ブリンダーヴァナム 恋の輪舞 (Brindavanam) 2010年 152分 *チャンペ〜スタノ!(殺してやるぞ! …劇中に多出するので憶えてしまうw) ハイデラバードの大財閥の息子クリシュ(本名クリシュナ)は、正義感厚い天下無敵の好青年。今日も、恋人と引き離された友人を助けてギャング一味をボコボコに! そんなクリシュは、駆け落ちした友人の(私的)結婚式をセッティングしたり、恋人インドゥを両親に紹介したりと忙しい毎日。 ある日、クリシュはインドゥに呼び出されると「友人ブーミーが、父親の勝手で彼女の甥と結婚させられるんで『彼氏がいるから』って嘘で断ったの。そしたら、『すぐにその彼氏を連れてこい』と言われて困ってる。だから、しばらくブーミーの恋人役を演じて、彼女の実家に行って、父親たちを傷つけずにこの結婚を破談させてほしいの」と言われて吃驚仰天!! ブーミーと共に不承不承彼女の故郷カルヌール県に赴き、一族が住む巨大な屋敷ブリンダーヴァナムに到着したクリシュは、そこに滞在しながらこの大家族たちの様子を観察。 屋敷の跡取り候補のブーミーだが、屋敷には、母亡き後より厳しい村長となった父バヌープラサード、タダで居候し続ける母方の叔父家族2組、村の農作業を監督する父方の叔父家族2組、ペットの亀キットゥ、そしてブーミーの計画の立案者となる祖父ドゥルガープラサードと言う大所帯。 この相互にバラバラな家族とは別に、お屋敷のある村と対立する、父とは腹違いの弟となる叔父シヴドゥ(本名シヴァプラサード)一族が支配する隣村との睨み合いが、やがて一触即発の事態へと発展。さらにブーミーを狙う甥がからんで来るため、クリシュは"ブーミーの彼氏"と言う嘘を利用して、この一族のために走り回ることに…。 挿入歌 Eyi Raja (若者たちよ [今こそ我らの日。さあ、モノにしよう]) タイトルは、劇中の舞台となるお屋敷の名前ブリンダーヴァナムのこと。 その由来は、クリシュナ神話において、幼少期のクリシュナが命を狙う悪魔を避けて、育ての親の牛飼い村の人々と共に過ごした隠れ里のような聖森ヴリンダーヴァナの事。劇中のお屋敷にも、それをモデルにしている事を象徴するような植物文様やクリシュナ神像、青(*1)で統一された屋内や神話を描いた壁画が出てきて、映画がクリシュナ神話を下敷きにしている事をハッキリ描き出している(あからさま?) なんでも北インドのウッタル・プラデーシュ州には、この「ヴリンダーヴァナ」由来となるヴリンダーヴァンと言う地名があるそうな? テルグのスーパースター Jr.NTR(*2)主演の大ヒット テルグ語(*3)映画大作にして、エンジニアから助監督に転身したヴァミシ・パイディパリーの2作目の監督作。 大ヒットにのって、ヒンディー語(*4)吹替版「The Super Khiladi」も公開され、2012年にはバングラデシュ映画(*5)でリメイク作「Buk Fatey To Mukh Foteyna」が、2013年にはベンガル語(*6)映画リメイク「Khoka 420」、カンナダ語(*7)映画リメイク「Brindavana」も作られたそうな。日本では、2023年にindoeigajapan主催の自主上映で英語字幕版が上映。2024年に一般公開。同年のテルグ映画の祭典「テルコレ2024冬」、鹿児島のガーデンズシネマ「秋のインド映画特集」でも上映されている。 いつも通りの、無敵なJr.NTRが縦横無尽に活躍するラブコメアクションファミリー映画ながら、クリシュナ神話を踏襲した構成、2つの家族の和解から恋の駆け引き、鬼顔の親父キャラ総動員なバラエティ豊かな傑作になっている。登場人物が多い大家族劇なのと、神話を踏襲したローカル色強めなお話が、日本人には微妙にとっつきにくいかも…しれないけど。 話は、主要人物クリシュ&ブーミー&インドゥの状況説明の序盤から、ブリンダーヴァナム屋敷での家族の再生を描く前半〜中盤。