Bhoothnath 2008年 136分 挿入歌 Mere Buddy Suno Jara (よぉ、まあ聞け兄弟) ゴアでは有名な幽霊屋敷"ナート・ヴィッラ"に引っ越して来たシャルマー一家は、管理人の「そんなのただの噂ですよ」と言う言葉を信じてそこに住む事を決める。 父親アーディティヤは豪華客船のエンジニア。引っ越しの翌日から長い航海に出発するため、家には母親アンジャリと、悪戯っ子の息子アマン(通称バンクー *1)だけが残る事に。バンクーは、転校初日から一騒動起こしつつも新生活を楽しみはじめ、アンジャリは屋敷周辺を根城にする泥棒アンソニーを叩きのめして「あんたが幽霊の正体だったのね!」と家の使用人に仕立てて得意満面。 そんなある日、学校の同級生たちに「ナート・ヴィッラ! あそこは幽霊が出る所じゃないか!!」と驚かれたバンクーに母アンジャリは答える「幽霊なんていない。天使ならいるわ。あなたのお爺ちゃんみたいに優しい天使ならね」。 その夜中。一人起きだして台所に来たバンクーは、そこで突如見知らぬ長身の男と出会う… 「ワシは幽霊だ…ここはワシの屋敷だぞ…小僧は引っ込んでろ!!」 「…幽霊? そんなのいるもんか!! 母さんは『天使ならいる』って言ってたんだ。あんたこそ向こう行ってろ!!」 「な…なんじゃと!!??」 挿入歌 Hum To Hain Aandhi (オレたちゃ嵐さ台風さ [だれも縛れはしなんだ]) タイトルはヒンディー語(*2)で「亡霊王」または「亡霊ナート」。 劇中では、アミターブ演じる亡霊がバンクーの前に出てきた時に「ワシはブート(亡霊)じゃ」と名乗り、さらに名前を聞かれて「ナートじゃ! ナート・ヴィッラ(ナート屋敷)の持ち主なんじゃからな!!」と名乗った事から、バンクーが「じゃあ、ブートナートなんだね」と名付けた事による。 本作は、オスカー・ワイルドの短編小説「カンタヴィルの亡霊」の翻案映画で、ヴィヴェーク・シャルマーの初監督作。2014年には、別の監督による続編「Bhoothnath Returns(帰って来た亡霊王)」が公開されている。 冒頭、特別出演のアシーシュ・チャウダリー(ローハン役)とナウヘード・サイルシー(ティナ役)による幽霊屋敷での奇怪な一夜から始まるOPクレジットはホラー映画的ではあるけど、そこから始まるバンクーと亡霊ブートナートとの微笑ましい交流が全年齢対象の家族ドラマとして作られているためか、冒頭のドッキリ度も大した事なく、"怖い"画面はまったくない安心設計。 本作の翌年に「アラジン(Aladin)」でランプの精役をやることになるアミターブ演じる幽霊は「なるほど! これがあったから、ランプの精もあんな妖しさプンプンなオーラで快活に演じてたのね!」ってくらいハマり役。「幽霊なんていない」と母親に言われた事から、実際に幽霊を見ても動じないバンクーにあせって、その悪知恵に振り回されるブートナートがおもろ可愛い。 中盤以降、父親不在の家で育って来たバンクーの父親代わり・祖父代わりになっていくブートナートは、定番と言えば定番ながら、バンクー役のアマン・シディッキーとブートナート役のアミターブ・バッチャンの息のあったやりとり、さすが芸歴の長いアミターブの器用さもあって、コロコロ変わる表情や身体の動き1つ1つが見ていて楽しい楽しい。 後半、明らかになるブートナートの過去の因縁譚、幽霊を信じない大人たちになんとかブートナートを認めさせようと頑張るバンクーのいじらしさもあって、ただの子供映画に留まらないボリュームの映画になってはいるものの、過去編とブートナートとの別れはやや駆け足で急造感が拭えないのが惜しい。結局、バンクー自身に人の生死や幽霊の儚さを理解する手がかりがあったかどうか怪しいのが、子供映画としては消化不良に見える。まあ、児童文学的な所を狙ってないからってことだろうけども。 本作の原案を持ち込んで初監督作となったヴィヴェーク・シャルマーは、1969年マディヤ・プラデーシュ州ジャバルプル生まれ。 1993年のヒンディー語映画「Sir」の助監督として映画界に入り、そのまま助監督や監督補佐、ポストプロダクション管理等の仕事を経て、シャールク&ジュヒーによる映画プロダクション"ドリームズ・アンリミテッド"設立を手伝ったりしていたと言う。99年の「Love You Hamesha」で脚本デビューし、本作の脚本をシャールクとラヴィ・チョープラ(*3)に持ち込んだ所、好評を得て企画が始動。監督デビューを飾る。この翌年に2作目の監督作「Kal Kissne Dekha(明日なにが起こるか、誰にわかる?)」を公開。その後はTVドラマ界で活躍しているよう。 タイトルロールとなるブートナートを演じるのは、言わずと知れた大御所アミターブ・バッチャン(本名アミターブ・ハルヴァンシュ・ラーイ・バッチャン)。 1942年英領インドのイラーハーバード(*4)生まれで、父親は名門のスリヴァスタヴァ・カーヤスタ家系(*5)の高名な詩人ハリヴァンシュ・ラーイ・スリヴァスタヴァ。母親は名門カートリ家系(*6)出身のシーク教徒の社会活動家テージー・バッチャン。 