インド映画夜話

神さまがくれた娘 (Deiva Thirumagal) 2011年 155分
主演 ヴィクラム & ベイビー サラ & アヌーシュカ・シェッティ
監督/脚本/原案 A・L・ヴィジャイ
"ニラー、僕たちは、いつもいっしょ。いつまでも、いっしょ…"



むんむん様の企画した上映会にて、朝日テレビ放送版を鑑賞してきました!
以下、記憶に基づいての感想文になりまっす(いつものことだけども)。




 タミル・ナードゥ州チェンナイで小さな弁護士事務所を経営する女性弁護士アヌラーダ・ラグナシャン(通称 アヌー)はその日、困惑していた。
 助手ヴィノードが捕まえて来た久しぶりのお客、クリシュナは知的障害者。話は噛み合わないわお金はなさそうだわでさっさと追い出そうとしたのだが、クリシュナは彼女との適当な約束を律儀に守り、終始「ニラーがいない…ニラーを探す」と彼女たちを追い回す。
 アヌーの努力で連絡がついたクリシュナの身元引受け人ヴィクターは、クリシュナの変わりように驚きながらも、彼女たちにこれまでの経緯を説明し始める…。

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 山間のウーティー郊外の村に住むクリシュナは、同じような発達障害者たちを雇用するヴィクターのチョコレート工場で働いていた。5歳児程度の知能ながら、人当たりの良さと正確な作業、約束を必ず守る彼は村の人気者。友達にも恵まれて幸せな日々を送っていたが、彼の子供が産まれた時、妻バーヌマティ(通称 バーヌ)が天に召されてしまう…。
 呆然となりながらも残された赤ん坊ニラー(=月の意)を育てようと孤軍奮闘するクリシュナは、周りの協力もあって再び幸せな日々を愛娘と送っていたのだが…!


挿入歌 Aariro

*「木はなんで高いの?」「…あー…父さんの木だから、だよ」
「カラスはなんで黒いの?」「…お日様で、焼けちゃったんだよ。カアカア!」
「象はなんで大きいの?」「…たくさん、食べるからだよ」
「お母さんはどこにいるの?」「…神様の、所だよ。神様は、善き人を、呼ぶんだ。ヴィクターが言ってた」
「私たちは呼ばれないの?」「…まだだよ。まだ」



 2001年のアメリカ映画「アイ・アム・サム」を翻案したコリウッド作品(=タミル語映画)。テルグ語(南インド アーンドラ・プラデーシュ州の公用語)にも吹替えられて「Nanna (パパ)」のタイトルで同時公開された。
 美しくハートフルな物語と撮影、G・V・プラカーシュ・クマールによる心を打つ音楽の数々、細部にまで行き届いた演出、そしてなによりも主演を務めるヴィクラムとサラの卓越した演技力によって、本当に素晴らしい映画としての完成度を誇っている。
 日本では2012年に大阪アジアン映画祭にて「God's Own Child / 神様がくれた娘」のタイトルで上映され、見事グランプリとABC賞をダブル受賞。その後、大阪圏では朝日放送網で放送された。
 そしてついに、2014年2月に日本でも一般公開!

 とにかく私は、子供ネタの映画には弱いなぁ…すぐ泣いちゃうなぁ…と思ってたけど、この映画見てわかった。ただ子供ネタに泣いてたんじゃなくて、言葉ではない(または言葉だけではない)表現力で大人と対抗しようとする子供の強さに泣いてしまうんや。大人から見た勝手な子供像ではなく、子供本来の前向きな生命力にもらい泣きするねん。ホンマやねん。

 ヴィクラムと言えば、現在のタミル映画界を支えるトップスターの一人。アクションヒーローやダーティーヒーローなどを演じる事も多い人だけども(Raavanの時は強面だったネ!)、本作では全くの別人のような迫力の演技を見せてくれる。クリシュナを演じるために、監督と一緒に障害者施設を渡り歩いて取材したと言うけれど、それだけではない全くの別人のようなヴィクラムの、役者魂が垣間見える迫真の演技ですわ(心理学者の奥さんの協力もあったそうだけども)。

