インド映画夜話

Bichhoo 2000年 160分
主演 ボビー・デーオール & ラーニー・ムケルジー
監督/製作 グッドウー・ダノア
"人生って、なんで傷つくことばかりなの?"
"人生がなにをくれようが、かまやしない事さ"


挿入歌 Pyar Tu Dil Tu (あなたは愛、あなたは心)


 殺し屋ジーヴァが仕事帰りに出会ったのは、アパートの部屋を追い出されて廊下で一人タバコをふかす隣室の娘。いつも家族間で言い争いが絶えないバリ一家の様子は、ジーヴァにある記憶を思い出させる…。

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 かつてジーヴァにはキランと言う恋人がいたが、彼女の父が2人の関係に反対し、警察をけしかけてジーヴァの家族に無実の罪を着せ自殺に追い込んでしまう。この事実を知ったキランもまた、父を恥じて自殺してしまい、ジーヴァは復讐のために彼女の父を手にかけたのだ…。
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 翌朝。麻薬売買のトラブルから、隣室に突如男たちが襲撃に来てバリ一家全員を銃殺する事件が発生!!
 ちょうど、ジーヴァの部屋に押しかけて来ていた少女だけがこの襲撃から生き残るものの、彼女の通報で警察がやってくる事を知ったジーヴァは、すぐに少女を連れてその場を離れようとする…「それで、君の名前は?」「…キラン」
 その運命的な名前を聞いて驚きつつ、ジーヴァは彼女に語る「君の家族を殺したのは警察だ。だから君を一緒に連れ出した。さあ、あとは安全な場所を探して逃げろ…」


挿入歌 Pyar Ho Na Jaye (愛に落ちることなかれ)


 タイトルは、ヒンディー語(*1)で「サソリ」。本作主人公が飼ってるペットからの命名。
 本作は、1994年の米仏合作映画「レオン(Le´on: The Professional)」の翻案ものアクション・ヒンディー語映画。

 OPを飾るようなミュージカル"Dil Tote Tote Ho Gaya (私の心は奪われた)"で歌手本人が踊ってたり、寡黙な殺し屋ジーヴァの「なぜ殺し屋になったのか」を濃厚に語り出すパワフルさがさすがボリウッドだけども、基本的なストーリーラインはまんま「レオン」のそれ。
 「インドの物語文脈において、"過去のない人間"というのは存在し得ない。なぜならインドは基本的に生活に家族がしょっちゅう介入してくるから」って言われて紹介された映画なもんで、見てる間じゅう「なるほど…こういう事なのか…」と感心ばっかしていました事よ(*2)。
 まあ、わりと役者の好きに演技させてる感のある本編は、演出意図と演技指導が噛み合ってないんじゃないの、って感じなちぐはぐさがあって元ネタ映画のスタイリッシュさはなくなっちゃってる所がご愛嬌。「レオン」の上映時間が110分(完全版は133分)なのに対して、本作は160分もある所がそれを物語っておりますが、それこそボリウッドっぽいよねと言われれば「そうかもね」ですけども。

 主役ジーヴァを演じているのは、1969年マハラーシュトラ州ムンバイに生まれたボビー・デーオール(生誕名ヴィジャイ・シン・デーオール)。
 有名な映画スター ダルメンドラの息子で、兄に男優サニー・デーオール、義母に女優ヘーマ・マーリニー、異母妹に女優イーシャ・デーオール、従弟に男優アバイ・デーオールがいる。
 77年の父ダルメンドラ主演作「Dharam Veer(勇者ダラム)」に子役出演して映画デビュー。本格的な映画出演作となる95年の「Barsaat(雨)」で主役デビューして、フィルムフェア新人男優賞他を獲得する(*3)。以降もヒンディー語映画界で活躍中。本作でもその演技は絶賛されたそうだけど、その中途半端な透過率のサングラスとブラックスーツ、泣き顔風なタレ目演技ばかりのアップに「ムゥ」って感じぃー。

 本作で一番の存在感を発揮するのは、敵役のヤク中麻薬捜査官デーヴラージ・カートリを演じるアシーシュ・ヴィディヤルティ。
 1962年ケーララ州カンナノール(現カンヌール)県タラセリー生まれで、母親はベンガル系カタックダンサーのレーバー・ヴィディヤルティ、父親はマラヤーリー系の劇場主ゴーヴィンド・ヴィディヤルティになる(*4)。
 少年期にデリーに移り住んで演劇に参加して俳優活動を始め、大学で歴史学の学位を取得している。舞台やTVで活躍したのち、86年のカンナダ語映画「Anand(アーナンド)」で映画デビュー。続いて91年のマラヤーラム語映画「Hijack(ハイジャック)」に、91年のヒンディー語映画「Kaal Sandhya」では主役級で出演。以降、ヒンディー語映画界を中心に活躍しつつ、00年には「Shesh Thikana」でベンガル語映画に、「Nightfall」でアメリカ映画に、「Madhuri」でテルグ語映画に、翌01年には「Dhill」でタミル語映画にもデビュー。95年のヒンディー語映画「Drohkaal(反逆の時)」でナショナル・フィルムアワード助演男優賞を獲得した他、数々の映画賞を獲得してもいる。
 本作では、登場人物中一番の存在感を発揮する怪演が光る。唯一元映画のインパクトを凌駕するパワーを見せつけるそのパワフルさは、狂気度合いも含めて凄まじいですわ。

 「レオン」で観葉植物を愛好してた主人公が、本作ではその代わりにサソリ愛好者として本物のサソリを手に乗せて演技させてるのも凄いけど(*5)、ある程度意味深に使ってるとはいえ、ラストにそのサソリをキランが受け継ぐ絵面は色々無理があるよなあ…と。そのサソリを肩に乗せたり、顔半分泥まみれにされたりと、キラン演じるラーニーも結構大変そうではあるけれど。うん。
 本作の大ヒットを受けて、監督から続編構想中との発表があったそうだけど、キランのその後を描くつもりだったのか…パラレル展開する映画なのか…見たいような、見たくないような。むぅ。

挿入歌 Dil Tote Tote Ho Gaya (私の心は奪われた)

*メインで踊ってるのは、実際にこの歌を担当している歌手シュウェーター・シェッティとハンス・ラージ・ハンスの2人。



「Bichhoo」を一言で斬る!
・愛の告白をするキラン演じるラーニーが、"クチクチホタヘ"言うたでー!!!(本作の2年前に大ヒットした、ラーニー出演の大ヒット作のタイトルでんがな)

2020.7.22.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。その娯楽映画界を、俗にボリウッドと呼ぶ。
*2 その主人公の過去の因縁話が、本編に何か関係する伏線なのかと思ったらただの主人公紹介のためのエピソードだったという驚き!
*3 撮影中に大怪我して、いくつかの出演予定作をキャンセルせざるを得なかったそうだけど。
*4 ヴィディヤルティという名字は、カーンプル暴動で死亡した独立闘士ガネーシュ・シャンカール・ヴィディヤルティにちなんで父親が名乗ったものを受け継いだそう。
*5 しかも都合よくジャンプして移動する!