フライング・ジャット (A Flying Jatt) 2016年 151分
主演 タイガー・シュロフ & ジャクリーン・フェルナンデス & ネイサン・ジョーンズ
監督/脚本/原案 レーモー・デソンザ
"空飛ぶジャットが、きっともっとトバしてくれるよ!"
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パンジャーブ州の湖岸に工場を建てたビジネスマン マルホートラ氏は、運搬の短縮化のために橋の建設を計画していたが、計画の該当地区にあるシーク教の聖樹を囲む住宅地を管理するディロン夫人の強烈な反対に遭い、計画を進めることができないでいた。
勇敢なるディロン夫人に対して気弱な息子の武術教師アマン・ディロンは、英雄と謳われる亡き父と比べられることを嫌い、シーク教徒の伝統にも反発気味。富豪のマルホートラ氏に逆らう母を、兄ローヒトとともに心配する毎日を送っていた。
そんな中、マルホートラ氏に雇われた巨漢の外国人ラカが件の聖樹を切り倒しに来た事を目撃したアマンは、彼を止めようとする中で聖樹の記されている聖痕を背中に刻まれ、突如落ちて来た雷によってラカをなんとか吹っ飛ばすことに成功する。
翌日、気絶から目が覚めたアマンは、聖樹に届く人々の声に悩まされながら不思議な能力を開花させていた。彼は、触れた道具を完璧に使いこなし、常人を超える身体能力を発揮し、銃撃されても痛みすら感じないで回復する身体になって、空を飛ぶ力(約2〜5mくらいの低空飛行)を発揮するヒーローになっていたのだ!!
挿入歌 Beat Pe Booty (お尻を振れ!)
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パンジャーブ州を舞台にした、ヒンディー語(*1)スーパーヒーロー映画。
そのタイトルは、劇中に主人公の父親の称号として説明が入るけど、メダリスト短距離走者ミルカ・シンの称号「フライング・シーク」あたりをアレンジしたネーミング…なのかなあどうかなあ。
インド本国では、8月のクリシュナ生誕祭であるジャンマシュタミ祭に公開スタート。
日本では、同じ2016年に英語字幕版で自主上映され、2019年にはIMW(インディアン・ムービー・ウィーク)にて日本語字幕版が初上映。同年に東京で1週間限定公開されている他、2021年のIMW(インディアン・ムービー・ウィーク)パート3でも上映。
期待の大型新人タイガー・シュロフ主演作であるにもかかわらず、ある程度子供をターゲットとして作っているせいか、インド本国では軒並み低評価ばかりが目立つ結果となったものの、日本で上映されるや本国評価とは真逆に傑作との呼び声高い人気作となっている。
リティック主演のスーパーヒーロー映画である06年の「クリッシュ 仮面のヒーロー (Krrish)」に続いて、それを意識したかのようなスタイルのパンジャーブヒーローの登場は、ヒーローものの王道を押さえつつも「家族愛」を中心にした泣かせポイントもあり、ヒーローになりきれない主人公のトホホ具合が楽しいコメディもあり、環境破壊の権化となって襲ってくる悪役とのバトルもありで、軽快なテンポでありながらボリューミーな内容となっておりました。
ヒーローパワーに目覚めるまでの因縁をじっくり描きながら、ディロン一家の和気あいあいぶりを同時に見せていき、母親の手作りでヒーロースーツが出来あがったり、替え玉で一般人でしかない兄が弟のためにヒーローを無理に演じたりと、家内制手工業系ヒーローの活躍がコミカルかつエモーショナルでスンバラしく印象的。家族が一丸となってヒーローを作っていく所を、家族や隣近所を守るために働くヒーローの活躍で同時並行に描いていくあたりに、インド的愛郷心や民族愛も表現され、インド的ヒーローの感覚も見えてくるよう。やっぱ、無理に最初から地球や人類全部を救おうとしないで、周りの大事な人々を救うヒーローの方が身近に感じられるってことですかね。家族のヒーローが町のヒーローとなり、ついには宇宙にまで行ってしまう、その成長具合と舞台の進化具合も熱いぞっと!
