インド映画夜話

ダルバール 復讐人 (Darbar) 2020年 158分(150分とも)
主演 ラジニカーント & ナヤンターラー & ニヴェーダ・トーマス
監督/脚本/原案/台詞 A.R. ムルガドス
"悪人は、俺が裁く!"




 ムンバイ市警察長官アーディティヤ・アルナーチャラムによる、市内ギャングへの私刑にも似た連続殺害事件が、今日も次々に発生する。
 あまりに凄惨な捜査方法を咎めるために来た国家人権委員会は、アーディティヤ指揮のもとに統率されたムンバイ市警察全員の力で追い返されてしまった。昔の公明正大だった頃の彼を知る委員は、ムンバイ赴任頃の彼から何が変わったのかを推し量るが…

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 18年前。多数の犠牲を出したムンバイ麻薬王の逮捕失敗は、ムンバイ警察の権威を失墜させた。それから警察は失地回復できないまま、ムンバイは麻薬と女性売買の温床となってしまう。
 それから17年が経ち、ムンバイの麻薬一掃のためにムンバイ市警察長官に任命されたアーディティヤは、娘ヴァッリ(本名ヴァリッカヌー)と共にムンバイに入り、その日に起きた州副首相の娘誘拐事件を知ると、数日のうちにムンバイ周辺の麻薬・人身売買組織を一掃して被害女性たちを救出してしまう。その主犯であるアジェイ・マルホートラの脱獄を阻止して計略の元に殺してしまい、その背後で全てを操るヴィノード・マルホートラ一味を一網打尽にするが、さらにその裏で暗躍する麻薬王が彼を標的にして動き出す…!!


挿入歌 Chumma Kizhi (やってやれ!)


 タイトルは、タミル語(*1)で「裁判の間」「謁見の間」だとか。
 2001年の「Dheena」での監督デビュー以降、数々のヒット作を生み出して言ったムルガドス監督が"スーパースター"ラジニカーントを初めて主演に迎えた、13本目の監督作。ラジニカーント主演作中最高売上を記録した大ヒット作。

 インドより1日早くフランス、米国で公開が始まり、インドと同日公開でデンマーク、シンガポールでも公開されたよう。
 日本では、2020年に東京は池袋にてindoeiga.com主催の自主上映で英語字幕版が初上陸。翌2021年に東京と福岡で日本語字幕版が期間限定公開されて、DVD発売。2022年にはWOWOWシネマでも放送。

 無法地帯化した大都市を舞台に、その機能しない公権力に変わって庶民の敵に鉄槌を下す復讐の鬼が暴れまわるマサーラー・リベンジ・ムービー大作!
 現場で鍛えたムルガドス監督流の、アクションへの積み重ねが爽快感を生む怒涛の演出の数々はとにかくカッコいい。そこにプラスされるラジニ映画スタイルのコテコテさとの相乗効果で、物語はいやが上にも盛り上がりまする。アニルド・ラヴィチャンデルのノリノリの音楽もあって、ふてぶてしい登場人物たちの意味ありげな眼光1つとっても絵になるパワフルさ。イイネ!

 主人公の名前アーディティヤ・アルナーチャラムとは、監督の息子の名前と父親の名前をつなげたものだそうで、ムルガドス監督の父子3代の結束をラジニに捧げた覚悟を表す表現でありましょうか(*2)。有名人"A・R・ラフマーン"の名前にあやかった風な監督のクレジット"A. R. ムルガドス"の"A. R."は父称名アルナーチャラム(アルナーサラム?)の頭2文字から来てるそうなので、主人公もその気になれば"A. R. アーディティヤ"とか名乗る事も可能な…のかな?

 同じムルガドス監督による大ヒット作「Ghajini(ガジニー)」にも出演しているナヤンターラーが、その時のセカンドヒロイン役に不満で「出なきゃよかった」と言ったとか言わないとかいう情報がありましたけど、満を持しての本作で2度目のムルガドス監督作出演でその美貌とスタイリッシュさを披露させつつも、扱いとしてはある程度ロマンス劇の相手役という比重はあっても「Ghajini」の頃とあんま差がないような…気もしないような。うん。
 どちらかというとメインヒロインは、主人公の娘ヴァッリを演じていたニヴェーダ・トーマスの方。善悪双方で「家族の結びつき」が強調される本作において、冒頭から悲劇が約束されてる主人公の娘と言う立ち位置をしっかりアピールし、主人公の戦う理由をナヤンターラー演じる恋のお相手リリィ以上に演じ切っておりました。こう言う主役大活躍系リベンジムービーでよくあるヒロインの使い捨て感も薄く、しっかり主人公の人生を左右させていくキャラクターとしての強さをきっちり魅せていくヴァッリの存在感は、なにをおいても本作の魅力でありますことよ(*3)。

 マフィア撲滅のためには手段もを選ばないワルぶる不良警官と、ムンバイ裏社会を牛耳る麻薬・売春業の総元締めの徹底的なワルであるマフィアボス。
 お互い、完全に法律・人権無視のえげつない手法によって相手を出し抜く丁々発止を行いながら、その争いの激化で大事な子供を失う悲劇を迎えてしまうのは、誰が仕掛けた罠なのか…。因果応報というには、その襲いくる悲劇性も半端なさすぎ(*4)。悲劇にすればいいってもんじゃないよ、とも思いつつ、それでもこの悲劇を招くマフィア抗争の連鎖を憂う感情の渦の爆発具合はヤッパリ見てるこちら側をざわつかせ、燃え上がらせ、カタルシスシーンへの爆発へとノセていく。その襲い来る色々な感情の爆発具合のバラエティ具合こそ、ラジニ映画の真骨頂であり、ムルガドス監督作の得意技でありましょうか!

挿入歌 Dumm Dumm (太鼓に合わせて)



「Darbar」を一言で斬る!
・アーディティヤに協力するタイ警察に、犯人確保してすぐラジニの決めポーズサングラスかけをさせる演出のしてやったり感がFUUUUUUUUU-----!!!

2021.11.27.

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*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*2 超どーでもいい深読み。ま、そのわりに主人公の家族関連はやたら血なまぐさいお話だけど。
*3 そのために、ナヤンターラー演じるリリィの扱いの雑さがより気になるっちゃなりますが。
*4 ややハッタリが暴走気味なのはまあ、いつも通りって事ですかね…。