インド映画夜話

ベーフィクレー ~大胆不敵な二人~ (Befikre) 2016年 130分
主演 ランヴィール・シン & ヴァーニー・カプール
監督/製作/脚本/原案/台詞 アーディティヤ・チョープラー
"それでもあえて、愛し合う二人"




 その日、パリの街角にてダラム・グラーティとシャイラー・ギルは大喧嘩の末、絶交を宣言して別れていった…。

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 デリーのスタンダップコメディアン ダラムがパリにやって来たのは、一旗上げつつ理想の恋人を探して都会的な生活を見つけるため。
 しかし、パリの女性たちはインドから来た垢抜けない男なぞ相手にしない。落ち込むダラムだったが、セーヌ河畔のパーティで知り合った印系フランス人のツアーガイド シャイラーと意気投合し、その日のうちにベッドイン。それから、「平凡な恋愛」を拒否する2人は非常識を競い合うような狂乱の日々を過ごして行くが…。


挿入歌 Nashe Si Chadh Gayi (彼女は、僕を酔わせるかのよう」)


 ヤシュラジ・フィルムズ総帥にして、「DDLJ 勇者は花嫁を奪う(Dilwale Dulhania Le Jayenge)」「Rab Ne Bana Di Jodi(神は夫婦を創らせたもう)」などの傑作映画監督も務めたアーディティヤ・チョープラー4作目の監督作となる、全編フランス(主にパリ)を舞台にしたヒンディー語(*1)+一部フランス語映画。撮影監督を、パリ在住の日本人カメラマン小野山要さんが務めているのも要チェック!
 日本では、2017年のIFFJ(インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン)にて上映。

 全編(ほぼ)フランスロケのお洒落映画パッケージであり、インド側から見た都会的・ヨーロッパ的自由な人生ってこんなものか、って感じの恋愛映画。
 物語としては全然違うけども、前半の恋愛劇と後半の自己犠牲による2人の関係性の変化という映画構造は、過去のアーディティヤ監督作と共通する面も多い…か?

 大胆不敵というには、タチの悪い子供の悪戯レベルを繰り返す主人公たちが、ブレイクアップ後にそれぞれの新しい恋人との恋愛を応援する形で、両者の成長劇を描いていく後半の切なさと軽やかさは、パターンとは言えその繊細な語り口もあって美しか。
 その物語を彩る音楽と色彩の多彩さとバランス感覚が絶妙で、全体的にお洒落でお洒落な都会派映画でありながらも、映画が終わっても歌が頭を駆け抜けているようなインパクトのある豪華な映画でもある。

 監督を務めるアーディティヤ・チョープラーは、1971年マハラーシュトラ州ムンバイ生まれ。父親は、ヤシュラジ・フィルムズ(略称YRF)創始者で映画監督&プロデューサーでもあるヤーシュ・チョープラー。母親は、歌手兼プロデューサー兼脚本家でもあるパメラ・チョープラー(旧姓シン)。
 ムンバイのシデンハム商業&経済大学を卒業し、同級生に後に同じく映画監督になるカラン・ジョーハルやアビシェーク・カプールがいる。18才から父親の監督作「Chandni(チャンドニー)」の助監督兼総指揮を務めて映画界入り。92年の「Parampara(伝統)」でホーニー・イラーニーと共に脚本を担当して脚本家デビューし、その様々な映画界でのキャリアと父の協力のもと独自の脚本を仕上げ弟ウダイや親友カラン・ジョーハルを映画界に誘った上で、23才の時にギネス級大ヒット作「DDLJ 勇者は花嫁を奪う(Dilwale Dulhania Le Jayenge)」で監督デビューし各映画賞を次々獲得。
 97年の「Dil To Pagal Hai(心狂おしく)」では脚本とともにプロデューサーデビューして、以降、父と共にYRF幹部として数々の映画を世に送り出し、数々の映画スターを輩出させていった(*2)。12年に父親の引退を継ぐ形でYRFのCEOに就任。ボリウッド最大の映画製作複合会社へと拡大させていっている。
 私生活では、01年に一度結婚していたものの09年に離婚。14年に女優ラーニー・ムケルジーと再婚し、イタリアで挙式したことが大々的に報じられてもいた。

 ヒロイン シャイラーを演じたのは、1988年デリー生まれのモデル兼女優ヴァーニー・カプール。父親は家具輸出業を、母親は教師養成組合長をしているそう。
 通信制の国立インディラ・ガンディー・オープン大学(*3)で観光学の学士号を取得し、ホテル業とモデル業を始めると、YRFからのオファーを受けて13年の「Shuddh Desi Romance」で映画&主役級デビュー。フィルムフェア新人女優賞他多数の映画賞を獲得する。続く14年には「Aaha Kalyanam(ああ、結婚)」でタミル語映画主演デビューし、本作はこの次にあたる3本目の映画出演作になる。

 とにかく印象的なのは、軽やかな音楽の数々と画面を彩る色彩の鮮やかさ。
 フランス人が、あんなに在仏インド人の生活文化に寛容なのかは知らんけど(*4)、フランスの風景の前に配置されるインド的衣食住とパリの都会風俗が、画面を華やかにスタイリッシュに、美しく盛り上げてくれる。パリに行くならここに行かないと的な、観光名所を抑えたロケーションの数々がご愛嬌ながら、それが嫌味にならず映画のお洒落度を高める観光ムービーとなってる所も見もの(*5)。
 前半の主役2人の大胆不敵さが、なんかアーディティヤ監督の父親の監督作「命ある限り(Jab Tak Hai Jaan)」に見える”年寄りから見た、無理やりな若者らしさ”に近い感じを受けるような気もしないでもないけども、まあ、後半の別れてもなおお互いに支え合う2人という関係性の揺らぎへの布石と取っておけば、ひねくれたフランス映画への対抗心とも取れなくもなくも…ウーン。

挿入歌 Ude Dil Befikre (大胆な心が空を行く)



「ベーフィクレー」を一言で斬る!
・パリの観光ガイドって、あんな自由なのかっっっ!!!

2017.11.17.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 本作主演の2人もYRFで見出された俳優陣である。
*3 世界最大規模の大学として有名。
*4 「マダム・マロリー」だとインド人に厳しかったぞフランス!
*5 挿入歌”Ude Dil Befikre”のエッフェル塔をバックに屋根の上で踊る2人という構図の大胆さの新鮮さが!