クリシュナ神話色がより濃厚になる後半のラブコメ&アクションになだれ込んで、「そう来るか!」と言う投げっぱなしラストが実に爽快。男視点で見ると、けしからんくらいクリシュが羨ましくもカッコカワイイわけですが、女性視点だとどう映るのだろう…? モテモテの牧夫神にして英雄神のクリシュナ(*8)を体現する主人公クリシュの無敵っぷりや、脇役俳優たちのいつも通りの役柄を見てれば、この映画は物語を楽しむ以上にそれぞれのシチュエーションでの各役者たちの反応の仕方や議論の仕方、それぞれの武器となる能力の見せあい合戦を楽しんで行けばいいのもよくわかる構成(*9)。 そこに、クリシュナ神話の逸話が程よくアレンジして入って来くるのもご愛嬌。沐浴中の牛飼い女たちの衣服を奪って彼女たちをからかいながら魅了してしまうクリシュナ神に対し、劇中では屋敷に居候しているチッティに先輩面されて持って来た服を奪われながら、翌朝一計を案じて彼から服を取り戻してチッティを服従させるクリシュ…と言う対比が笑える。 当初のテーマとなる家族の再生だけで終わるかと思った映画は、新たに始まる後半のブーミーとインドゥを巡っての三角関係に発展するも、シリアスにとらえればドロドロ劇に発展しかねない所を軽めのラブコメにして、感動的な家族劇につなげる所がニクい。クリシュナ神をめぐる人妻ラーダーとゴーピー(牛飼い女)たちの神話の踏襲しつつ、クリシュの問題をお屋敷の問題の原因となったドゥルガープラサードの過去と対比させながら、親子3代の関係性の変化を描き出す所はウマい。「それはありなのか!」ってラストが豪快と言うか爽快と言うか。 それぞれの親子間(とくに父子)関係の描き方がこの映画の人気を後押ししてる秘訣…なのかね?(*10) この頃やせてきたJr. NTRもそれはそれでカッコええ&コミカルだし、「マッキー(Eega)」の頃より丸顔っぽいサマンサ(本作公開年が、映画デビューの年!)の活躍も激カワイイ。いつも通りなカージャルとのキャラ的な対比はイイ感じではあるけども、結局映画的に、彼女らはどんな人物でその行動基準としてなにを考えてんのやろ…とか考え出すとあーもう。あーーーもぅ! 挿入歌 Chinnadho(青年をこちらに [老人はあちらに。オレと踊れば、鼓動は高まるだろ?])
受賞歴
「Brindavanam」を一言で斬る! ・車よりも速く、メチャクチャ頑丈で、成人男性を片手で持ち上げて、忍者のごとく無音で人をぶっ倒すJr.NTR。あんたは忍者か大魔神かエイトマンか!?
2014.7.4. |
*1 クリシュナ神の肌の色でもある。 *2 本名ナンダムリ・タラーカ・ラーマ・ラオ。 同名の映画スターの祖父と区別するため、慣例的に名前の前か後にジュニアをつける。 *3 南インド アーンドラ・プラデーシュ州と、最近アーンドラから独立したテランガーナ州の公用語。 その娯楽映画界はテルグ+ハリウッドで、俗称トリウッドと呼ばれる。 *4 インドの連邦公用語で、主に北インド圏の言語。 その娯楽映画界を、製作拠点のボンベイ(現ムンバイ)+ハリウッドで、俗にボリウッドと言う。 *5 製作拠点ダッカ+ハリウッドの造語で俗称ダリウッド。言語的には国語となるベンガル語を使用。 *6 東北インドの西ベンガル州とトリプラ州の公用語(+バングラデシュの国語)。 その娯楽映画界は、製作拠点トリーガンジ+ハリウッドで俗にトリウッドと呼ばれる。この俗称は、世界中のハリウッド系俗称の先駆けとなる1932年から呼ばれ始めた呼称で、テルグ語娯楽映画を指すトリウッドとは由来が別。 *7 南インド カルナータカ州の公用語。 その娯楽映画界は、同州の特産品の白壇とかけてサンダルウッドと呼ばれる。 *8 別名"牛飼いの主"=ゴーヴィンダ。 *9 インドのスター映画の常道通り、説教が長いのがちょっとアレですが。 *10 楽屋オチ的な実際の親子…と言うか爺孫…競演もあるしぃw |