幼い日の悪夢で目を覚ました。
あの日からずっと前後不覚の母親を毎朝の通り世話しながら、彼はボンベイ(現ムンバイ)へと出発する。彼の人生を狂わせた、その代償を求めに…。
その日、大学のマドンナで大企業社長令嬢のシーマ・チョープラは、秘密の恋人アジェイとの密会のために妹プリヤーの出迎えを忘れてしまって大慌て。ご機嫌斜めなプリヤーだったが、大好きな父親マダンのお供でマドラス(現チェンナイ)のレース観戦をすることで機嫌を直すものの、そこで父親と競うほどのレーシング技術を見せつけたヴィッキー・マルホートラと仲良くなり、恋人同士になって有頂天になる。そのヴィッキーが、偽名を騙る姉の恋人アジェイその人とも知らず…。
挿入歌 Yeh Kaali Kaali Aankhein (ああ、その魅力的な黒い眼よ、輝く肌よ)
原題は、ヒンディー語(*1)で「ギャンブラー」。劇中で何回かセリフで出てくる「ただ愛を得るために、全てを賭けた男」の事だけども、「誰の」「なんの」愛を得ようとしているのか、セリフで出てくるたびにその意味合いが変わってくるのがニクいタイトル。
女優シルパ・シェッティのスクリーンデビュー作にして、後のボリウッドのゴールデンコンビとなるシャールク&カージョルの初共演作(*2)となる、ヒンディー語映画。
本作は、1991年の米英合作映画「死の接吻(A Kiss Before Dying)」をアイディア元とする映画。
のちの96年にはテルグ語(*3)リメイク作「Vetagadu」が、97年にはタミル語(*4)リメイク作「Samrat」、02年にはカンナダ語(*5)リメイク作「Nagarahavu(コブラ)」も公開。
日本では、2008年に関西テレビで「賭ける男」の邦題で放送されたよう。
色々とベッタベタでスローテンポな展開ながら、なんでしょうこの、今見てもずっと目が離せない面白さは。
そのサスペンスの作り方はアイディア元映画そのものを踏襲してるのに、まず主人公が凶行に走るまでの経過を1時間にわたってきっちり描いていくインド式物語展開が、その後の連続殺人に走るしかなくなった主人公の悲哀・不穏さを増幅させてくれる見せ方も巧み。
ボリウッド初のアンチヒーローとして有名という本作にて、TVドラマ出身のシャールク演じる「狂える青年」像の強烈さはこの頃からすでに頭1つも2つも飛び抜けていたんだなあ…と感じる次第ですよ。証拠隠滅のために自分の写った写真を「食べる」シーンのインパクトったらすごいもんですが、あれがその場でのシャールクのアドリブだったそうなんだから…恐ろしい子!
まあ、いちいちファッションが派手なわりに垢抜けない感じ全開だったり、ミュージカル以上に唐突に挿入されるコメディシーンのわざとらしさ(*6)、アクションシーンのくどさが凄かったりって所に時代を感じるは感じるんだけども。急なモータースポーツ要素も、今となっては「?」ではあるけど当時としては新規性の富む演出だった…のかいな?(*7)
ヒロイン演じるカージョル&シルパは、まだ表情芝居がなんとなく硬い感じはあるものの、動きのキレは堂々としたもんだし可愛い少女然とした姿をアピールしてくるのもお美しい。恋する少女から、婚約者との相思相愛を受け入れる女性として、殺人事件を前にして自ら真相を見つけようと戦う妹プリヤーの姿と、急速に精神成長していく姿を見せつけてくるのもお得感満載でっせ。恋に恋する少女をそこまで違和感なく演じる2人の女優の実力も、この当時からちゃんと期待され、準備されたものだったんですかねえ…。「Bichhoo(サソリ)」の時のラーニーの無理矢理なティーンエイジャー演技とは全然違うわあ。
サスペンスとしての作りが色々穴だらけ、って部分はアイディア元の映画がそういう作りだからしょうがないよね、って感じにはなるけれども(*8)、ネタ元映画がアメリカにおける「富裕層を見上げるしかない貧困層の悲哀」を背景にしていたの対して、本作はなんだかんだ言って成り上がり富裕層と元富裕層による復讐劇に変更されてるところはいかにもボリ風味。壮絶な復讐を「愛を勝ち取るまで」続けねばならなくなった主人公の哀しさと、その姿を理解しながらも拒否しなければいけなかったヒロイン プリヤーの別の形の悲哀が、読後感をより複雑なものとしてくれる、狂気と渇望の揺れ動きがこの映画の勝因でありましょうか。
挿入歌 Ae Mere Humsafar (我が最愛の人よ)
受賞歴
1994 Filmfare Awards 主演男優賞(シャー・ルク・カーン)・音楽監督賞(アヌー・マーリク)・男性プレイバックシンガー賞(クマール・サーヌー / Yeh Kaali Kaali Aankhein)・脚本賞(ロビン・バット & ジャヴェード・シディッキー & アカーシュ・クーラナ)
「賭ける男」を一言で斬る!
・チョープラ邸のTV、大金持ちにしてはちっさいのね。
2022.4.16.
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