C.I.D. 1956年 146分
主演 デーヴ・アーナンド & シャキーラ & ワヒーダー・ラフマーン
監督 ラージ・コースラー
"…これは警告。貴方は拒否できないわ"
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「いいか? ボスはヤツをすぐによこせと言っている。もしヤツが金を受け取らないと言うのなら、他の方法で手に入れろ。いいな…」
その夜、C.I.D.(刑事捜査課)のシェーカル警部にボンベイ・タイムズ編集者スリヴァスタヴから電話が入る。「何者かに命を狙われている。助けてくれ…」
要請を受けてシェーカルが編集部に到着した時には、すでにスリヴァスタヴは致命傷を受け虫の息! 救助を部下に任せ現場から立ち去る犯人を追って、その場に居合わせた女性レーカーの車に乗り込んで追跡するシェーカルだったが、危険なことに巻き込まれたくないと言うレーカーは無理やり車を止めさせてしまい、犯人はまんまと逃走してしまう。
その後、唯一の目撃者であるコソ泥"マスター"から犯人の容姿を聞き出し逮捕に成功するシェーカルだったが、密かにこの犯人を買い取ろうと交渉する謎の女性が現れる。その依頼を断るシェーカルだったが、警察署長の娘であるレーカーの誕生日の日に彼女の家を訪れたその時、その謎の女性…カミニがやって来ていた…!!
挿入歌 Leke Pahela Pahela Pyar (初恋の魅惑によって [甘い夢が眼を満たす])
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タイトルは、"Crime Investigation Department(犯罪捜査課)"の略で、英領インド時代から続くインド警察内にある刑事課機関の事。
すでにテルグ語&タミル語映画界でダンサー兼女優デビューしていたワヒーダー・ラフマーン(カミニ役)の、ボリウッド映画デビュー作でもある、50年代のヒンディー語(*1)クライムスリラー映画の傑作。製作はグル・ダット・フィルムズ、プロデューサーにグル・ダット自身がついた作品でもある(*2)。
1990年の同名ヒンディー語映画、98年から続く同名ヒンディー語TVドラマとは無関係…のよう。
ボンベイの裏社会の暗躍によって起こった殺人事件捜査を行う刑事の活躍、恋愛模様、謎また謎の交錯…と、ダーティーな世界観で描かれつつも、基本は古き良き上品な白黒映画サスペンスで、絵面的にはそこまで刺激的な画面はないものの、劇構成のウマさか出演者たちの所作の綺麗さか、上品な雰囲気に支配されたヒッチコック的な映画(*3)。
白黒画面の作るハッキリした陰影が、画面効果を倍増させる手法で全編に渡って行きとどいていて、見やすいとともに映像的サスペンス度を跳ね上げている魅力に繋がっている、プロフェッショナルな仕事ぶりが見事。
冒頭の殺人事件の衝撃に続いて、前半は恋愛劇やコメディ劇が中心、中盤からワヒーダー演じる謎の女カミニの登場によるサスペンスへと移行し、主人公が裁判にかけられる後半から主人公の危機が増幅して怒涛のラストへと軽快につながる展開もエキサイティング。小粋なセリフの美しさや、カットの流れのリズミカルさとかも、今見ても丁寧かつ"面白さ"への追求具合が小気味好い。
監督を務めたラージ・コースラーは、1925年英領インドのパンジャーブ州ルディヤーナー生まれ。兄弟に、監督兼プロデューサーのボール・コースラー、レクラージ・コースラーがいる。
幼い頃から伝統歌謡を身につけて、歌手になろうとボンベイへ上京。オール・インディア・レディオの音楽スタッフとして働き始めたところをデーヴ・アーナンドを通じてグル・ダットに引き合わされ、彼の初監督作「賭け」の助監督に参加して映画デビュー。その後もグル・ダットのもとで働きながら、プレイバックシンガー(=吹替歌手)を志望していたものの、54年のデーヴ・アーナンド&ギーター・バーリー主演作「Milap」で監督&脚本デビューする。
