インド映画夜話

デリーに行こう (Chalo Dilli) 2011年 120分
主演 ラーラ・ダッタ(製作も兼任) & ヴィナイ・パタック
監督 シャシャーント・シャー
"たいした事じゃない。心配するな。俺に任せておけばデリーなんざスグだゼ!"







 国際的な投資銀行のムンバイ支社頭取ミヒカー・バナルジーはその日、仕事を終えてからデリーで夫ヴィクラムの誕生日パーティーに出席して、すぐにL.A.へ出発するはずだった。

 しかし空港ヘ向かう途中、目の前で荷物をぶちまけた男のせいで大渋滞に巻きこまれて飛行機を逃し、その男と乗り込んだ次のフライトは男の機内中に響くおしゃべりばかり。彼の声をイヤホンで塞いで熟睡していたら、何故か飛行機はいつの間にやらデリーではなくジャイプルへ着陸している!
 しかたなくタクシーでデリーを目指そうとするも、寝不足の運転手はノロノロ&危険運転。たまりかねたミヒカーと運転手との喧嘩に割って入った男こそ誰あろう、ムンバイからミヒカーを邪魔し続けたあの男、デリーの下町で布屋をやっているマンヌー・グプターだった!

 調子のいいマンヌーが運転を代わった事でようやくデリーへ向けて進みだしたはずが、気づけばタクシーは真逆のラジャスターン州アジメールの荒野へ。しかもいきなりタクシーは故障し立ち往生。長距離トラックに連れられて入った屋外食堂で一休みしてみれば、荷物をとりにいったはずのマンヌーは自分の荷物だけ持って来て、彼女のスーツケースは行方不明…。
「いい加減にして! 貴方のせいで私の計画メチャクチャじゃないの! どうしてくれるのよ!!」
「問題ありまへんマダム。なんも大ごとやない。心配せんでワイに任せとけ!」
 …まだまだデリーは遠く、遥か地平線の彼方。


挿入歌 Chalo Dilli (デリーへ行こう)

*老若男女、インド各地域のさまざまな人々が一堂に会する列車の旅。宗教、民族、階級、社会的地位、出身地域を飲み込むインドの縮図を描いたシーン(…でもあるんじゃないだろうかどうだろうか)。

 2010年公開のハリウッド映画「デュー・デート〜出産まであと5日!史上最悪のアメリカ横断〜」の翻案もの。
 製作プロダクションは、ビッグ・ダディ・プロ(*1)とエロス・インターナショナル・メディアとの共同。ラーラ夫婦による初のプロデュース作品だそうな。

 ラーラ自身のプロデュース映画と言う事で、なんでも好きにできる舞台を用意しておきながら、インド庶民の暮らしを嫌悪する潔癖性のキャリアウーマンなんて役を演じてくれるラーラさんが、ただもうカッコええ! 徐々にミヒカーが、インドの土俗的な風土を受け入れて行く様も可笑しく楽しく美しい。いままでの器用貧乏的なイメージを逆手に取ったかのような多彩な感情の起伏は、なかなかサマになっておりました。
 畳み掛けるように次々と語りかける瞬間話芸おせっかい親父マンヌーを演じるのは、喜劇俳優としても大活躍中のヴィナイ・パタック。どっかで見た事あるような…と思って調べてみたら「Rab Ne Bana Di Jodi」で、シャールクの親友の散髪屋の親父やってた人やないけ。映画本編の魅力の半分以上は、この2人の掛け合い漫才のような台詞の応酬で出来上がってる感じで、ボケとツッコミ具合が楽しすぎる。

 ムンバイ、ラジャスターン各地、デリーで出会う人々の生活習俗の多彩さも本作の魅力の1つ。登場人物たちの衣裳風俗から食生活から言語や方言の習慣など、細かい生活描写がしっかりきっちり描かれているのも高ポイント。こちらとしては、ミヒカーと同じく異邦人的な目線でインド旅行してる気分に浸れる旅情映画にもなっている。
 インド旅行経験者が、この映画見ると「そうそう、インド人ってこんな感じ!」と言い出す所が恐ろしいやら面白いやらでもう。こんなトラブルメーカーとの旅行なんて、なんて楽しそう!(それは違う)

 日本では2012年のIFFJ(インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン)にて「チャロ・ディリ:デリーに行こう」のタイトルで上映。個人的には、IFFJの上映作の中で一番見たかった作品。
 IFFJの開会式で予告編紹介された時、「"チャロ・デリー"って、戦時中にチャンドラ・ボースが広めた独立運動のスローガンですけど、今もインドではそう意識される言葉なんですか?」と司会から客席に問いかけられると、「デリーに住んでて、そのスローガンは知ってたけど別に気にならない」人と「もちろんボースの事をすぐ思い出すし、インド独立運動を想起させる重要な言葉だよ!」と強弁した人に別れたのはおもろかった。うん。
 そしてそして! IFFJでの反響が大きかった事から、ついに2014年に日本でも一般公開!

 オチが結構強烈ながら、コメディ映画としても人情映画としても旅情映画としても楽しめる一作。
 まぁ惜しむらくは、最初の畳み掛けるようにミヒカーに襲いかけるトラブルの連続が、ダーバー(屋外食堂)に入ったあたりからゆるいテンポになって、1つ1つの舞台でのエピソードの緩急がなくなって同じ比重で描かれてしまう事か。そのあたりでテンポが崩れて見えてしまうのは、全てのエピソードを重視しすぎたからか、それぞれの人物描写を丁寧に描きすぎたからか…。ま、そのテンポこそ、ミヒカーがインドを受け入れていくスピードだって事なんだろうけども。

 最近、油ものを受け付けにくくなって来た私も、ナンをナプキンで拭いてから食べてみよっかなっと!(確実にインド人に嫌われまする。うん)


挿入歌 Matargashtiya ([一日中] 彼は楽しんでいた)





2013.4.11.
2014.2.1.追記

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*1 ラーラの夫のテニス選手マヘーシュ・ブーパティ設立の会社。