ベイビー (Baby) 2015年 159分
主演 アクシャイ・クマール
監督/脚本/台詞 ニーラジ・パーンデーイ
"歴史を作るのは、地獄をもたらす者…!"
*冒頭から、音がでかいのでちょっと注意。
我々は、あの11月26日…ムンバイ同時多発テロによって誕生した。
選抜に選抜を重ね、12人に絞られた適合者たちはその記録を抹消されながら、ただ国家の危機を察知し未然に防ぐことにのみ専念する特殊部隊員となった。我々は、彼らを"ベイビー"と呼ぶ…。
イスタンブールにて、祖国を裏切りテロに走ったかつての部下ジャマールを捕獲したアジェイ・シン・ラージプートは、彼の情報からニューデリーで計画されていたテロを未然に防ぐことに成功するものの、これがさらなるインド各地への大規模テロへの始まりにすぎないことを、自ら死を選んだジャマールから聞かされる。
その後、印パ国境に暗躍するテロ集団の指導者マウラナ・ムハンマド・サイード・ラフマーンの計画によって、ニューデリーに収監されていたテロリスト ビラール・カーンが護送中に武装集団の手引きによって脱走し行方をくらましてしまう。当局は、すぐさまアジェイにテロリストとその協力者たちの追跡を命じるが…!!
ED Beparwah (油断しないで)
インドに迫るテロの脅威に対抗する、極秘特殊部隊の活躍を描くアクション・スリラー・ヒンディー語(*1)映画。
後の2017年には、スピンオフ続編「シャバーナーと呼ばれる女(Naam Shabana)」が公開されている。
インド本国では、共和国記念日に公開。劇中、イスラム教徒を悪役として描いていることから、パキスタンでは公開禁止措置がとられたとか。
日本では、2015年にIFFJ(インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン)にて上映。
実際に起こった大規模無差別テロを発端に持ってきて、テロ抑止のための架空の秘密部隊の活躍を描くエージェントもの映画の1作。
イスタンブールやカトマンズ、サウジアラビアと変わっていく舞台に合わせて、実際にその都市でのロケを敢行(*2)。主役アジェイ演じるアクシャイ・クマールは、全編に渡ってスタントなしでアクションシーンを演じきり(*3)、カトマンズ編で登場する同僚シャバーナー・カーン演じるタープスィー・パンヌーも、クラヴ・マガ(*4)を習得してアクションシーンに挑んだそう。
秘密部隊の、世界を股にかけた諜報戦ってことでいえば、シリアス版「スパイ大作戦」的な感じ。ただ、物語は作戦計画上のどんでん返しというよりも、作戦始動中のさまざまな予期せぬ出来事への対処を全編に渡ってハラハラドキドキで描いていく。
冒頭から、"ベイビー"創設経緯を説明していく情報量の多いセリフと多数の登場人物に、初見では頭が追いつかなくなりそうな感じではあるけれど、本作と同じ年に公開されたヒンディー語映画「Phantom (ファントム)」と同じく、ムンバイ同時多発テロの恐怖に対するインド人たちの鬱憤を発散させつつ、テロの連鎖に屈しない姿勢を見せつけようとでもするかのような映画になっている。
本作の監督&脚本を手がけたニーラジ・パーンデーイは、1973年西ベンガル州ハウラー生まれ(*5)。
デリー大学で英語学を修了してテレビ番組制作会社に就職後、友人のドキュメンタリー制作企画を受けてムンバイに移住。ドキュメンタリーとCMの制作会社"クォーター・インチ・プロダクション"を設立する。06年に起こったムンバイ列車爆破事件をもとにした映画用の脚本を描き始め、この企画のためにプロデューサーとともに映画プロダクション"フライデー・フィルムワーク"を設立。その第1号映画として、08年のヒンディー語映画「A Wednesday!」で長編映画監督&脚本デビュー。ナショナル・フィルム・アワード新人監督賞他、多数の映画賞を獲得する。
その後、プロダクション第2号作品になる11年の「Taryanche Bait」ではプロデューサーデビューし、その後もフライデー・フィルムワーク製作映画の監督やプロデューサー、脚本家として活躍。本作は、長編映画監督としては3本目の監督作となる。この後、日本で映画祭上映された16年の「M.S.ドーニー ~語られざる物語~(M.S. Dhoni: The Untold Story)」「アイヤーリー ~戦場の奇術師~ (Aiyaary)」も監督している。
また、13年には小説「Ghalib Danger」を出版して、この映画化企画も進めている他、Web短編映画も製作していて、業界から注目を集めているよう。
ムンバイ同時多発テロの衝撃を受けて作られた本作は、その首謀者をモデルにしたラスボスの陰謀を描きながらも、ただテロリスト指導者を殺害して終わりにするのではなく、その根を摘み取るためにはどうしないといけないのか、と言うムンバイテロ後に見えてきたテロの現実を見せつけていくところも特色…か。
ある程度アクションよりの解決を見せてはいるけれど、実際のテロで明らかになった「インドの中から生まれるインド人テロリストの発生」の衝撃を詳細に描きつつ、インド国内のテロリスト情報網の広大さ、錯綜具合が現代テロの縮図となっているぞ、と言わしめるさまが、従来のスパイ物映画とは違うリアリティを生んでいるかのよう(*6)。
そんな現実の写し鏡としてのシリアス展開の上で活躍するさまざまな登場人物たちも色々と見もの。
本作がボリウッド2作目の出演作であるタープスィーのパワフルな演技もすごいし、「ハルク」とあだ名されるジャイ役のラーナー・ダッグバーティの巨躯がノッシノッシとアクシェイの周りで動き回るのも楽しい。高圧電流網に引っかかってしまうそのマッチョ具合はなんか、「ジュラシックパーク」の恐竜か! って感じぃ。アブダビロケの砂漠シーンは、40度を超える猛暑の中での撮影だったそうだけど、スタッフ共々よーやりますわホント…。
主役アジェイの妻アンジャリ関連でのみ、ロマンスや挿入歌がかかる「娯楽映画には必須っていうから入れましたよ」的な最低限の恋愛要素もまあ、苦労してるねって感じではあるけど、家族にすら仕事を秘密にしている"ベイビー"って、コメディ路線で描こうとすると「トゥルーライズ」的になりそうで、それはそれで見たいなあ…とか、どーでもいいことを考えてしまいますことよ(*7)。
挿入歌 Main Tujhse Pyaar Nahin Karta (君のことなんか…愛してないよ)
受賞歴
2016 IBNLive Movie Awards アクション映画賞
「ベイビー」を一言で斬る!
・アジェイが、子供たちと見に行こうとしていた映画『ドーレモン5』って、」ドラえもんのこと…だよね?(5ってどれのことだろう…?)
2018.10.26.
戻る
|