DDLJ 勇者は花嫁を奪う(Dilwale Dulhania Le Jayenge) 1995年 189分 チャンダリー・パルデーヴ・シンが一家でパンジャーブからロンドンに移住して22年。その時赤ん坊だった長女シムラン(通称 シミー)も、はや大学生になっていた。 日増しに募る郷愁に苦しめられるパルデーヴは、故郷の親友からの久々の手紙に驚喜する。そこには、昔約束していたお互いの子供たちの婚約実行の申し出が書いてあった。まだ見ぬ運命の人との出会いに憧れていたシムランはこれにショックを受けるが、故国への憧憬に狂わんばかりの父の願いを無碍にもできず、婚約を承諾してしまう。 悩んだ末に彼女は、見合い結婚までの間、踏ん切りをつけるために友達と卒業旅行の名目で1ヶ月のヨーロッパ旅行に出ることを両親に承諾させる。 同じ頃、ロンドン育ちのインド系落ちこぼれ大学生ラージ・マルホートラもまた、友達との卒業旅行のためにシムランたちと同じヨーロッパ周遊の旅に出発していた。 ロンドン駅でシムランと出会ったラージは彼女や友達たちにちょっかいをかけ、そのせいでシムランはスイス山中で友達とはぐれてしまう。責任を感じたラージは、彼女を友達たちと合流させようと申し出、2人だけの珍道中が始まるのだった。その間に2人の距離は急速に縮まり、知らず知らずに恋に落ちていくが、それに気づいた時は旅も終わり、ロンドン駅で別れた後…。 ラージへの思いに取り憑かれるシムランは、何度も彼の幻影を見、彼の弾くマンドリン曲を耳にする。彼女は母親に自分の正直な気持ちを打ち明けるが、それを聞きつけた父パルデーヴは激怒し、すぐに婚約式を行なうために一家でインドに帰郷してしまう!! 挿入歌 Mehndi Laga Ke Rakhna (君の手をヘンナで染めて [新婦用駕篭を飾っておいて]) 原題の意味は「勇者は花嫁を連れて行く」。この"勇者"が、なにをもって勇者なのかがキーポイント。通称「DDLJ」。 ヤシュラジュ・フィルムズの立役者アディティヤ・チョープラーの初監督作(当時若干23歳!)にして、ギネス級ロングランを更新し続けるインド映画史上に残る大傑作ラブロマンス映画(*1)。 公開から現在まで、ムンバイの映画館「Maratha Mandir Cinema」で途切れず公開され続けており、2011年で800週連続公開の記録を打ち立ててなお、ロングランが今も続いていると言うから驚き。 日本では、1998年に東京国際ファンタスティック映画祭にて「花嫁は僕の胸に」のタイトルで初上映され、主演女優カージョルの初来日を果たしたことで話題に。ボリウッドファン以外にも傑作と評判になり、特に女性ボリウッドファン急増のきっかけを作った作品。 その後、一般公開されたものの、その時のタイトルが「シャー・ルク・カーンのDDLJラブゲット大作戦〜花嫁は僕の胸に」と言うチープ感漂うものに変更されたためにファンから大ブーイングを受け、さらにはこのタイトルからか興行もふるわず「インド映画はやっぱりB級」のイメージが固定化されてしまった……と言うあまりにもな逸話のある作品。中身を見た人からは大絶賛される映画なんですけどねぇ…。 そしてそして! ついに2015年の大阪民博インド映画特集にて、新字幕による「DDLJ 勇者は花嫁を奪う」のタイトルで上映決定! さすがに今見ると隔世の感があるかもしれないけど、それはつまりボリウッドそのものが「DDLJ」を消化して、その遺伝子を継承し続けているから…と言うことになるのかも? これ以後のボリウッドに、「DDLJ」のパロディやオマージュ的なサービスシーンがしょっちゅうに入って来ることからも、その影響力の広がりは推して知るべし。うん。 お話は、前半はラージとシムランのドタバタラブコメ。後半は、様々な障害を乗り越えて展開する結婚式舞台裏のロマンス劇。 この映画が、ここまで長く愛される要因のひとつは、きめ細かく自然で、かつ非常に映像的に描かれる心情描写かもしれない。 さらには前半に展開される若い男女のぶつかり合いは、映画後半ではノスタルジーとともに効果的な伏線として機能していく。