インド映画夜話

マッキー (Eega) 2012年 125分(南インド公開版は134分)
主演 ハエ(CG) & キッチャ・スディープ & サマンタ
監督/脚本 S・S・ラージャマウリ
"ハエになっても、キミを守る!"






「ねえねえ、もっと面白い話を聞かせて。今まで聞いたことないような」
「…うーん。じゃあ今日は、ハエにまつわるお話をしよう。スディープと言う男がいてね…」

 悪徳建設会社社長のスディープは「オレにかかれば、なびかない女はいない」と豪語するほどの女たらし。今日も仕事より女を口説く事を楽しむ伊達男。彼の意に最後まで従わなかったのは、ただ亡き妻のみ…。

 スディープがその日目をつけたのは、NGO団体所属のマイクロアーティスト ビンドゥ。
 彼女の運営する障害者支援活動への寄付金をエサに、ビンドゥをモノにしようとするスディープだったが、ビンドゥのそばには彼女を追いかける近所の男ジャニの姿が…!

 2年以上もジャニのアプローチを無視し続けながらもまんざらではないビンドゥは、残業で遅くなった晩に初めてジャニを呼び出して家まで送ってもらおうとする。2人での帰路途中のジャニの猛烈なアプローチでついに心が通じたかに見えたその時、スディープがジャニを拉致し、ビンドゥをモノにするのに邪魔な彼をリンチの末に殺してしまう!!
 ジャニの最後の言葉は…「お前みたいなヤツが、ビンドゥに近づくな…近づけばお前を殺す!!」
 怨みの言葉を残して死んだジャニの魂は、そのまま近くのハエの卵(さなぎ?)へと転生して…!!


挿入歌 My Name Is Nani



  原題「Eega」の意味は、テルグ語(南インド アーンドラ・プラデーシュ州の公用語)で「蝿」。
 タミル語吹替版「Naan Ee(僕は蝿)」、マラヤーラム語吹替版「Eacha(蝿)」も同時公開された、トリウッド(=テルグ語娯楽映画界)史上最高ヒットを叩き出した大傑作!!(*1)

 殺された男が、蝿に転生して復讐する! …と言うトンデモ展開で話題をさらった復讐劇。大ヒットの波にのってヒンディー語吹替版「Makkhi」(ヒンディー語で「蝿」の意)も公開され、これが2013年に日本で「マッキー」のタイトルで一般公開! 公開に先立って、第6回したまちコメディ映画祭in台東では不忍池水上音楽堂での屋外上映、東京国際映画祭でも特別招待作品として上映。翌2014年には、沖縄国際映画祭でも上映された。
 南インド各言語版は、テルグ語圏とタミル語圏のコメディアンによるコントシーンがあるんだけれど、ヒンディー語版「マッキー」はこのシーンがカットされて代わりにダンスシーンが追加されている(なので、日本公開版は短縮版なのではなく、ヒンディー語版そのままなわけです)。さらに、オリジナルのテルグ語版に出演してたコメディアン タグボーシュ・ラメーシュ担当のシーンが、タミル語版・マラヤーラム語版ではサンタナムに代えられてるってのも、インド映画界のややこしい所。あぅ。

 もう、全編「その発想はなかった!」の連続の特撮アクション・ロマンス・ファンタジー。
 序盤のツンデレ(すぎ?)ヒロインを巡る3角関係ラブコメも、展開が駆け足ながらツボを心得た演出で飽きさせないけど(*2)、ハエ誕生以降からは拍手喝采満足度360%特撮活劇の数々でモーマンタイ!「飽きさせない」どころの話じゃおまへんでお客はん!!
 次々とあの手この手の危機に次ぐ危機をかいくぐり、1匹のハエがどんどん人間を追い込んでいくホラー&コメディ調なシークエンスの数々は「隠し砦の三悪人」を軽く越えるハンパないアイディアの洪水。