初監督作は、数々の名曲を生み出しながらも興行的には振るわなかったものの、2本目の監督作となる本作で一躍ヒットメーカー監督に躍り出て、以降数々の大ヒット映画を生み出して行く。72年に「Do Chor(盗賊2人)」でプロデューサーデビュー。78年には監督&プロデュース作「Main Tulsi Tere Aangan Ki」でフィルムフェア作品賞を獲得する。しかし、80年の「Dostana(友情)」の大ヒットを最後にヒット作を生み出せなくなり酒浸りの生活となった後、91年に66歳で物故されている。
彼の死後、娘たちによって"ザ・ラージ・コースラー財団"が設立されているそう。
前半のヒロイン レーカーを演じたのは、1935年生まれの女優シャキーラ(*4)。
アフガニスタンとイランの王族家系の生まれで、後継者争いによって父方の祖父母と母親を殺されたのち、父親によって妹たちとともにボンベイに連れてこられるもその父親も殺されてしまって叔母に育てられたそう。この叔母の影響で映画に興味を持ち、49年の「Duniya」から子役として映画に出演し、芸名シャキーラとして活躍し始める。53年の「Shahenshah」あたりから主演女優に昇格。グル・ダットに見出されて、翌54年の「Aar Paar(これかあれか)」にダンサー出演し大きな話題を呼んでその活躍の幅を広げる(この映画には、妹ノールも出演している)。
2度の結婚ののち海外移住することとなり、63年公開作「Kahin Pyaar Na Ho Jaaye」「Mulzim」「Shaheed Bhagat Singh」「Ustadon Ke Ustad」の4本を最後に女優引退。その後、91年に娘ミーナーズの自殺にショックを受けてインドに帰国する事になるも、映画界復帰やメディア関係への出演を全て拒否していたと言う。
17年にムンバイにて心臓発作で物故されている。享年82歳。
にしても、軽快な劇進行の中で全てを持ってってしまってるのはなんと言ってもワヒーダー・ラフマーンの美しさでありミステリアスさ、その堂々としたオーラで、ほかのキャストを圧倒するほどの存在感。さすが後の大女優ですわ。役柄的にもその悲劇性と相まって美味しい立ち位置だったってのもあるけど、前半ヒロイン レーカー演じるシャキーラが霞むほどなのが素晴らしいのか、シャキーラが可哀想なのか…。
色々な人物の思惑が絡み合って事態の混乱が巻き起こる劇中事件は、今から見ると結構おおらかな感じではあるけれど、最近のボリウッドにある性悪説的な描写もそんなになく、かつ善悪はハッキリしていてハリウッド的な空気もあるスタイリッシュさが、見やすく上品な映画にさせている。一周回って新鮮なインド映画って感じで見るのがちょうどいい…かもしれない一本。
挿入歌 Kahin Pe Nigahen Kahin Pe Nishana (的を狙った貴方の矢は、でも別なものに突き刺さるのよ)
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*ワヒーダー・ラフマーン演じる後半のヒロイン カミニの、シェーカルを匿う時間を稼ごうとする必死のダンスパフォーマンス!
「C.I.D.」を一言で斬る!
・この時代のボンベイは、ちゃんとバスが停留所に止まるのね!(いやほら、よく徐行のまま客乗せてる描写が映画に散見されるからさあ…)
2018.8.10.
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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 これは、グル・ダット初監督作「賭け(Baazi)」の製作をデーヴ・アーナンドが持ちかけたことへの返礼として、いつかデーヴ主演作のプロデュースをするとグル・ダットが約束していたことから実現したとか。
*3 まあ、謎解きが謎解きになってんのかと言われれば、ねえ…って感じではあるけれど。
*4 生誕名バドシャー・ベーガム。"ベーガム"は、中央〜南アジアのイスラム社会における、王家や貴族の女性につけられる称号。
*5 結婚時のダウリー始め結納品の有無とか。
*6 屋内で靴を脱ぐのか脱がないのか等。
*7 多少メルヘン的なニュアンスも匂う?