産まれた当初、インクィラーブ(*7)と名付けられたそうだけども、父親が詩人仲間の勧めに従ってアミターブ(*8)に改名させ、その後父親のペンネームだった"ハリヴァンシュ・ラーイ・バッチャン"のバッチャン(*9)姓を名乗るようになってから"アミターブ・バッチャン"の名前で俳優活動を始めたと言う。 デリー大学在学中に母親の勧めで演劇に参加しはじめ、69年のヒンディー語映画「Saat Hindustani(7人のインド人)」で映画デビュー。73年の「Zanjeer(鎖)」が大ヒットしてトップスターの仲間入りし、この映画で演じた"怒れる若者"像は、以降アミターブを象徴するアイコンとしてもてはやされるようになる。同年にベンガル人女優ジャヤー・バドゥリーと結婚し、75年の「Deewaar(障壁)」「炎(Sholay)」の記録的大ヒットによってキング・オブ・ボリウッドの地位に登り詰める。81年の主演作「Naseeb(運命)」からはプレイバックシンガーとしても活躍するが、82年の「Coolie(苦力 映画公開は83年)」撮影中の事故で生死をさまよう大怪我を負うと(*10)、その後は以前のようなヒット作を生み出せなくなり、84年に友人の勧めに従って俳優業を退き政界入り。しかし、3年で下院議員を辞任し、それに伴う裁判の敗訴によって映画復帰の数年間停止勧告を出されてしまう。 88年の「Shahenshah(帝王)」で映画復帰が叶うもいくつかの単発ヒットの他は不調。映画製作会社ABCL(*11)を設立してプロデューサー業を始めるも、これも最終的には倒産と不遇の時代が続くが、00年にTVショー「Kaun Banega Crorepati(ミリオネアになるのは誰だ:インド版クイズ・ミリオネア)」のホストに招かれ人気を獲得し、徐々に映画スターとしての人気が再熱。05年の「Black(ブラック)」で多くの映画賞を獲得し、業界にその存在感を見せつけて完全な人気復活となり、今やボリウッドになくてはならない巨匠の一人となっている。 主な活躍の舞台はヒンディー語映画ながら、81年に「Vilayati Babu」でパンジャーブ語映画に特別出演した他、94年にマラーティー語映画「Akka」、05年にはカンナダ語映画「Amrithadhare」、06年にテルグ語映画「Amrutha Varsham」に本人役で特別出演(*12)、06年にはボージュプリー語映画「Ganga」に主演、10年にはマラヤーラム語映画「Kandahar(カンダハール)」に準主役出演、13年にはハリウッドの「華麗なるギャツビー(The Great Gatsby)」にも出演している。 かつて恋人役で多数共演していたシャールクとジュヒーが夫婦役で登場するのも感慨深いものがあるし、その演技力とオーラの健在ぶりはただ見てるだけで眼福も眼福だけど、お話の中の両親の描かれ方はステレオタイプの域を出なかったネ。まあ、それが嫌味に見えないのがこの2人の魅力なんでしょうけど。 そういや、05年のシャールク&ジュヒー&アミターブ出演映画「Paheli(難問)」では、本作のブートナートに似た精霊役をシャールクが演じてたし、ブートナートが使った木の葉を操る能力とよく似た魔法をシャールクも使ってましたなあ…。 ラスト近辺に、家族ドラマとしての盛り上がりを作ろうと話が急展開するのはいいけども、せっかくのバンクーとブートナートの疑似父子(祖父孫?)関係劇がふっ飛んでしまうあたりに脚本のこなれてなさを感じてしまうか。とは言え、予告編見てた時には「うわー可愛くない子役じゃのう」とか思ってたバンクー役のアマン・シディッキーが、ブートナートと丁々発止してる時に見せる生き生き感で可愛く思えてくるんだから、それだけでこの映画の勝利ですわ。お葬式の時に聖火に燃料投下してる笑顔は、なんか知らんけどやたら恐かったけどネ! 挿入歌 Banku Bhaiyya, Banku Bhaiyya Kabhi Naa Hare (バンクー様、バンクー様 、彼は絶対死ねとは言わない)
「Bhoothnath」を一言で斬る! ・「スタンリーのお弁当箱」や「きっと、うまくいく」にある学校の先生を茶化すシーンはこの映画でも健在。生徒のお弁当をくすねたり、スピーチで変な失敗をさせたりってのは、インド定番のギャグ?
2016.8.27. |
*1 サタジット・レイ原作の台本で、後にTV映画化された「Bankubabur Bandhu(バンクーさまのお友達)」がネタ元。 *2 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。 *3 本作のプロデューサーでもある。 *4 現在はウッタル・プラデーシュ州所属。 *5 文筆業を専門とする混合カースト。スリヴァスタヴァはそこに属する北インド系の姓。 *6 パンジャーブ地方を中心とする、伝統的な混合カーストの商業系コミュニティ。 *7 独立運動中に流行したフレーズ"革命よ永遠なれ"からの命名。 *8 無量光の意。漢訳名 阿弥陀。 *9 "無邪気"のヒンディー俗語。 *10 この映画は、本編中に「ここがアミターブが大怪我を追ったシーンだ!」とデカデカと表示されるカットが挟まれ、それが宣伝になってさらなる人気を呼んだとか。 *11 Amitabh Bachchan Corporation Ltd.の略。 *12 さらに14年にも「Manam(我ら)」に特別出演している。 |