インド映画夜話

Bhediya 2022年 156分
主演 ヴァルン・ダーワン & クリティ・サノーン & アビシェーク・バナルジー(キャスティング・ディレクターも兼任)他
監督 アマル・カウシク
"内なる獣を、受け入れよ"




ーこれは「狼」というお話。
 昔々、7人の子ヤギがお母さんと一緒に暮らしていました。お母さんは出かける時に言いました。「いいかい? 恐ろしい狼が来ても扉を開けるんじゃないよ。みんな喰われてしまうからね…」でも外では、狼が聞き耳を立てていたのです…
 そんな話を森の民の少女に語っていた男は、突如外から聞こえた物音を警戒して洞穴を飛び出していったが、程なく少女は男の叫び声を聞いていた……
***************

 その日、犬嫌いなビジネスマン バスカル・シャルマー(通称バスキー)は、従弟のジャナ(本名ジャナルダン・シャルマー)と一緒に、インド最東端アルナーチャル・プラデーシュ州辺境部の高速道路建設工事の監督に赴く事を決めた。

 旧友ジョー(本名ジョミン)と現場監督パンダの案内で、大型野生動物が跋扈する密林へ分け入って行くバスカルだったが、パンダは語る…「ここには、道路工事に反対する多数の部族民が住んでいますし、彼らがヤプムと呼んでいる化け物が出てくるのですよ…」。そんな話を信じないバスカルは、ジョー達と森の散策を楽しんでいたが、突如狼に襲われて尻に大怪我を負ってしまう!
 ジョーとジャナはすぐにバスカルを村の獣医アニカ・ミッタルの元へ運び「人間は診た事ない」という彼女を説得して、無理矢理に治療を施してしまった。それでもその翌朝、すっかり元気になったバスカルだったが、異常に嗅覚や聴覚、視力が向上していて…。

 その夜、道路建設役員のプラカーシュ・パジャが狼に襲われ重傷を追って病院に担ぎ込まれる事件が起きてから、バスカルは何度となく腹痛に襲われ、記憶にない夜の間に自分が何をしていたのか疑心暗鬼にかられ、同時に人間離れした身体能力をも発揮し始める…!!


ED Thumkeshwari

*エンディングソングに乗って、主要登場人物が踊る中、ユニバース第1作「ストゥリー」でヒロインを演じていたシャラッダー・カプールがゲスト出演! このエンディング直前にジャナの所に「ストゥリー」の頃の彼の悪友2人が訪ねてくるシーンと合わせて、ユニバース・シリーズものである事を強調する!!(*1)


 タイトルは、ヒンディー語(*2)で「狼」の意だそう。

 カウシク監督の故郷アルナーチャル・プラデーシュ州に伝わる獣人伝説をもとにした、マドック・スーパーナチュラル・ユニバースの第2作(*3)。
 インドより1日早くアラブにて公開が始まり、インドと同日公開で英国、シンガポール、タイ、南アフリカ、オーストラリア(ネット公開)でも公開されているよう。

 予告編を見て、あのヴァルン・ダーワンが狼男役!? とワックワクで見はじめた映画でしたが、微妙に予想外の方へ転がっていく映画でしたわ。
 ユニバースを謳ってるだけあって、「ストゥリー」となんとなくストーリー進行や登場人物構造を(ある意味では)シンクロさせてるようなお話で、主人公バスカル演じるヴァルン・ダーワンは、お調子者ながら高速道路建設に熱心な仕事人間で、部族民達が住む密林の中へズカズカ入り込んではその自然を鬱陶しく感じる現代人。そんな彼が、突然狼男に変わったかも、という疑心暗鬼にかられて友人達からも疑惑の目を向けられるところなんかはサイコホラー的な展開なんだけど、基本的にお話の最初からノリが軽いコメディとして描かれているし、バスカルと周囲の人々も森の奥の暗闇は怖がっても、命の危険を感じないうちは「どーでもええわ」を貫き通すお気楽さで自体を無視するところも実に現代っ子。「ストゥリー」が実際の幽霊騒動の起きた場所でロケしていた不気味さが画面に染み付いていたのに対して、こちらは密林の闇夜という別種の怖さを扱っているとは言え、お話自体に終始明るさがついてくるコメディ・ホラー仕立てな感じ。