 ニラー役で一躍有名人となったサラは、ムンバイ出身の子役兼モデル(撮影当時5才。映画には初主演)。最近、インド映画全体として子役のレベルが上がった…と言うか多様な子役・多様な子供像が登場するようになったなぁ…と思ってたけども、彼女はその中でも本当に凄まじい役者。
 ある意味でクリシュナよりも大事で難しい役をきっちり演じてるし、表情豊かだし、台詞も完璧。彼女の母語はヒンディー語なので、タミル語はこの映画のために1から特訓したと言うからトンデモね(*1)。インタビューとか見ると英語も完璧。撮影中もヴィクラムと仲良くコンビ組んでたそうな……集中力が30分前後で切れるらしいけど。

 お話は、冒頭チェンナイ郊外で置き去りにされるクリシュナとアヌーとの噛み合わない出会いを、時にサスペンス風に時にコメディ的に描いて始まり、映画前半はニラーの成長劇を牧歌的なウーティーの風景を背景にして、幻想的に描いていく。
 後半は、別れ別れになった父娘の絆の強さを描きながらも、クリシュナに降り掛かる厳しい現実や、アヌーたちの裁判での活躍、クリシュナの無垢さがもたらす人間讃歌の美しさも表現していく。
 劇中、数回繰り返される父娘のダンスを通した会話「Life Is Beautiful」のシーンは、シーンごとにそこに込められた意味合いが進化していき、最後は涙無しには見られないほどに昇華していく。父と娘であり、同世代の友達でもあり、母と息子でもあるクリシュナとニラーの絆の強さ・それぞれのシーンでの関係性の変化がハッキリと表現されているくだりは、本当にスンバラしい! シュエータとニラーの会話が終始噛み合わないままであるのに比べ、父子の間でかわされるダンスを通した関係性の強さは映像であるからこそ生み出せる 歌と踊りを通した生命讃歌の表現の到達点の1つでもある! …かもしれない(*2)。
 ラストの裁判の決着の付け方、最終的な問題解決のありかたも、ほろ苦く印象的。このあたり、メルヘン的な美しい映画前半との対比にもなっていて演出面も秀逸すぎる!

 脇を固めるアヌー役のアヌーシュカ、シュエータ役のアマラ・ポール、ヴィノード役のサンタナム(この人、日本公開された「ロボット」にも出演してたネ)、ラージェンドラン氏役のサチン・ケーデーカルの演技もスンバラし。特にアマラ・ポールのスネた顔がエエの〜。


挿入歌 Kadha Solla Poren (物語の語り手のように)

*小学校の創立記念イベントの出し物をどうしようか悩んでいたニラーは、シュエータから「詩かお話の暗唱がいいんじゃない?」と言われ、周りの人たちになにかネタになるお話をしてくれとせがむ。それを聞いたクリシュナは「もちろん、お父さんはいっぱいお話を知っているんだ」と友達の協力のもと即興で話を作ろうとするが…。



受賞歴
2011 Vijay Awards 男優賞(ヴィクラム)・特別審査員賞(ベイビー サラ)・ヒロイン賞(アヌーシュカ・シェッティ)
2012 大阪アジアン映画祭 グランプリ・ABC賞
Jaya Awards 男優賞(ヴィクラム)・優秀女優賞(アヌーシュカ・シェッティ)・アイコン女優・オブ・ジ・イヤー賞(アマラ・ポール)・優秀監督賞・子役賞(ベイビー サラ)・作詞賞
Vikatan Awards 男優賞(ヴィクラム)・コメディアン賞(サンタナム)・子役賞(ベイビー サラ)
SIIMA Awards 特別男優賞(ヴィクラム)

2012.7.13.
2013.11.16.追記
2014.2.1追記

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*1 語彙・文法から北インドと南インドでは全く異なる言語体系を持っている。ま、サンスクリットの影響は南北どちらにも及んでるそうですが…。

*2 ヴィクラム曰く、インドの生活文化でなくてはならないものは"歌"である、とのことだけど。