 引っ掻こうが突撃していこうが、ちっさいハエでは人間一人の気を引く事も出来ない所から、だんだんと日常空間に潜む凶悪な殺し屋に変わっていく恐ろしさと面白さは、「グレムリン」や「サイコ」にも似た雰囲気と緊迫感。「ウルトラQ」とかにも、人間が怪獣扱いされる話とかあったなぁ…。本作では、最初怪獣の立場にいる人間が、いつの間にやらハエと言うミクロな怪獣に脅かされていく、映画上の立場逆転具合も見所。
 気色悪いリアルなハエのCGが、見ているうちに段々といじらしくカッコよく、健気に見えて来るから不思議。史上最もハエを応援したくなる映画であるし、史上最もハエとデートするヒロインが可愛く見えるオソロシイ映画でもある。ハエの目から見た人間世界のデカさと縦横無尽な空間描写、人間の目から見たハエの神出鬼没さとウザさの対比表現も要チェッッッック!!

 憎々しげに登場する悪役スディープを演じるのは、カンナダ語(南インド カルナータカ州の公用語)映画界を中心に活躍する俳優兼監督兼プロデューサー兼脚本家兼歌手でもあるキッチャ・スディープ。カンナダ語映画を中心に、ボリウッド(=ヒンディー語映画)・コリウッド(=タミル語映画)・トリウッド(=テルグ語映画)でも大活躍中。本作で悪役賞と助演男優賞(…ってことは、主演はやっぱり"ハエ"なのね)を受賞してますが、オープニングクレジットでキャストの中では唯一名前が出て来るのはスディープ様だけですからぁぁぁぁぁぁ!!!!!
 命を狙うハエのさまざまな攻撃に翻弄される様は、コミカルすぎて大爆笑。その追い込まれ方を見てるとだんだん可哀想にも見えて来るんだけど、そう思い始めた途端に凶悪シーンや残虐な対抗作を編み出してくるあたり、ハエにまったく負けておりませぬ。ホント、気持ちよさそにめいっぱい悪役&やられ役を演じきっております。裏主人公どころか、堂々と主人公の立ち位置にいましたゼ!!!!!

 なんでも、続編企画を考案中だとかなんとかで。…それは……面白そうだなぁ…w(一発ネタって気はするけど)

 私は最初に、したコメ屋外上映で見てましたが、周りの皆様が爆笑しつつ「虫に喰われたー」「蚊にやられたー」と言っていた中で全く無傷で楽しんでましたゼ!! フッ…普段から怨みを買わないようにこっそり生きて来た甲斐がここに!!


挿入歌 Konchem Konchem




受賞歴
2012 National Film Awards 注目テルグ映画賞・特殊効果賞(マクタVFX)
2012 B. Nagi Reddy Award 驚異的エンターテインメントテルグ映画賞
2012 TSR - TV9 National Film Awards 女優賞(サマンタ)
2012 Mirchi Music Awards South 音響ミキシング賞(ジーヴァン・バブー/Nene Nani Ne)
2013 South Indian International Movie Awards 作品賞・撮影賞(K・K・センティル・クマール)・悪役賞(スディープ)
2013 CineMAA Awards ファミリー・エンターテインメント・オブ・ジ・イヤー賞・主演女優賞・悪役賞(スディープ)・視覚効果賞(マクタVFX)
2013 Filmfare Awards South 作品賞・監督賞・主演女優賞・助演男優賞(スディープ)・特殊効果賞(マクタVFX)
2013 Fantaspoa Film Festival 美術監督賞(ラヴィンデル・レッディ)
2013 Santosham Film Awards 主演女優賞
2013 カナダ Tronto After Dark Film Festival アクション映画賞・コメディ賞・オリジナル映画賞・特殊効果賞・戦闘シーン賞(ハエvsスディープ)・観客賞・編集賞・悪役賞・ヒーロー賞(ハエ/ジャニ)




「マッキー」を一言で斬る!
・ところで、ハエの睡眠時間ってどれくらいなの?

2013.10.19.
2013.11.9.追記
2014.3.25.追記

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*1 その他、タイ語吹替版、中国語吹替版「Kung Fu Housefly」を始め、ブラジルやスペインの映画祭などでも公開され、世界中で大好評!!
*2 2人で食べるべき"ギリシャ伝統のメニュー"がなんなのか気になるっちゃなりますが…。