人形の家 (Bommarillu) 2006年 168分
主演 シッダールタ & ジェネリア・デスーザ
監督/脚本/原案 バースカル
"恋が、人生に潤いを"
挿入歌 We Have a Romeo (オレたちはロミオ [ジュリエットはどこに])
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父親が幼い息子に手を貸すのは自然なこと。
しかし、それが24歳の息子に手取り足取りとなると、それはもう…
24歳のシッドゥ(本名シッダールタ・アッダーラ)は今日も怒り心頭。
幼い頃から今に至るまで、彼の全ては父親アラヴィンドの意のまま。服も髪型も遊びも日々の暮らし方も、父親の指示こそが絶対であり、彼を始め家族の全員はそれに逆らう事が出来ない。ついには、父親が自分のためにと紹介してきた女性との婚約までもが成立してしまったのだ!
不満タラタラの中で大学時代の友人と寺院に詣でるシッドゥは、人混みの中突然ぶつかってきた少女ハシニ・ラーオに呼び止められ、「知らないの? 頭をぶつけられたら、同じ人ともう1回頭をぶつけないと角が生えてくるのよ」と一方的に迫られタジタジ。彼女の奇妙な魅力に振り回されながらも興味を持ち始めたシッドゥは、これをきっかけにハシニと行動を共にするようになり、しだいに両思いになるが、父親と婚約者にはその事を言い出せないままだった…。
挿入歌 Laloo Darwaja (ラル・ダルワーザの近くで [ゴールコンダ砦の近くで、ヤムナー河の岸辺で…太鼓が鳴り始めたぞ!])
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*ラル・ダルワーザとは、ウルドゥー語で"赤門"の意。
ハイデラバード郊外にある旧市街地区の名称で、テランガーナー州最大の祭ボナラ・ジャタラが開催される場所である。もともと1948年まで存在したニザーム王国により命名された地名で、この地区の入口に大きな赤門が設置されていた事に因む。
過保護な父親と、それに反発する息子を中心に展開する、テルグ語(*1)青春ラブコメの傑作!
これが監督デビュー作となるバースカル監督の代表作であり、ヒロインを務めたモデル出身のジェネリアの代表作でもある。
大ヒットにともない、08年にはジェネリア自身が同じヒロインを演じるタミル語(*2)リメイク作「Santosh Subramaniam」、ベンガル語(*3)リメイク作「Bhalobasa Bhalobasa」が、翌09年にはオリヤー語(*4)リメイク作「Dream Girl」が、さらに再度ジェネリアを主演に迎えたヒンディー語(*5)リメイク作「It's My Life」が13年に公開された。
日本では、2017年のSIFFJ(南インド映画祭)にて上映。
とにもかくにも、主役2人がカワイイ!!
全てを事前に与えられているが故に自分に自信を持てないシッドゥ。そのシッドゥが今までに出会った事もない突飛な思考の持ち主ハシニ。それぞれの初登場シーンも魅力的なら、その2人の丁々発止のやりとりからの距離感の変化が、そのまま物語の魅力につながっている美しさよ。ハイデラバードのデートコースの勉強にもなるし、いつかオススメのコーヒーショップに行ってみたーい。うん(*6)。
2人の父親たちの、それぞれに性格や子供への接し方は違うものの、その家族への愛情や子供と世間の間の壁になってやると言う態度のシンクロ具合も楽しい。家族第一主義+父権主義が普通のインド家庭のカリカチュアを描きながら、それでもよくある権威的な父親像ではなく、子煩悩故に話をこんがらがせるその愛情がいじらしい。ただ憎いとか愛しいだけではない家族故のゴタゴタを、感情の振幅を最大限に振り切ってきれいに盛り上げる、インド映画界のスキルが羨ましくってしょうがないよ!!
本作の監督を務めたバースカル(・ナータラージャン)は、1976年タミル・ナードゥ州ヴェールール生まれで、アーンドラ・プラデーシュ州ハイデラバードのマニコンダ地区育ち。
03年のタミル語映画「Alaudin」や04年のテルグ語映画「Arya」の助監督としてキャリアをスタートさせ、06年の本作で監督&脚本デビューを飾り、ナンディ・アワードの監督賞&脚本賞を獲得。その評判から、別名"人形の家(Bommarillu)"のバースカルとも。
その後もテルグ語映画界で活躍する中、16年には「Bangalore Naatkal(バンガロールの日々)」でタミル語映画監督デビュー。ここまで、監督作には常にプラカーシュ・ラージを出演させていると言う。
主役2人の魅力もさる事ながら、シッドゥの父親アラヴィンドを演じる名優プラカーシュ・ラージの演技力とその威圧力、その裏に見え隠れするさまざまな感情の演じ分けも見所。
後半、良かれと思って成立させた息子の婚約の危機に際し、理解不能な反応を見せる息子への対応、家族全員のイメージの斜め上を常に行くハシニへの態度の硬化具合、自分の信念への揺るぎない自信、強い父親以上に複雑な感情を、それぞれの登場人物との掛け合いによってより増幅して表現する演技演出の軽妙さが楽しい楽しい。
その感情表現が、だんだんイライラし始めるシッドゥへと伝播し、彼が父親と同じような態度でハシニに食って掛かるシンクロ具合もさすが。
叙事詩の中での羅刹の国で孤立するシーター姫の如く、アッダーラ邸で孤立していくハシニの痛々しさも印象的なら、それを成立させる彼女の快活なキャラ造形、対比的に描かれる前半のシッドゥとの楽しく美しい日々が効果的にこちらの感情を揺さぶってくる。
その上で、硬化した家族の嘘で作られた人間性を次々と溶かして行くハシニの、嫌みに見えない魅力全開のトラブルメーカーっぷりが、まさに演じるジェネリアにしかできないオーラ全開で最高であります。
その親世代に対抗する若者文化の拡大の有り様は、後の11年公開シッダールタ主演作「Oh My Friend(オー・マイ・フレンド)」への布石と見てみるのも、あるいは面白いかもしれな…い?
挿入歌 Appudo Ippudo (何度も夢に見た [どこかで君ヘの恋に落ちた])
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*歌ってるのは、主人公シッドゥ演じるシッダールタその人!
受賞歴
2006 Nandi Awards 作品賞・助演男優賞(プラカーシュ・ラージ)・新人監督賞・脚本賞(バースカル)・台詞賞(アッブリ・ラヴィ)・吹替女優賞(サヴィター・レッディ)・審査員特別賞(ジェネリア・デスーザ)
2006 Filmfare Awards South テルグ語映画作品賞・テルグ語映画女優賞(ジェネリア・デスーザ)・テルグ語映画音楽監督賞(デヴィ・スリ・プラサード)
2006 Santosham Film Awards 作品賞・主演女優賞
「人形の家」を一言で斬る!
・一目惚れした相手の身の回りを、その気になるとすぐ調べられてしまうインドのご近所通信具合は、毎度便利なんだか恐ろしいんだか。
2017.10.13.
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