インド映画夜話

ベルボトム (Bell Bottom: Adventures of Detective Divakar) 2019年 130分
主演 リシャブ・シェッティ & ハリプリヤー
監督/脚本 ジャヤティールタ
"空ばかり見てると、穴に落っこちるぞ!"




 その日、田舎では前代未聞の大量強盗犯を捕まえて大評判になったヘーマギリ交番だったが、翌日にその押収品が金庫から消えていることが発覚して大騒ぎに。

 その解決のため、署内の探偵小説マニア"仮採用"のディワーカルの推理力に頼ろうとする警察は、彼に専任捜査を託すのだった。父の後を継ぐためいやいや就いた警官職だったディワーカルは、渡りに船と捜査の条件に「なんでもいいから理由をつけて自分をクビにする事」「探偵として対等な扱いをする事」「バイクを乗り回す許可を出すこと」を条件に、念願の探偵になることを認められる!
 晴れて上官たちに頭を下げられて仕事を任されたディワーカルは、得意になって村を歩き回る中、探偵気取りの彼を笑う美女クスマと知り合って仲良くなっていくが…


挿入歌 Yethake Bogase Thumba


 80年代レトロに彩られた、カンナダ語(*1)映画。世界初、ラジオ版のオーディオ予告編が最初に公開された映画でもある、そうな。

 その人気からタミル語(*2)、テルグ語(*3)、ヒンディー語(*4)でのリメイク企画が立ち上がってる他、続編企画も進行中とか。
 日本では、2019年のIMW(インディアン・ムービー・ウィーク)で上映。

 パソコンも携帯電話もない、ピッチリめのボディラインを強調した高彩度ファッション全盛期、って絵面に、見てる間は勝手に70年代かと思ってたけど、80年代のインドの田舎が舞台。いまいち理解できていないその頃のカンナダ語映画史含むインドの80年代臭をより感じられてたらなあ…という身が悔しいですが、そんな一昔前の探偵小説・探偵映画を今の映画で作ってしまおうとするあの手この手のレトロ風味演出が、いちいち細かく舞台となる村の雰囲気を作り上げるのがなんともウマい。登場するキャラもいちいち濃いい奴らばっかというのがもう…。

 主役ディワーカルを演じるリシャブ・シェッティは、1983年カルナータカ州ウドゥピ県クンダプラ生まれ。
 バンガロール(別名ベンガルール)の映画研究所を卒業後、TVドラマを経て12年のカンナダ語映画「Tuglak」にノンクレジット出演して映画デビュー。翌13年の「ルシア(Lucia)」でクレジットデビューとなり、16年には「Ricky」で監督&脚本デビューする。同年には2本目の監督作「Kirik Party」でフィルムフェア・サウスのカンナダ語映画監督賞を受賞。続く18年の監督&出演作でプロデューサーデビュー作「Sarkari Hi. Pra. Shaale」ではナショナル・フィルムアワード子供映画賞他を獲得している。
 本作が単独主演デビュー作となり、以降もカンナダ語映画界にて出演作・監督作・プロデュース作が控えてるよう。

 ヒロインのクスマ役には、カルナータカ州チッカバラプール生まれのハリプリヤー(・チャンドラ)。
 学生時代から古典舞踊バラタナティヤムを学び、家族でバンガロールへ移住したのち、参加していた文化プログラムの中で映画監督リチャード・カステリーノの見出されて07年のトゥル語(*5)+カンナダ語映画「Badi」にシュルティプリヤー名義で出演して映画&主演デビュー。翌08年からカンナダ語映画に出演し続ける中、10年の「Kanagavel Kaaka」でタミル語映画に、同年の「Thakita Thakita」でテルグ語映画に、12年の「Thiruvambadi Thamban」でマラヤーラム語(*6)映画にそれぞれデビューしている。
 タミル・テルグ語映画界での活躍が多かった中、14年の「Ugramm (烈火のごとく)」の大ヒットによって「カンナダ語映画へのセンセーショナルな復活」と評され、多くのオファーを受けるトップスターへと成長。以降は、カンナダ語映画界を中心に活躍中。本作公開の19年には、「Soojidara」「D/O Parvathamma」はじめ他に7本の出演作が公開(予定含む)。

 監督を務めるジャヤティールタは、1977年生まれ。
 演劇の学位を取得後、舞台演劇やラジオドラマ、小説やワークショップを通して様々な社会派テーマの活動を指揮。劇団その他から舞台デザイン賞や脚本賞、観客賞などを受賞する中、07年に短編映画「Hasivu (Hunger)」を発表。フランスのシネレイル映画祭にて最優秀インド短編映画賞を獲得する。
 11年のカンナダ語映画「Olave Mandara」で長編映画監督デビューとなり、フィルムフェア・サウスのカンナダ語映画作品賞はじめ複数の映画賞を獲得。本作は、長編映画としては6作目の監督作となる。

 レトロ風味の映画構成、一筋縄ではいかない胡散臭い脇役のオンパレード、ポジティブ思考の主要登場人物たちのドタバタした行動動機…と、狭い村々のなかでくり広がるどこかズレた日常劇が、わりとムリクリな種明かしの中で色々と盛り上がっていくんだから楽しい楽しい。
 「探偵ものでそれは、どうなのよ?」って展開も、ラストの畳み掛けるような真相を前にして、タイトルに掛けられた意味も明らかになるにつれて「ほほぅ」と唸ってしまういろんな仕掛けも侮れませぬ。村単位の小さなお話なのに、130分まるまる楽しめてしまうと言う、主人公と同じく肝っ玉の大きな映画ですことよ。

Audio trailer(ラジオ版予告編)



「ベルボトム」を一言で斬る!
・主演のリシャブ・シェッティ、なんとなく角度によっては太ったプラバースって感…んがくく。

2019.10.11.

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*1 南インド カルナータカ州の公用語。
*2 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*3 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*4 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*5 インド南西部トゥル・ナードゥ地域で使用される言語。南部ドラヴィタ語派の1つ。
*6 南インド ケーララ州の公用語。