 この、明るいホラー映画な画作りに一番関与してるように見えるのが、前作「ストゥリー」にも登場したおどけ役ジャナを演じるアビシェーク・バナルジーの存在感。
 1988年ニューデリー生まれ(*4)で、父親はCISF(*5)の副司令官をしていたと言う。長じてデリーの大学に進学し、当初はコンピューター・サイエンスを専攻していたものの、途中で進路変更して英語の優等学位を取得。大学時代に演技にも興味を示して、大学卒業後にキロリ・マル演劇協会に所属してデリー劇場で活躍する。
 この頃に「Rang De Basanti(浅黄色にそめろ / 2006年公開作)」に端役出演して映画デビュー。2008年にムンバイに移って、2010年公開作「Soul of Sand(砂の魂 / ヒンディー語タイトル Pairon Talle)」に出演する傍ら、同年公開作「ムンバイ昔話(Once Upon a Time in Mumbaai)」でキャスティング協力、「Knock Out(ノックアウト)」でキャスティング・ディレクターを務めて、以降ヒンディー語映画界&TV界の男優兼キャスティング・ディレクターとして活躍中。2020年のオムニバス映画「Unpaused」の1篇"Vishaanu"で主役級デビューしている他、2022年の「Highway(ハイウェイ)」でテルグ語(*6)映画デビュー。2023年には、TVシリーズ主演作「The Great Weddings of Munnes(ムンナーの偉大なる結婚式)」でフィルムフェアOTTのTVシリーズ部門コメディ演技賞を獲得した他、IWMデジタル賞の多彩な演技賞・オブ・ザ・イヤー特別賞他多数の映画賞も受賞。本作でもボリウッド・ライフ助演男優賞を獲得している。

 「ストゥリー」との関連を示すジャナの存在感と共通の役回りを狂言回しとして、仕事人間のバスカルを襲う怪異の正体も、エンディングにゲスト出演するシャラッダー・カプール(「ストゥリー」のヒロイン役!)とシンクロするように見えてくるところもニクい演出。その直前に、前作の舞台からジャナを追ってきた親友ヴィッキーとビットゥの登場で、この3人がシリーズ共通の登場人物として機能し、それぞれの事件の見守り隊である事を示唆……してんのかなあどうかなあ。続編を確認して見極めたいところですわ。

 ヒンディー語映画では珍しい北東部州を舞台として、その辺境の辺境部であるアルナーチャルの密林に潜む野生を発端とする怪異のそれが、単独の種族性を持つものというより伝染力を持つ怪異である事で、お調子者主人公のお気楽姿勢が徐々に蝕まれていく姿も興味深いながら、あまりアイデンティティの崩壊とかは描かれず、獣人側の持つ野生と人間たちの文明との対立を主軸に置くあたり、「もののけ姫」的なお話と理解することも可能…なようなそうでもないような。まあ、友人たちにふざけて嘘で怖がらせていたバスカルが、実際に狼に襲われると「ああ、またなんか言ってるよ。ほっとけほっとけ」と狼少年扱いされる皮肉も楽しかったけども。総じて、事件の深刻さに対して登場人物みんながおおらかで楽しい映画ですわ。
 とりあえず、最近のヒンディー語映画ではやたらとヒロイン役で登場しすぎるクリティ・サノーン演じる村の獣医アニカの「お前絶対都会人やろ」ってバッチリ決まった立ち居振る舞いの浮世離れさは、意図された演出なんだよね…? 森の開拓で野生動物たちの危機を心配してるわりには、主人公たちと同じくお気楽なキャラではあったけど、村人側代表としての腹に一物あるヒロイン…と言うにはのんびりした人物像でありましたわあ。もっと、地元民のモンゴロイド俳優と楽しく遊んでてもよかったと思うのー。



挿入歌 Jungle Mein Kaand




受賞歴
2023 Zee Cine Awards 編集賞(サニュクタ・カザ)・音響デザイン賞(クナール・シャルマー)・BGM賞(サチン・サングヴィ & ジガル・サライヤー)
2023 DPIFF (Dadasaheb Phalke International Film Festival) 批評家選出男優賞(ヴァルン・ダーワン)
2023 Bollywood Life Awards 助演男優賞(アビシェーク・バナルジー)


「Bhediya」を一言で斬る!
・モンゴロイドのジョーを紹介された時の、笑いをこらえるジャナの反応は、どこまでステレオタイプ的な描写なのー!!??(バカな奴がバカなことしてるシーンではあるけど)

2026.4.10.

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*1 さらに、このミュージカルダンスでもシャラッダー登場以降ダンスの男女の振付が交代しているのは、前作エンディングダンスの振付へのオマージュでもある。





*2 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語で、フィジーの公用語の1つでもある。
*3 マドック・フィルムズ製作の、インド各地の怪談をテーマにした怪奇映画ユニバース・シリーズ。第1作は、もともと独立した映画として製作された2018年の「ストゥリー 女に呪われた町(Stree)」。本作に続く第3作は、2024年のアーディティヤ・サルポトダール監督による「Munjya」。さらに、アマル・カウシク監督に戻った同年の第4作「Stree 2(ストゥリー2)」へと続く。
*4 1985年西ベンガル州西ミドナープル県カラグプル生まれとも。
*5 Central Industrial Secrity Force 中央産業保安部隊=内務省管轄の武装警備隊。
*6 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。