前半の流れがあるがために、後半の古式ゆかしいパンジャーブの伝統的婚約式の中で渦巻くさまざまな登場人物たちの思いの連鎖が、見る側にダイレクトに伝わってくるようになっている。ヨーロッパ絵画を意識したような、ミュージカルシーン「Tujhe Dekha To (貴方に会う時 [狂えるほどの愛を感じてしまう])」前後の画面構成も秀逸。 もう1つ重要な要素は、映画全体に漂う"郷愁の思い"。 故郷を捨ててしまったと自分を責めるパルデーヴの懐かしき故郷への思い。親から子への若さあふれる時代を振り返る愁い。恋人二人の貴重な出会いの思い出。別れた後や再会した時に燃え上がる、2人だけの幸せな時間の記憶を振り返る寂しさと幸福感。 過ぎてしまった時間を懐かしく、時につらい記憶とともに浸る感覚を主要登場人物に仕掛け、インドの伝統的結婚式を舞台に各登場人物が自分の人生を振り返る場面を違和感なく入れ込んであることが、老若男女多くの人々に共感を呼び起こすよう機能しているのかもしれない。 主役のシャールク&カージョルのゴールデンコンビは、DDLJ以前からとは言え絶好調。ま、今見ると2人とも若いなぁ…(シャールク30歳、カージョル21歳ですよ!)、カージョルの髪長過ぎ&固そうだなぁ…とか思わんでもないですが。 ラージとシムランにとって最大の障壁となるパルデーヴを演じるのは、悪役俳優として不動の地位を築くアムリーシュ・プリ。パルデーヴ役をきっかけに、演技の幅を広げ、強く優しい父親役を演じることがが多くなって行ったとか。なんでも、映画製作にあたりアディティヤ監督自身がパルデーヴ役を演じてくれるよう熱心に頼み込みに行って脚本を片手に熱弁を振るったそうで。 前半でシャールクの友達役の一人として、かのカラン・ジョーハルも出演している。この後3年を経て「Kuch Kuch Hota Hai」で監督デビューし一躍ボリウッドのヒットメーカーの地位を築いた人物。「Om Shanti Om」などでは衣裳デザイナーとして、「Dostana」「Kal Ho Naa Ho」等ではプロデューサーとして活躍している。 さらに、本作で一部の振付を担当したファラー・カーンも、DDLJの大ヒットに乗ってボリウッドを代表する振付師となり、「Om Shanti Om」などの監督としても大活躍していくのはご存知の通り。もともとは人気振付師サロージ・カーンが担当していたのが、いきなり仕事をドタキャンしたことで急遽声がかけられた…と言うのがなんとも運命的。 本作のタイトルネーミングには、当時女優業を一時引退していたキーロン・ケールの名前が。ラージの父親役で出演した夫のアヌパム・ケールともども、ヤーシュ・チョープラーの友人として家族同然の付き合いだったとかなんとか。これがきっかけなのかどうなのか、このすぐあとに女優業を再開している(代表作「Devdas」「Veer-Zaara」など)。 ちなみに、プロデューサーの名前にはアディティヤ監督の父ヤーシュ・チョープラー、アシスタントプロデューサーには弟のウダイの名前も(後に役者デビュー。代表作は「Dhoom」シリーズなど)。 さまざまな新しい才能が開花した本作をきっかけに、それまで家族経営でしかなかったヤシュラジュ・フィルムズは、アディティヤ・チョープラー自身の経営手腕もあって瞬く間にボリウッド最大の映画会社ヘと成長して行くことになる。まさに、ボリウッドの歴史を変えた一作として、今後も伝説的な人気作となり続けて行くだろう大傑作映画なのですよ! 挿入歌 Ho Gaya Hai Tujhko (貴方は、我が愛) *「結婚式には来てくれるよね?」「いや…君とはここでお別れだよ」と、旅の終焉地で別れていく二人は、自分の思いとは相反する幻想に悩まされる…。 CGなんて特殊技術や派手な群舞を使わずとも、人間の感情はここまで可視化することができるのだ!(この、客観的現実の中に変幻自在に入ってくる主観的映像を許容できるか否かが、イン度力を覚醒できるかどうかの境目。燃えろオレの小宇宙!)
受賞歴
2012.1.7. |
*1 実際、世界最長ロングラン映画記録としてギネス登録されている!! |