チャーリー (Charlie) 2015年 129分 大都市バンガロールに暮らしていたテッサは、姉(親戚?)の結婚式に出席するため実家に帰省していた。 しかし、自分の知らない所で見合い結婚の準備が進められていたと知って母親と口論になり、翌早朝にさっさと家出。ヒッチハイクの末、ジャーナリストの友人シャヒーナの紹介で、音楽の勉強がてら港町コーチンで、適当な部屋を借りるのだった。 だが、その部屋は前の住人の残した数々のがらくたの山が残ったまま。テッサは大家に怒り心頭ながら部屋の大掃除にとりかかることになる。 その大掃除中、テッサは前の住人自作と思われる絵本「最初の夜」を発見。 絵本はこの部屋自体を舞台に、大晦日の晩にそこに忍び込んで来たこそ泥Dソウザと、前の住人チャーリーとの出会い、チャーリーの無理矢理なDソウザとの意気投合と"仕事"への参加を描いていく。真夜中、とある家の屋根に辿り着いた二人は、そこから中の様子をうかがうも、慌てて逃げ出そうとするDソウザが目撃したものは……!! …絵本はそこで唐突に終わっていた。 続きが気になるテッサは、絵本の作者と言う前の住人チャーリーを探し出そうとするのだが…。 挿入歌 Pularikalo (夜明けか黄昏か [それともこれは刈り取られた金の粒?]) 自由を愛しながらも悩める主人公が、"自由"そのものの体現者であるまだ見ぬ幻影"チャーリー"を追いかけていく、すれ違いロマンス・ロードムービーな、マラヤーラム語(*1)映画の傑作。 日本では、現地公開すぐの2016年1月に埼玉県川口市のスキップシティにて英語字幕版が上映。その後、東京のキネカ大森での日本語字幕版が満員御礼で上映されて評判を呼び、同年10月に一般公開された。 家や世間のしがらみから逃げ出したテッサの視点で、映画は気だるい観光地のケーララ各地の人々のゆるやかな暮らし映しながら、そののんびりした解放感、南国的幻想性、その裏の人生の不条理や不可思議さを表現していく。 奇妙な物体に彩られるアパートの部屋、途中で途切れた絵本、そこから紡ぎ出される不可思議な人々の様々な人生、浮世離れなほど自由を謳歌し人々を翻弄する謎の人物チャーリー…。 テッサの実家から始まる物語は、コーチン各所、茶畑広がるムンナール、プーラム祭でごったがえすトリチュールへと移っていき、南国ケーララの魅力を映し出す観光ムービーのよう。そこで暮らす人々の清も濁も飲み込んだゆるやかさが、ケーララの生活文化の重層的な面を見せてくれて、美しく飽きることのない多様性、マラヤーラム語映画でしか出せない世界を魅せつける。 映画は、そうした背景の中を"チャーリー"を求めて彷徨うテッサのロードムービーで構成され、その画面構成、音楽、回想シーンのつなぎ、シークエンスの緩急も自由奔放に、あっけらかんと、感覚的に作り上げていく。それは、あたかも世間から乖離した自由の中で生きるチャーリーのように…? そのチャーリーに出会って価値観を変えられていく人々の翻弄具合がいろんな手法で表現されつつ、深刻すぎることもなく、かといって野放図すぎることもない。物語的どんでん返しもちゃんと機能させて、脚本、演出、その他映画技法をきっちり組み合わせていくプロフェッショナルな仕事の軽妙なこと。その小粋な映画力、素晴らしいの一言。 主人公テッサを演じるのは、ケーララ州コーリコード(*2)の弁護士の家に生まれたパールワティ(・ティルワート・コットゥワタ。ティルワート以下は母親の名字)。 学生時代に英文学を専攻する傍ら、バラタナティアム(*3)を身につけ、大学卒業後は州都ティルヴァナンタプラムを拠点にTVの音楽番組司会として活躍する。 