主役フライング・ジャットことアマンを演じるのは、1990年マハラーシュトラ州ムンバイ生まれのタイガー・シュロフ(生誕名ジャイ・へーマント・シュロフ)。
父親は名優ジャッキー・シュロフで、母親はモデル兼映画プロデューサー兼女優のアイーシャ・シュロフ(旧姓ダット)になる。
ムンバイのアメリカン・スクールに通いつつ、ダンスとテコンドーを学び、14年のヒンディー語映画「ヒーロー気取り(Heropanti)」で"タイガー・シュロフ"の芸名で映画&主演デビュー。その演技について賛否両論を呼びながら、IIFA(国際インド映画協会賞)の男優デビュー・オブ・ジ・イヤー賞をはじめ数々の新人男優賞を獲得する。続いて、本作と同年公開の「Baaghi(反抗)」でシャラッダー・カプールと共演(*2)、その続編となる18年の主演作「タイガー・バレット(Baaghi 2)」は日本でもDVD発売されている。
宿敵ラカを演じたのは、1969年オーストラリアはクイーンズランド州ゴールドコーストに生まれた、元プロレスラーで総合格闘家のネイサン・ジョーンズ。
強盗で逮捕されて服役している間にパワーリフティングをはじめ、出所した後にパワーリフティングのオーストラリアチャンプとなる。97年に来日してPRIDE旗揚げ戦に参加して総合格闘家デビューし、ボディーガードやプロレスラーとしても活躍。
その中で、96年の香港映画「ファイナル・プロジェクト(Police Story 4: First Strike)」に端役出演して映画デビュー。97年の「Doom Runners」でオーストラリア映画に、04年の「トロイ(Troy)」でハリウッド映画に、05年には「トム・ヤム・クン(Tom-Yum-Goong)」でタイ映画その他にもデビューもしていて、15年のタミル語映画「Bhooloham(地球)」でインド映画デビュー。本作が、インド映画では2本目の出演作となる。
相変わらず、目元を隠すマスク1つで家族以外の人たちに気づかれないヒーローが「なんでだよ!」ってノリも楽しいわけですが、より楽しいのはやっぱ主役アマンのヘタレ具合がいい具合にヒーロー像と対比されて描かれる所と、それを支え合い邪魔し合う家族(*3)の調子の良さと家族愛を歌い上げる啖呵の心地よさでありましょうか。
すべてのものが止まって見える超スピードの世界で、飛び散ったミルク(?)を舐めながらスライディングするアマンのおとぼけ具合もナイスであります。不審者に間違われて一般人や犬に撃退されるヒーローが、最終的には父母の意思を継いでシークの伝統と強さを背負って立ち上がる、王道中の王道展開のなんと胸熱なことか。史上最もカッコいいターバンをかぶるシーンを拝める映画でありますわ。
その家族愛、母性愛、子供に継承されるヒロイズム、シークの伝説を説明するアニメーション、1つの街だけで展開する小規模な展開なんかがインド本国では「子供向け」と判断されてしまったのかもしれないけど、日本の特撮ヒーローものに通じるご町内ヒーローや家族ヒーローの王道が、インドでこんな形で現れてきたことは要チェックでありまっせ! できれば続編でジャクリーンのスーツヒロイン像を拝みたいからみんなで応援しよーぜー!(下心満々
プロモ映像 Raj Karega Khalsa (純心こそが全てを打ち負かす)
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*わりとネタバレ注意。
「Raj Karega Khalsa」とはシーク教におけるスローガンの1つで、「カールサは規範」として儀式の最後の文句として唱えられるフレーズだと言う。そのシークの一体化をうながす文句ゆえに、植民地時代にはイギリス当局によって使用禁止になっていたこともあったとか。
受賞歴
2016 Nickelodeon Kids’ Choice Awards 人気ダンス・スター賞(タイガー・シュロフ / 【Baaghi】に対しても)
Zee Cine Awards ダンス賞(タイガー・シュロフ / Beat Pe Booty)
「フライング・ジャット」を一言で斬る!
・最後の対決場所となる、日の出ならぬ大きな地球の出が見える衛星(?)は月ではなさそうだけど、どこにある設定なんだろう…?
2019.12.13.
2021.11.26.追記
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