ラジニカーント☆チャンドラムキ 踊る!アメリカ帰りのゴーストバスター (Chandramukhi) 2005年 167分 その日、米国在住のインド人精神科医サラヴァナンは、休暇をとってインドに帰ってきた。 彼は、義理の兄弟センディルナータン(通称センディル)が、妻ガンガを連れて帰郷する手伝いに来たのだが、義母カストゥリは浮かない顔。聞けば彼女は、センディルに長年分裂してしまっている夫側の親類の娘プリヤーと結婚してもらい、一族の遺恨を晴らしてほしかったと言う。カストゥリは、かつて夫が従姉アキランデシュワーミーを拒否して自分を選んだことが、一族の怨恨として残り続けている事をひどく悲しんでいたのである。 しかし、センディルはガンガと結婚した上で、新居として当の親類一家が管理していると言うヴェッタイヤプラム屋敷に住みたいと言うのだ…。 センディルの伯父カンダスワーミーは、150年前の悲劇から長年幽霊屋敷と噂されるヴェッタイヤプラムを買い付けたセンディルを待っていた。そこに先にやって来たサラヴァナンは、「あの屋敷に入るのはやめろ」と言う一族を前にして、まず噂の幽霊屋敷の正体をつかもうと屋敷に乗り込み調査を開始する…。 挿入歌 Devuda Devuda (神よ、神様よ) 原題は、映画の主な舞台となる幽霊屋敷に住む幽霊の名前で、タミル語(*1)で「月の顔ような美人」を意味する。 1993年のマラヤーラム語(*2)映画「Manichitrathazhu(装飾錠前)」、そのカンナダ語(*3)リメイク作にあたる2004年の「Apthamitra(閉ざされた友人)」2作の、タミル語映画版リメイクとなる(*4)。 また、本作は同名タイトルでテルグ語吹替版とヒンディー語吹替版が、「Chandramukhi Ke Hunkaar」のタイトルでポージュプリー語(*5)吹替版が、タミル語映画では初のドイツ語吹替版「Der Geisterja¨ger(ゴーストハンター)」、さらにはトルコ語吹替版も公開。 日本では、2005年の東京国際映画祭にて初上映され、翌2006年に「ラジニカーント☆チャンドラムキ 踊る!アメリカ帰りのゴーストバスター」のタイトルで一般公開。映画祭上映時と一般公開時で日本語字幕による物語展開が大幅に変更されたと言う奇妙な経緯を持つ映画でもある。 オリジナルの「Manichitrathazhu(装飾錠前)」が、サイコサスペンス的なゴシックホラーなのに対して、やはりラジニ映画であるからか、しょっぱなからのラジニ登場シーンによくわからんほどのスーパーパワーを見せつける圧倒的エンタメ度が圧巻。 オリジナルにはなかったアクション要素、家族間の相剋、ロマンス展開と、ただのホラーだのコメディだののシンプルなジャンル映画にはしねーよって姿勢が歯切れよい。米国帰りの精神科医だからと、人の心の声を読む特殊能力があっさり許されてしまうラジニのスーパースター性のおおらかさよ。アメリカの精神治療ってどんな技術研究シテンノーーーー!! 99年の「パダヤッパ(Padayappa)」、02年の「バーバー(Baba)」と、90年代末から主演作が2〜3年空いて公開されているラジニカーントの貴重な活躍を祝うかのように、祝祭的にぎやかさに彩られるファーストアクションとミュージカルのパワーはスゴい。ただ若干身体が重いように見えてしまう所に、前作から3年と言う映画スター ラジニの空白期間を感じてしまうか。けれでも、以前のメチャクチャなハイパワーを見せつけるヒーローとは毛色の違う、清濁併せ持つ探偵役であり物語の進行役となった本作の役柄は、自身の新境地を開拓しているかのよう。物語が後半に行くほど、色々面白い役柄になって行くサラヴァナンの役としての楽しさですわ。 監督を務めたP・ヴァース(生誕名ヴァースデーヴァン・ペータンバラム)は、1954年ケーララ州に生まれた映画監督兼脚本家兼プロデューサー兼役者。 父親は、往年のタミルスターM.G.R.やテルグスターN.T.R.のメイクアップを担当してた人で、自身もメイクアップ・アーティストとして働き、タミル語映画界のメイクアップ組合理事長を務めたほど。 81年のタミル語映画「Panneer Pushpangal(匂い立つ花)」以降数作の映画にてサンタナ・バラティと共同監督を務め、83年のカンナダ語映画「Guri(照準)」で単独監督デビューして100日ロングランさせる。以降、脚本やプロデュース、役者などを務めながら、88年には「En Thangachi Padichava」でタミル語映画にも単独監督デビューして、主にタミル映画界で活躍中。本作は、共同監督から数えて50作目の監督作となる。 中盤以降から本格化する、幽霊チャンドラムキの恐怖はオリジナルの発展系ながら、より狂気度と言うか、背中がゾクッとする度が高い。顔が見えないカット、目だけに照明が当たるカットの不気味さがなんともスゴい迫力。オリジナル版の、ナショナル・アワード受賞で騒がれた幽霊ナーガヴァッリの伝説的演技力も凄まじいけれど、こちらはこちらで別の方向から幽霊の恐さが演出されており、負けてはおりません。物語の趣旨に結構な変更が加えられているが上の、それぞれの役者に求められる演技の方向性、その迫力を比べてみるのも一興。それは、あるいはケーララ人とタミル人の気質の違いに反映するものなのかとか、話を広げて良いやらどうなのやら。 挿入歌 Raa Raa (来て、私を探して) *オリジナルと同じく、超ネタバレにつき再生注意。 狂気の眼力がなんともスゴい…。
受賞歴
「チャンドラムキ」を一言で斬る! ・チャンドラムキの見る過去の幻影の、擬音台詞(インドの伝統音楽語?)の異様さとカッコ良さのギリギリ感が凄まじいラカラカラカラカラカラカラカ!!
2016.8.5. |
*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。 *2 南インド ケーララ州の公用語。 *3 南インド カルナータカ州の公用語。 *4 その後、さらに05年にベンガル語リメイク作「Rajmohol」、07年にはヒンディー語リメイク作「Bhool Bhulaiyaa(迷宮)」と続く。 *5 北インド ビハール州周辺域で使用される東部語群の1つ。 |