06年のマラヤーラム語映画「Out of Syllabus」で映画デビューし、翌07年にはカンナダ語映画「Milana(ランデブー)」でカンナダ語映画&主役デビュー。08年には「Poo(花)」でタミル語映画にもデビューし、フィルムフェア・サウスのタミル語映画主演女優賞を始め数々の映画賞を獲得。その後も、この3言語映画界で活躍している。 謎の男チャーリーを演じるのは、1986年ケーララ州コーチン生まれのドゥルカル・サルマーン。通称DQ。父親は、マラヤーラム語映画界の大スターとして知らぬ者のいない有名人マンムーティ。 米国留学してインディアナ州のパデュー大学でビジネスマネジメントの学位を取得し、卒業後はアメリカやドバイでビジネスマネージャーとして働いていた。その後、役者になる決意をしてムンバイのバリー・ジョン演技スタジオにて3ヶ月間修行。12年のマラヤーラム語映画「Second Show」で映画&主演デビューし、フィルムフェア・サウスと南インド国際映画賞の男優デビュー賞を受賞する。翌13年には、本作の監督でもあるマーティン・プラーカットの「ABCD: American-Born Confused Desi」に主演しつつ1曲だけプレイバックシンガーデビュー。14年には、タミル語映画「Vaayai Moodi Pesavum(口を閉じてしゃべって)」にも主演デビューする。その後も、マラヤーラム語映画界を中心に活躍中。 本作では、チャーリー役の他、エンディングテーマ「Chundari Penne」の歌も担当している。 冒頭のヒッピー風テッサの登場シーン、祖母に甘え母親とケンカするテッサのコロコロ変わる表情などで、テッサの魅力を存分に表現して彼女の存在感を見せつけつつ、アパートに残されたがらくたまがいのアートの残骸、ミステリアスな絵本、そこに描かれる奇抜でとらえどころのないチャーリー像が、突拍子もなければないほどテッサ以上に魅力的人物として伝わってくる演出の妙。どちらも美人な役者顔以上の魅力的エピソードや魅力的シーンの切り取り方の積み重ねが、そんな登場人物全員を不思議に身近に魅力的に、美しくこちらに伝えてくる映画的手法の巧妙さがスンバラし(*4)。 リゾート的のんびりとした舞台で繰り広げられる、それぞれの"さりげない魅力の積み重ね"、"さりげない物語展開の妙"、"さりげないミステリーとその解答"の数々。物語の作り方と言う意味では、その力の抜け方やこだわる所はこだわる力の入れ方、嫌みにならないギリギリの絶妙なバランス感覚は映画を学ぶ人には必見ポイント。 登場人物が、それぞれにすれ違いを起こしていく偶然の妙、近づいたと思うと遠ざかる人と人の関係性、偶然の出会いによって人生そのものが組み替えられていく人生の不思議。それがウソであろうと、不条理の支配する世の中にあってこんな出会いがあってもいいんじゃないか? とつい思えて来てしまう、人生の美しさを再確認する映画であると共に、映画そのものの美しさを再確認させてくれる映画でもある。 OP Akale (遠くから [遠く離れた所から、誰かの歌が聞こえる?])
受賞歴
「チャーリー」を一言で斬る! ・それにしても、インド映画で描かれる手品は、毎度タネのない魔法そのものですな(イイゾモットヤレ!)
2016.10.7. |
*1 南インド ケーララ州の公用語。その娯楽映画界を、マラヤーラム+ハリウッドで俗にモリウッドと言う。 *2 旧カリカット。 *3 タミル地方発祥の古典舞踊。 *4 こそ泥Dソウザの方が、探してる人でなくて良かったねって感じではあるけどもw *5 結婚時のダウリー始め結納品の有無とか。 *6 屋内で靴を脱ぐのか脱がないのか等。 *7 多少メルヘン的なニュアンスも匂う? |